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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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生き急いでも仕方ない

 どうしてこんな事になったのだろう。


 目の前にはロケットラビットの突進で気絶した哀れな生き物。

 油断していたのだろうか……いや、事前に知識でもない限りこうなる事は避けられなかった。


「これ、どうしよう?」


「どうするもこうするも……止めを刺すしかないだろう」


 そう。私達の目の前にはロケットラビットの突進で気絶した、ロケットラビット()()が居るのだ。


 このロケットラビット、現れて直ぐに私に突進してきたのだが、これが運の尽きであった。

 私は魔物の不意討ち――主に遠距離攻撃を警戒して、セイヴィア市を出た辺りから『プロテクテクト』を張っておいたのだ。

 それに気付かずに勢いよく突進してきたロケットラビットは、空気の壁に頭から激突し、気絶してしまった。


「何て言うか……割りと間抜けな兎さんだね」


「いや、ロケットラビットは、鎧を装備している相手は狙わない程度の知能はある。

 生身でありながら、鎧と同等以上の防御力であるお前の魔法が優秀だっただけだ」


「でへへ」


 やっぱり明ちゃんは天才だからね。このくらい朝飯前である。


「それじゃあ、さっさと終わらせるか」


 クラウスはそう言って、溶刀ムラマサを引き抜く。

 明ちゃんは既に一瞬で魔物を気絶させる大活躍をしたので、このまま見ているだけでも良い。


 だが今日はそれだけでは満足しない。



「待って。私にやらせて」



「やらせろって、お前……」


 クラウスと肩を並べる為、Dランクになる為には魔物を殺せる様にならなければいけない。


 私の決意のこもった瞳を見て、クラウスは鞘に戻したムラマサを渋々と言った風に渡してくれる。


「お、重い……」


 だが渡された刀は想像よりも重く、少しフラついてしまった。

 持ち上げられない程ではないが、正確に狙った場所に振り下ろせる自信はない。

 しかも、これに魔力を込めれば一瞬で肉を焼く程の熱を持つのだ。

 うっかり自分やクラウスに当ててしまいそうで、これを振るうのは怖い。


「無理だろ?だから今日は諦めて――」


「もっと短いの無いの?」


「お前なぁ……」


 呆れた様に溜め息を吐くクラウス。

 流石にそんな都合の良い物は持っていないか……


「まぁ、あるんだが……」


「あるんかい!

 じゃあ最初からそれ渡してよ!」


 クラウスは『収納』から、三本目の刀を取り出す


()刀ムラサメ。ムラマサよりも短く、昔俺が練習用に使っていた物だ」


 確かにそれは刀と呼ぶには短く、刃渡りもナイフより少し長い程度だ。

 これならば私でも安定して持ち上げられる。


 ムラサメを構えてロケットラビットを見据える。

 慣れない()()なので、構えは様になっていないが今回は気にしない。


 狙うのはロケットラビットの首。


 それをじっと見ていれば、首筋が僅かに動いている。

 呼吸か脈か。どちらにせよ、それはロケットラビットが生きている事を生々しく物語っている。


(大丈夫、私なら出来る)


 じんわりと汗が滲み、震える手を抑えている手も震えている。

 目を逸らさず、深呼吸で気を落ち着かせる。


(もう少し……もう少し落ち着いたら――)



 だがその時、ロケットラビットの目が開かれる。


(しまった!)


 のんびりし過ぎて、ロケットラビットの意識が戻ってしまったのだ。

 慌ててムラサメを振り下ろそうとするが、駄目だ。震えた手にはまだ上手く力が入らない。


 このままでは隙を晒しているだけだ。

 一旦、態勢を立て直す為に構えを解いて、突進を警戒して『プロテクテクト』に集中しようとする。


 だが、それよりも突進よりも早く、ロケットラビットの首が飛ぶ。

 疑問に思うまでもない。クラウスの仕業だ。


「今回は構える所まで出来たんだから、上出来だろ」


(仕切り直せば、ちゃんとやれたよ!)


 そう言ってやりたかったが、終わった事に安堵している自分も居る。

 勝手に終わらせたクラウスになのか、安堵している自分になのか。原因のわからない憤りに、思わず下唇を軽く噛んだ。



 ―――クラウス視点―――


(やはり無理だったか)


 特に期待はしてなかっただけに落胆もない。


 苦手な物と言うのは、そう簡単に克服出来る様なものではない。

 例えば俺は遠距離攻撃が苦手だ。出来るような魔法が無いなら無いなりに弓などを使えば良いのだが、なかなか上手く出来ずに投げ出している。

 アカリに偏差射撃を指導したのだって読んで得た知識だけだ。実際には全く出来ない。


 唯一頼れる大人が不甲斐ないと不安にさせてしまう為、アカリには弱みは見せてないだけだ。



 アカリは結構ぐうたらな性格だと思っていたが、最近は自分も働くと言い出したり、無理して魔物を殺そうとしたり。なんだか生き急いでいる様に感じる。


 俺もアカリくらいの年は多少そんな節もあったので、きっと年頃故のものだろう。



「ゆっくり時間をかけて成長していけば良いさ」



 聞こえているのか、いないのか。悔しそうに唇を噛むアカリからの反応はない。

 聞こえていたとしても、今は余り心に届かないのだろう。


 だが、きっといつか解る日が来る。




 ……その時に、俺はまだアカリのそばに居るのだろうか。

雑補足

・ロケットラビット

身体魔法で足を強化し、素早い突進で敵を倒す。

突進の邪魔にならない様に垂れている耳が特徴的。


とある村人達の会話

「ロケットラビットのロケットって何なんだ?」

「んなもの知らなくても生きていけらぁ」

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