わからないという事
明ちゃんくらいの理解で大丈夫です。
「では、研究を始める!
……前に、お前に授業をしてやろう」
そう言うと、クラウスは何処からかホワイトボードと椅子を持ってくる。
この幸せな生活を送る条件は、彼の研究に協力することだからな。
眠い目を擦り、椅子に腰掛ける。
「先生、質問です」
生徒モードに入った私は、手を挙げて質問する。
「なんだ?」
「授業を行う必要はあるのでしょうか?」
私の質問にクラウスは溜め息を吐く。
手伝うのは手伝うが、早く寝たいのに変わりはない。
「別に俺には必要は無いが、研究を理解する上でお前に必要だ。
それに「あれを学んでおけば良かった」「これを学んでおけば良かった」と頻繁に言ってるのはお前だろう?
学ぶことは自身の為だと肝に命じておけ」
至極真っ当なお説教に、ぐうの音もでない。
私は大人しく、そして少し真面目に授業を受けることにした。
――――――
「まず初めに聞こう。お前や俺が、何故適性のある魔法を使えると思う?」
そういえば、考えた事なかったな。
女神様に適性があるって言われて、実際に異世界を目にして、何故だか使えて当たり前だと思ってた。
私のゲームやラノベ知識を総動員して答えを導き出す。
「MPを消費することで――」
「違う。
MPとやらが何かは、後でじっくり聞かせてもらおう」
クラウスがまたニヤリと笑う。
こいつ、さては私から地球の創作物の知識を引き出す為にやったな?
「勇者世界――ニホンには無いらしいが、この世界にはあらゆる物質に魔素と呼ばれる魔力で送られた信号を通す元素がある」
うげ~、元素だって。
全然ファンタジー感なくてテンションが下がっちゃうよ。
っていうか、そんな事まで理解されてるの?
この世界の教育レベル高すぎない?
「魔力とは、脳から魔素に信号を伝達する力の事を指し、信号を送られた魔素が他の元素を操作することで魔法が――」
「先生、もう少しわかりやすく説明してください」
ファンタジーなお話を期待してたのに、科学やら生物やらの話をされても、ちっとも頭に入ってこない。
クラウスは呆れた様にこちらを見るが、わからないものは仕方ないのである。
「……魔力を鍛えなきゃ、簡単な魔法を使うのも大変という訳だ」
うん、わかりやすくてファンタジーで良い。
「つまり、私は鍛えてないのに魔力が凄くて天才ってことですね!」
「恐らく勇者と同じで、女神の加護だ。決して、お前が天才だからではない」
ありゃ、勇者も同じなのか。てっきり私の天才パワーかと思ってた。
でも女神様の加護かぁ。ちょっと頼りなさそうな神だったけど、凄い力を授けてくれて、ありがとうございます。
……え、待って。勇者も同じ力を持ってるって事は、勇者は全部の魔法が簡単に使えるってこと!?ズルじゃん!
「おい、まだ話は終わってないぞ」
「あ、すみません」
いかんいかん、思考の波に流されるところだった。
「今まで説明したことだけでは、魔法を使うのに効率が悪い。
そこで必要となってくるのが、知識とイメージだ」
知識とイメージ。
そういえば、今まで私が使ってきた魔法も、科学とかの知識を元にしてるかも。
熱運動とか知らなかったら、きっと『暖房』ですら大変だった筈だ。
……うん!やっぱり明ちゃんは天才である!
「人類が普段使っているのは脳の一割であるが、その残りは魔法を使うのに足りない知識やイメージを無意識に補助するのに使われている為――」
「先生、簡単にお願いします」
油断するとすぐ難しい方向に話を進めるんだから、全くもう。
「あー……自分の魔法の仕組みを理解した方が、疲れなかったり、より複雑な魔法を使える様になる」
なるほど。ファンタジーパワーに頼りきらず頭を使えと。
でも理系的な考えるの好きじゃないんだよなぁ。
「先生、魔法を使う度に一々仕組みやら考えてたら余計に疲れるんじゃ――あ、そうか!」
クラウスに質問してる途中で気付いた。
あったじゃないか、既に自分で見つけた楽にできる方法が。
仕組みを考えて、実際に魔法を発動する時にすることと言えば……
「気付いた様だな。そう《名付け》だ。」
流石、天才美少女明ちゃん。この世の真理によもや自力で辿り着いていたとは。
「魔法の記憶を名前に紐付けることで、アウトプットが簡単に出来るということだ。
魔法の名前は、個人個人が一番しっくりくる名前にすれば良い。
同じ魔法に見えても、仕組みや思考の道筋が違ったりするしな」
なるほど。魔法名は自由なのか。
いつかはアニメで見たかっこいい技名をつけてみたいな。
「さて、お前に説明すべき範囲はこんなもんか」
やっと授業が終わった。
これでゆっくりと眠りを――
「それでは、本番の研究タイムといこうか!」
そういえば、戦いはまだ始まってすら居なかった。