強くないけど頼りになる
「御二人のランクも登録しました。
これでいつでも依頼を受けられますよ」
ギルマスから冒険者カードが手渡される。
ランクの変更はギルマス権限が無いと出来ないらしく、本来は完成まで一日かかる物らしい
なのでギルマスに担当してもらった私達は手続きが早く終わってラッキーと言う事だ。フロンちゃんに感謝だね。
退室し、早速依頼を受ける為に一階の掲示板に向かう。
「まずどんな依頼を受ける?」
「そうだな……効率よく稼げるものなんかを見つけたいな」
「よーし、荒稼ぎするよ!」
そう意気込んだは良いものの、いざ掲示板を見てみると理想との違いが露になる。
《クールウルフの討伐 依頼ランクD 一匹辺り三千M》
《香草採集 依頼ランクE 一株辺り二百M》
「なんと言うか……報酬が安いな」
「夢が無いね……」
冒険者と言ったら一攫千金の体現者みたいなイメージがあったのだが、この掲示板を見ていると現実を突き付けられる。
これじゃあ余程高ランクにでもならない限り、冒険者だけで生活するのは厳しいのではないかとすら感じる。
そんな私達の前に一人の男が現れる。
「どうやら冒険者について何も知らねぇ様だなぁ!」
「その声は!
……えっとぉ…………」
「マグマだよ!」
「ずっと泳いでいないと死んじゃう魚の――」
「それはマグロだ!」
「温かい飲み物を入れたりする器の――」
「マグカップな!」
「磁石」
「…………マグネットか!
……いや、違う違う!マグマだよ、マ・グ・マ!」
意外とノリの良いこの男こそ、私達がギルドに入ってきた時に絡んできた大男、マグマだ。
クラウスにあれだけ派手にぶっ飛ばされたのに、ピンピンしている。受け身すら取れてなさそうに見えたが体は頑丈な様だ。
と言うか、あれからそんなに経ってないのに、よく私達に話かけようと思ったな。
クラウスなんか、いつでも抜刀出来る様に刀に手を掛けている。
「いや、落ち着けって!今回は絡みに来た訳じゃねぇよ。
掲示板見て渋い顔してるからシステムについて教えてやろうと……」
「後で授業料と称して高額な金銭を請求する手法か?」
「そんな事しねぇって!
俺が教えられるのだって、ギルド職員に聞けば分かる様な事だけだ。
職員は一人を除いて忙しそうだから、俺が代わりにやってやるだけだ」
確かに、フロンちゃんを除く職員さんは、皆せっせと業務に当たっている。
聞けば答えてくれるだろうが、態々呼び止めるのは申し訳ない。
マグマも意外と優しい所があるんだなぁ。
「そうか、なら助かる。
それで何を教えてくれるんだ?」
「この依頼書に書いてある報酬ってのは、最低値なんだよ。
魔物なら討伐証明の右耳、採集なら枯れたり腐ったりしてない物だけを納品した時の金額だ」
「成る程。毛皮や鮮度の良い肉、葉や根の状態が良い植物なんかを納品すれば追加の報酬が支払われるのか」
「そう言う事だ。技術さえ身に付ければ、低ランクでも冒険者一本で食っていけるさ。俺みたいにな」
そう胸を張るマグマ。
確かに、あれだけ弱かった彼でも仕事に出来るくらいなら、力やランクは関係無いのだろう。
「まぁ、その技術を身に付けるのだって楽じゃないけどな。
例えば、魔物は見つけ次第に狩って構わないが、植物はそうはいかねぇ。
根刮ぎ全部引っこ抜いてたら、いずれ採れなくなっちまうからな」
そうか。目の前の報酬だけでなく、今後の事や周りの人の事も考えなきゃいけないのか。
冒険者稼業はなかなか難しいな。
でも、ここにはギルマスやマグマ、あと今は見当たらないけど《不屈の闘志》もまだ居る筈だ。
もし困った事があれば、彼らに相談するのが良いだろう。
「あと、掲示板に書いてある依頼ランクは目安だ。
まずは自分と同じランクの依頼を安定してこなせるように頑張りな」
励ましの言葉を最後に去っていくマグマは、確かに先輩冒険者の風格を漂わせていた。