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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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不安は尽きない

 ―――クラウス視点―――


 時刻はもうすぐ午前九時。《不屈の闘志》との待ち合わせ時間が迫っている。

 準備はとうに出来ているのに、まだ部屋の扉の前でモタモタしている理由は只一つ。


「いいか、危ない事はするな。

 面倒事には関わるなよ」


「わかってるって、おとん」


「誰がおとんだ!」


 いつも通りのこの調子である。

 こいつは目を離すと直ぐに厄介事に首を突っ込む。


「でも、夜には帰ってこれるんでしょ?

 それくらい大人しく出来るって」


 そう。マーダーチーターの目撃情報があったのは、街から程近い森である。その為、もし依頼が長引いて夜になっても、野宿はせずに一度街に戻る手筈となっている。


 それに懸念していた誘拐事件も、狙われるのは幼い子供だけらしくアカリくらいの年齢ならば平気だろう。

 あと一つ注意しておくとすれば――


「特に痴話喧嘩の仲裁は絶対にやめとけよ」


 こんな注意が必要な人物は、この世でアカリだけだろう。

 下らない理由で()()殺されては洒落にならないからな。


「わかってるって。

 ほら、行ってらっしゃい!」


「……行ってくる」


 不安は尽きないが、時間も迫っている。

 俺は仕方なく宿を後にした。



 ――――――



「遅かったじゃないかい」


 俺が門に着くと《不屈の闘志》が揃って待っていた。

 丁度、九時の鐘が鳴り終わった所だ。遅刻と言う訳でもあるまい。


「お前らが早いんだよ」


「僕達は時計なんて便利な物は持って無いからね。

 だから八の鐘以降は感覚で動くしか無い分、余裕を持って行動しているんだ」


(ほう。時計は高級品だったのか)


 俺が持っている時計は、先代の資料から作った俺の自作だ。

 もしもの時は時計を作れば稼げ……いや、止めておこう。

 高級品と言うことは、この技術だけで生活している者達が居る筈だ。「その人達が可哀想」なんて甘っちょろい事を言うつもりは無いが、目を付けられると面倒だからな。

 只でさえ追われる身なんだ。敵が少ないに越した事はない。


「……と言うか、お前達の稼ぎでも買えない程に高価なのか?」


 《不屈の闘志》はBと言う高ランクの冒険者だ。収入だって、それ相応なものである筈。

 そんなこいつ等ですら手が出せない金額と言うのは、流石にぼったくり過ぎだろう。


「いや、僕らの収入なら買えなくは無いんだけどね……」


 何故か口篭るピート。何か言いづらい事情でもあると言うのか。

 そんなピートに代わってリリとヴェルが答える。


「そんな物を買う金があったら、アタイは鎧や盾を新調するよ」


「俺は酒だな。この街はワインも絶品だって聞くしよ」


 ……なんともこいつ等らしい理由だ。


「持ってても意味が無いとまでは言わないけど、鐘の音さえあれば生活に支障は無いからね」


 成る程。二人はともかくとして、ピートでもそう思うのか。

 時計が高級品である理由の一つに、需要が少ないと言うのもあるのかもしれないな。



 ――――――



 門を出て、俺達は森の中を歩いていく。


「今の《不屈の闘志》には攻撃役が足りてねぇからよ。

 兄ちゃんが来てくれて助かったわ」


 そんな軽口を叩くヴェル。盗賊戦を見てる限り、俺が居なくてもマーダーチーター程度に遅れを取るとは思えない。


(……だが、言われてみれば確かに決定打に欠ける印象はあったな)


 そう言えば、こいつらは()()と呼ばれるメンバーが欠けたんだったか。

 恐らく、そいつが攻撃役を担っていたんだろう。


「新しいメンバーを入れたりはしないのか?」


「探してはいるんだが、ソロで優秀な奴なんてそう簡単には見つからなくてな。

 足手まといを増やしても仕方無いし、結構困ってんだよ。

 ……兄ちゃんはどうだ?攻撃役の兄ちゃんに、ついでに補助役の嬢ちゃん。二人なら歓迎するぜ?」


「悪いが断る。あいつにBランクの依頼は早すぎるし、かと言って依頼の度に留守番させるだけって訳にもいかないしな」


「そうか。わかったよ」


 俺への誘いはダメ元だったのだろうが、困っているのは本当らしい。だが、俺には冒険者の知り合いなんて居ないし、力にはなれないな。



 そんな話をしていると、不意にリリが足を止める。


「向こうに居るよ……」


 リリの言う方向に『探知』をかけてみれば、確かに四匹のマーダーチーターが確認出来た。


「こんな浅い所に居るのかよ……」


 まだ街から程近く、Eランク冒険者も立ち寄る様な場所だ。

 これならば指名依頼で早急に終わらせたいギルドの意向も頷ける。


「よし、準備ができ次第、戦闘開始だ」

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