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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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足りない者の役割

 ―――クラウス視点―――


()()と言えば()()」が名前の由来であるツーカーチーターは、共感魔法を有しているマーダーチーターの変異種だ。


「共感魔法は全ての感覚を、生まれつきのパートナーと共有する魔法だ。

 背中からの攻撃を避けたられたのは、パートナーの視覚には攻撃が映っていたからだろう」


「じゃあなんだい。こいつらは四つ子って事かい?」



「いや、僕の矢で苦しんだのは()()だった。

 これは二組の双子と考えるのが妥当だろう」


 ピートとヴェルも此方に合流し、四人で陣形を組む。


「兄ちゃんと組むと、どうしてこうも異常に遭遇するんだろうな」


「俺のせいにするな」



 奴等は再び死角からの不意打ちを警戒している為、作戦を立て直すなら今のうちだろう。


「どうするピート?向こうも連携を取ってくるとなると厄介だぜ」


「分断さえ出来れば、普通のマーダーチーターと変わらない。

 四方に散って一人一殺でやれば――」


「無茶言うんじゃないよ!あれ相手に一人で戦うなんてアタイは無理だよ」


 リリの戦い方は、盾で攻撃を受け止める前提のものだ。

 盾をも真っ二つに出来る切断魔法が相手では、かなり分が悪い。


「お前ら、()()()()()で二匹は仕留められるか?」


 俺は、離れて準備を担当していたピートとヴェルに問う。


「ああ。上手くやれば可能だ」


「だったら俺の方にも策はある。ここはピートとヴェル、俺とリリで二手に別れるとしよう」


 周囲を警戒していた奴等も、他に潜んでいる人が居ない事に気付き始めた。

 これ以上、呑気に会議している時間はない。


「よし、わかった。

 終わったら森の入り口で落ち合おう」


 俺達は頷き合うと、互いに背を向け走り出した。



 ―――ヴェル視点―――


 森の中をひたすらに駆ける。

 後ろから追いかけて来るのは、俺らを一撃で真っ二つに出来る爪を持つ魔物。


「ヴェル、大丈夫か?」


「なんとか……な」


 身体魔法が苦手な俺は走るので精一杯だ。

 気を抜けば足がもつれかねない。

 そんな状態でもまだ捕まってない理由は一つ。

 奴等が狩りを楽しんでいるからだ。


 必死に逃げる獲物を(わざ)と泳がせ、疲れきった所で甚振って殺す。反吐が出る様な習性をしてやがる。

 だが、その強者故の驕りこそが付け入る隙。奴等の最大の弱点って訳だ。



 ―――ピート視点―――


 息を切らした僕達は、膝に手を付いて止まる。

 ツーカーチーター達は、無力な僕達を嘲笑う様にゆっくりと近付いてくるが、それを許す程は鈍っちゃいない。

 ナイフを投げる事で、奴等の動きを牽制する。

 まだ諦めてない僕達が気に食わないのか、奴等は一撃で仕留める為に体を縮める。飛び掛かりの準備だ。


 僕にはリリの様な力強さも、ヴェルの様な魔法もない。

 ヴェルも疲労しきってる今、その攻撃を未然に防ぐ事は出来ない。


 だが、そんな必要は全くない。


 飛び掛かってきた奴の爪を、ギリギリで横っ飛びをする事により(かわ)す。

 ヴェルも僕も、上手い受け身はとれなかったが問題はない。


 もう次の攻撃などさせないのだから。


 一匹が落ち葉の上に着地した事で、その中に隠された仕掛けが起動する。

 口が閉じられ、金属の牙が奴の前足に深く食い込む。


「トラバサミは痛いだろう?」


 リリ程の膂力(りょりょく)も、ヴェル程の魔力もない僕が、Bランク冒険者になれた理由。

 リリを守護戦士、ヴェルを魔法使いとするなら、僕の役割は()()だ。


 強烈な痛みに襲われたツーカーチーターはトラバサミを壊そうと暴れる。

 だが、こんな罠が仕掛けてある場所で大暴れしたら、()が起動するに決まってるじゃないか。


 トラバサミと一緒に糸を切ってしまったツーカーチーターに、毒の矢が襲い掛かる。


「グルォ!?……ゴポァ…………」


 幾らBランクの魔物でも五本も刺されば、この様に泡を吹いて斃れる。



 だが、ツーカーチーターはもう一匹居る。

 少しフラついているが、そこまでダメージまでは通っていない様に見える。トラバサミの痛みを受けた時点で共感魔法を切ったのだろう。


 侮っていた僕達に痛手を負わされた事で憤怒の表情だが、冷静に安全な地面を選んで歩いて近付いてくる。

 もうトラバサミを踏んでくれる事は無さそうだ。

 ヴェルが『ファイアバレット』を放つが、それも正確に躱される。


 だが、それでもまだ詰めが甘い。


「罠のトリガーが下だけだと思ったかい?」



 僕の指摘に振り返った奴が見たのは、ヴェルが放った炎で今にも切れそうな蔦。

 その蔦を辿って木の上を見上げれば、引き絞った弦にセットされた無数の剣。


別の人殺し(盗賊)からのプレゼント(戦利品)だよ」


 一本一本が矢の様な勢いで降り注ぐ剣の雨。

 幾らかは切断魔法で防げても、全ては無理だ。

 一本が胴体に突き刺さると、次々と他の剣もそれに続く。



 そして、真っ赤なハリネズミと化したそれは、自らが作り出した池に倒れ臥した。



「ふぅ……終わった」


 緊張の糸が切れた僕達は、自ら仕掛けた罠を起動しない様に大の字で寝転がり会話を交わす。



「後はリリ達だが、大丈夫かな?」


「兄ちゃんが策はあるって言ってたんだ。

 信じようぜ」

雑補足

・トラバサミ

鋭い牙を持った口みたいな形の罠。現代日本では違法。

一生ものの怪我を負うレベルの威力なので、助けられた鶴が恩を返したくなる気持ちもわかる。

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