どっちも悪くない
結局、依頼ランクEの香草採集を達成する為に、街の外の草原に行く事にした。
セイヴィア市に入ってきた時とは反対側の門にやってくると、なんだか揉めている声が聞こえる。
「私は何度も此処を通っているが、こんな検問は無かった筈です!」
「昔は無くても今はあるんだ。大人しく従え」
門の前には門番さんと、その門番さんに今にも掴み掛かりそうなおじさんが居る。
これは穏やかじゃない。
明ちゃんが仲裁してあげなければならないだろう。
「御二人さん、あいや待たれい!」
「あいや待たれい?……」
「歌舞伎役者か?……」
二人は戸惑っているが、これでいい。
少しは怒りが収まって冷静に話し合う事が出来るだろう。
と言うか、歌舞伎まで伝わるのか。
……歌舞伎そんなに詳しくないし、ボロが出る前にキャラ戻しておこう。
「私は通りすがりのスーパー喧嘩仲裁人です」
「「は、はぁ……」」
「お前はまた余計な事に首を突っ込んで……」
さて、一人は見るからに門番さんだが、もう一人の男の人は何者か。
見てみれば、その人のであろう荷馬車には樽がいっぱい積まれている。
「商人さん?」
「ええ、そうです。
このセイヴィア特産ワインを買い付けに、遥々チェロン騎士爵領からやって来ました」
大量に積んである樽は全てワインなのか……この街ほんとに特産品が多いな。
「それで、貴方が商人さんを止めている門番さん?」
「ああ」
門番さんの身を包む鎧には、何かのシンボルマークが描かれている。
この街に来てから頻繁に見かけるし、セイヴィア市またはセイヴィア男爵領のシンボルなのだろう。
「数ヶ月前から小さい子供が拐われる事件が増えてきてな。
領の外まで連れ去られるともう追えない。だから街から出る樽等の魔導具は全て蓋を開けて中身を調べる決まりなんだ」
治安が良いみたいな話を聞いてたんだけど、盗賊の次はそんな物騒な事件が起きているとは。
「成る程。重量魔法がかかっていると、中に子供が入ってるかどうか、開けてみるまでわからないのか」
……そう言えば重量魔法で軽く出来る樽が、この辺りでは多く使われてるんだっけか。
クラウスは思考が速くて付いて行くのがやっとだ。
「だから、この樽は重量魔法ではなく、熱魔法で温度調整を行う物だと言っているでしょう!」
「いや、何魔法が刻まれているかなんて幾らでも誤魔化せる。
それに、蓋は新しい物を此方から提供するのだ。文句はあるまい」
「だから文句あるんですってば!
ワイン樽って言うのは、その木材の種類によってワインの味や香りが大きく変わるんです。
これは私が態々持ち込んで来たアカシアで作った特注の樽なんです。
そんな密閉する為だけの適当な蓋じゃ、ワインの価値が落ちて私は大損ですよ!」
「へいへい!お二人さんステイステイ……」
再び険悪な雰囲気になってきたので、取り敢えず落ち着かせる。
だが、これで漸く現状を理解出来た。
ワインの為に、商売の為に、樽を開けさせたくない商人さん。
子供の為に、街の為に、樽を開けさせたい門番さん。
どちらの主張も間違っていない。
正義は門番さん側にあるけれど、正義の為に商人さんに不利益を押し付けるのも明ちゃん的にはよろしくない。
かと言って、ここで中を見ずに通して「実は商人さんが悪人でした!」ってなる危険性も見過ごせない。
誰も悪くないのに問題が起こってるパターンである。
悪人が居るとすれば、そもそも子供を誘拐してる奴だけであろう。
「う~ん。どうしたものか……」
解決策が思い浮かばず途方に暮れる私達。
だがそんな時、クラウスから妙案が提示される。
「なぁ、俺が知覚魔法で中身を調べるんじゃ駄目なのか?」
「そ、その手があったか!」
「いや、お前は覚えておけよ」
知覚魔法は、確か何か凄く細かい情報まで分かる魔法だった筈。
樽の中に子供が隠れているかどうかくらい、簡単にわかるのだろう。
「知覚魔法ですか……確かにそれなら蓋を開けずに中身が見れますね」
「我々としても、中に子供が居ないと証明出来れば問題はない」
商人さんも門番さんも、納得している様だ。
何はともあれ。これにて――
「あ、一件落着ぅ!」
「お前ほとんど何もしてないだろ!」