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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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理由はわからない

 ―――オゾン(ギルマス)視点―――


「冒険者の情報ですか?」


「ええ。急ぎで必要でしてね」


 目の前に居るのは、受付でいきなり「至急ギルマスに継いでください」と言った男。

 忙しいギルドマスターを呼び出すなんて、余程の大事なのだろう。

 ……まぁこのギルドに限ってはそんなに珍しい事でもないのだが。


「冒険者の情報開示となると、貴族の方でもない限り応えかねますので――」


「これで問題ないでしょう?」


 そう言って男が取り出した杖は――


「王家の紋章……!」


 杖の先端には精巧に彫られたオーケストラのレリーフ。

 それは王族の者が、信頼できる家臣にだけ持たせる物だ。


「アカリと言う冒険者についての情報を渡して下さい」


「王族の方が、何故そんな事を……」


「貴方にそれを知る権利はありません」


 向こうに事情を説明する義務は無く、有るのは此方が話す義務だけだ。


(アカリねぇ……あ!あの子か)


 思い出した。昨日私が登録を担当した兄妹の妹の方の名だ。

 なかなか個性の強い二人だったので印象には残っている。


「昨日登録したばかりの女の子ですね。

 目は黒く――」


「いえ、容姿はわかっています。

 実力や人柄が知りたいんです」


「そうですねぇ……実力はBランクパーティから高評価を受ける程ですが、殺しは未経験で未熟な感じはしましたね。

 兄のクラウスとも仲が良く――」


「待って下さい、兄が居るんですか?」


「ええ。クラウスと言って、腕も確かで頭も回るそうです。

 あと、モノクルをして白衣を着てるので目立ちます」


「なんですかその怪しい風体は……」


 冒険者の格好など千差万別だが、その中でもクラウスは異質だ。

 防具などは一切装備せず、返り血や汚れが付いたら目立つ白を着ている者なんて他には居ない。


「怪しいですが、過保護なくらい妹思いな人ですよ」


 魔力登録の出血一つで大袈裟に心配していた様子はよく覚えている。


「情報、助かりました」


「いえいえ、仕事ですので」


 通常、貴族が絡むと時間を取られて業務が遅れがちになるが、この王家の遣いの方は対応も丁寧で、早く済む話で助かった。

 これで私も業務に戻れると、椅子から立ち上がろうとした瞬間に呼び止められる。


「それと、もう一つ頼みたい仕事があるのですが」


 私の残業が確定した瞬間であった。



 ―――クラウス視点―――


 査定も終わったので《不屈の闘志》と別れ宿へと帰る。


 ゴーン!と午後五時を知らせる鐘が鳴った。

 予想よりは早く帰ってこれたが、アカリは宿に居るだろうか。


(まさか外に出て騒ぎを起こしたりしてないよな……)


 だが、俺の予感は少し外れた様だ。

 帰ってみれば、宿の中が騒がしいのだ。


(いや、まだアカリが何かしたと決めつけるには早い……)


 受付をしている女に何の騒ぎか尋ねる。


「何かあったのか?」


「あ、ベッド持ち込みのお兄さん」


 嫌な覚え方をされているが、今はそれよりも気になる事がある。


「……とりあえず、何の騒ぎか聞いても良いか?」


「あ、あの領兵の方が来て、お連れ様を――」


 そこまで聞くと、俺は慌てて階段を駆け上がる。

 やっぱり何かやらかしていたのだ。


「アカリ!」


 勢い良く扉を開けると、何事かと此方に視線を向ける()()

 一人は明で、一人は領兵だ。だが残りは違う。


「……アカリ、その子供達は何だ?」


「えっと……ちょっと仲良くなって……」


 目を逸らしながら答えるアカリ。

 こいつは実にわかりやすい。


「あの!アカリお姉ちゃんは悪く無いんです!

 私達は助けてもらっただけで!」


「そうよ」


 必死に弁明する者と、やけに落ち着いている者。

 どちらも頭から耳が生えている。獣人の子供か。


「ふぅん……「()()()()()」ねぇ……」


 アカリは口笛を吹いて誤魔化して居るが、「助ける」なんて言葉が出てくるのは危険な事に首を突っ込んだ動かぬ証拠だ。


「……じゃあ、その領兵が来た理由は?」


「ちょっとした用事で――」


「いや、領主様から直々のお呼び出しだぞ!

 大事も大事だからな?」


 口の中が乾いてきたのか、誤魔化しの口笛も掠れ気味だ。


 どうしたら、たった九時間でここまで大きな面倒事を作り出せるのか。


「……よし、わかった。

 アカリ、今日の出来事を一から全部話せ」


「ぜ、全部?」


「全部だ」


 そうして、アカリは今日一日の街での出来事を語りだした。

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