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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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遅いな一秒

 ―――クラウス視点―――


 森を抜け草原をひた走る。


「なんで態々アイツらの得意な場所を選んだんだい!」


 リリから文句が出るが、ツーカーチーターは言葉を理解出来る知能を持っている為、俺はそれに答えられない。

 それはリリも解っている筈なので、まぁ愚痴みたいなものだろう。


 だが、確かに草原を出てからツーカーチーター達の速度が増している。

 俺が全速力で走れば追い付かれる事はないが、リリのペースに合わせていては追い付かれてしまう。


「このままじゃ追い付かれるから、お前を抱えて走るぞ」


 返事を聞くよりも早くひょいと持ち上げ、俺は速度を上げる。


「か、抱えるにしても他にあっただろう!

 アタイはお姫様抱っこだなんてガラじゃないよ!」


 アカリはこの抱え方の方が気に入ってたが、どうやらリリは違うらしい。

 だが、抱え方に拘っている場合でもない。今回は我慢してもらおう。


「確かにお前に姫なんてのは似合わないが、このままで行くぞ」


「アンタ、一回張っ倒そうかい?」


 肯定したのに何故怒られているんだ。



『探知』を使い、他の冒険者や一般市民を巻き込まないルートを選ぶ。

 だが、チーターの最高時速は凄まじく、そんな事をしていれば追い付かれる。

 だから、魔法での妨害だ。


『草刈!』


 これは昨日の香草採集でも使用した空間魔法と粉砕魔法の複合技。視認した草を根を残さない様に土ごと回収する魔法だが、今回はツーカーチーターが来る位置に穴を開ける為だけに使用する。


 只の穴にそう簡単には嵌まってくれはしない。見てから避ければ良いだけなのだから。

 だが、加速している時は別だ。穴を認識した所で、慣性が働いている体は急には動きを変えられない。

 それを理解しているツーカーチーターに何回か穴を見せてやれば、奴等は迂闊に加速出来なくなる。


 逃げるだけならこれで完璧だが任務は討伐だ。時間も調整出来たし、先程街が見えた事で()()も目視で確認した。

 そろそろ攻めに転じるとするか。


「俺の合図に合わせて攻撃だ」


「あいよ」


 リリを下ろし、そのまま臨戦態勢に入る。

 突然、俺達が足を止めた事で、ツーカーチーター達も警戒している。


「3……2……」


 俺がカウントを始めた事で、何かアクションを起こそうとしている事を理解したツーカーチーター達が妨害しようと動き出す。



 だが、その判断はあと一秒遅かった。



「1……」


 チーターの加速は確かに速い。だが俺達の間には、まだ残り一秒では詰めきれない程の距離がある。

 俺の『草刈』を警戒して慎重になりすぎてたな。


 極めて小さな『ゲート』を作り、街のある一点と繋げる。

 必要なのは()が通れる道ではなく、()が通れる小さな道。


「0!」


 カチリと()()が真上に到達する。



 ゴーン!



 まるで()()()()()()()()かの様な、大音量の鐘の音が草原に響く。

 しかも只の音じゃない。魔物が苦手とするヒヒイロカネの音だ。

 当然、ツーカーチーターは攻撃どころではない。


 そして、構えていた俺達もその隙を逃す訳がない。

 俺の熱したムラマサが一匹の首を切り落とし、リリの伸ばしたハンマーがもう一匹の頭を砕いた。


「上手くいったな」


 アカの攻撃を参考にしたものだったが、なかなか綺麗に決まった。

 只、あいつと違って音を閉じ込められない為、俺達も大音量を直に聞いたので耳が痛い。


「何だい、今のは。まだ頭がグワングワンするよ」


 空間魔法については隠す方向なのでリリには説明できないが、この場所と街の鐘塔を鐘が鳴る瞬間に繋げただけの事だ。


「悪かったな。ツーカーチーターは取り敢えず、適当に俺のマジックバッグに入れて、集合場所に向かおう」


「アンタ本当に便利だね……」


「うるせぇよ」



 ――――――



 集合場所でリリと暫く待っていると、血だらけのヴェル達がフラフラと歩いてきた。

 何かあったのかと俺が動こうとするのを、リリが手で制する。


「安心しな。ありゃ返り血だよ」


 得意の嗅覚で血の臭いを嗅ぎ分けたのだろう。リリは呆れた様に溜め息を吐く。

 フラフラしているのも、単に疲労の様だ。


「いや~悪ぃ悪ぃ。遅くなっちまったな」


「別に遅くなった事自体は構いやしないよ。

 で、その理由は?」


「残った罠の撤去とかしてたら、血の臭いを嗅ぎ付けた魔物がワラワラやってきて……な」


 魔物の多くは肉食だ。血の臭いを漂わせてたら寄ってくるに決まっている。


「そんな初歩的なミスする奴があるかい」


「いや、ちゃんと死体の後始末はしてから撤去を始めてたんだけどよ。

 その……後始末の前にちょっと休憩してたのがいけなかったみたいで……」


「阿呆かい!」


 ヴェルがリリに怒られている中、ピートは息を潜めて門へと向かい――


「……ピート、何処に行くんだい?」


「!……すまないリリ。

 今はこの血を洗い流したいから、説教はまた後で聞く!」


「あ、ずりぃぞ!じゃあ俺も!」


「二人とも待ちな!」


「おい、俺だけ置いていくな!」


 走りながら街へと帰っていく《不屈の闘志》を追いかけて、俺も街へと戻るのであった。




 俺が離れてる間に、街で何が起きてたのかも知らずに……

書き溜めが減る一方なので、暫くは隔日更新にします。

次回は明後日。よろしくお願いします。

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