稼ぐのは楽な事じゃない
「一応、お前の冒険者カードを出してくれ」
これにて一件落着かと思ったが、門番さんはまだ何かあるらしい。
冒険者カードを出せと言われたクラウスは、多少訝しみつつも門番さんにカードを渡す。
「先程、作ったばかりだが……何に使うんだ?」
「そのカードに、セイヴィア領兵として魔力を登録しておく。
もし、お前が犯罪者だと分かった場合は、私が登録した魔力を辿ってお前のカードの場所が全て分かる様になる」
確かに、樽の中身についてだって、クラウスが嘘ついてたらそれまでだ。
こんな時の保証にもなるのか。作っておいて良かった、冒険者カード。
「なんかGPSみたいだね」
「G……何だ?」
「それ、後できちんと説明しろよ」
「あぅ!」
しまった。また、長々と説明させられる。
GPSとか仕組みも正式名称もよく知らないよ。
「それで……この仕組みを、お前個人が悪用する可能性は無いのか?」
クラウスも疑り深い。門番さんが悪用する可能性を疑っている様だ。
確かに悪用すればストーカーとか出来ちゃいそうだけど、この門番さんは大丈夫だろう。
「その可能性は無い。領主レベルの権限が無いと追跡出来ないからな。
罪を犯すつもりが無いのなら、全く影響はない。安心して良いさ」
はっはっは!と笑う門番さん、ルールには厳しいが根は愉快な人らしい。
クラウスのカードへの登録も終わり、検問が無事に済んだ商人さんは、お礼を言いながら去っていった。
良いことをしてお礼を言われるのは気持ちが良い。
そして次は私達の番である。
と言っても大した荷物も持ってない徒歩二人なので、空港の入国審査みたいな質問だけだ。
「それで、二人は外に採集しに行くのかい?」
先程、クラウスが冒険者カードを作ったばかりと言ったので、目的の見当は付いていたのだろう。
「うん。これから香草を集めに行くんだよ」
「そうかい、気を付けてな。
香草の生えている草原の辺りになると、鐘の範囲外だから魔物が出るかもしれないからな」
「鐘?」
すると丁度、ゴーン!ゴーン!と十一時の鐘が鳴る。
「これの事さ。これはヒヒイロカネと言う金属で――」
「あ、知ってるよ!魔物除けになるんでしょ」
うちのシッシーに使われてるのと同じ金属だ。まさか街では魔除けだけでなく時報としても流用しているとは。
「あんたら冒険者登録したばかりなんだろ。
とにかく魔物には気を付けろよ!」
「はーい」
門番さんもああ言ってるし、ちゃんと警戒しておこう。
彼に手を振りながら、私達は草原へと歩き出した。
――――――
草原に着いたので、さっそく香草を集めていく。
香草と言うだけあって結構臭うので、広い草原でも割りと簡単に見つかる。
「なんかパクチーみたいな匂いだね」
「元々は四代目勇者が、そのパクチーを品種改良して作った物だからな。
コリアンダーよりも香りが強いと言う意味で《コリオーバー》と言う名前が付けられた程だ」
香りが強いので見付けやすいのは良いが、手に匂いがこびりついて結構辛い。
基本的にパクチーの匂いはそこまで苦手ではないが、コリオーバーは匂いが強すぎる。過ぎたるはなんとやらだ。
「もう帰ろうよ~」
「馬鹿言え、まだ三十分しか経ってないぞ。
昨日のやる気はどうした。
さっさと続けろ……『草刈!』」
クラウスは粉砕魔法と空間魔法の合わせ技かなんかで、触れずに回収しててズルい。
見つけた物を全て持って帰るのは良くないと言う事で、幾らかはそのまま置いてある為、二人合わせてもまだ八株。
これでは仕事と言うよりお手伝いレベルだ。稼ぎにもなりはしない。
だが、この匂いはキツい。せめて鼻栓でもあれば……
「って、あるじゃん!」
思い出した。私には鼻栓よりも優秀な魔法があった。
『マスク!』
よ~し、これなら幾らでも探せるぞ!
「匂いで見つけてるんだから、鼻を塞いだらコリオーバーを探せないだろ。諦めろ」
「うぅ……」
鼻を塞ぐ手段があっても、それを使っちゃいけないとは……
この依頼、実はなかなかキツい方なのかもしれない。
仕方なく『マスク』を解除しようとすると、警戒の為に張っていた『感知』に反応がある。
叢から音を立てて現れたのは一匹の兎。
(魔物かと思って警戒してたけど、なんだ。可愛い動物じゃないか)
『感知』は動きに反応する。魔物でも動物でも関係ないのだ。
だから兎を見て動物だと思い、安心して近づこうとすると――
「気を付けろ!ロケットラビットだ」
「ほへ?」
その瞬間、曲げていた足を一気に伸ばした兎が、猛スピードで私に突っ込んできた。
雑補足
・パクチー
パクチーがタイ語でコリアンダーが英語。
コリアンダーのアンダーはunderではないし、多分そこで区切らない。