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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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強者だけではない

「何してるの?」


 クラウスは宿の部屋に戻ってから、ずっと何かを読んでいる。


「求人広告だ。無料のペーパーが色々とあったからな」


「クラウス働くの?」


「お前は呑気だが、宿泊費込みで今日の出費が二万M(マネー)だぞ。

 五十万なんて直ぐに無くなる」


 初めての街と言う事で、私だけでなくクラウスも色々と買っていた。明日からは少し減るだろうが、メインの出費は食費と宿泊費なので大した変化もなく、もっても二ヶ月だろう。


「まぁ、領域から近いこの街に長居する必要もないからな。

 やるとしても短期のアルバイトだけだ」


「じゃあ私も探すよ」


 クラウスも望んでたとは言え、旅の生活にさせてしまったのは私のせいだ。

 相方一人に苦労をかける訳にもいくまい。



 ――――――



「これなんかどう?魔導灯の点灯作業。

 街灯の魔導具を起動して回るだけだって」


 魔導具を扱うのなら慣れているので、私はともかくクラウスなら百本でも余裕だろう。


「……駄目だな。長期しか募集していない」


 あ、本当だ。よく見てなかった。


「これなんてどうだ。レストランのウエイター。

 メニューを覚えて注文を取るんだろう?記憶力なら自信はあるぞ」


「クラウス敬語使えないでしょ。

 お客に「よく来たな。注文は何だ?」とか言う気?」


「それじゃ駄目なのか?」


「駄目だよ、敬語使えなきゃ」


 今日訪れた中華料理店なんかは敬語じゃなかったが、あれはあれで喋り方にルールがあった。自由な訳ではない。


「なら無理か」


 あっさりと諦めるクラウス。

 クラウスの記憶力なら敬語を覚えられない筈もないだろうに。

 そんなに嫌なのだろうか。



 すると、ハラリと一枚のペーパーが落ちる。

 それを拾い、読み上げるクラウス。


「ふーん。「君も冒険者に!」ねぇ……」


 冒険者。それはファンタジーを愛する者なら、誰でも一度は憧れる職業。

 か弱き民からの依頼を受け、危険な地へと勇ましく挑んでいく姿は、正に花形と言えるだろう。

 そんな定番を私が逃す訳もなし。


「それなら、明ちゃんにお任せだよ!

 天才パワーでAランクになって、直ぐに大金持ちなんだから」


「Aランクは《強力な魔物の討伐》だって言ってたろ。

 血が苦手なお前じゃ無理だ。

 それに危険な所に行けば、再びアカに乗っ取られる可能性も否定出来ない」


「……うん」


 当然クラウスに正面から否定される。

 確かに、私は冒険者として活躍するには問題を抱えすぎている。


 それはわかっていたのだが、やはりハッキリ無理だと言われると落ち込む。


 そんな私の様子を見て、クラウスは溜め息を吐くと言葉を続ける。


「……だが、危険な依頼ばかりって事も無いだろう。

 稼げるかはわからないが、試しに冒険者になってみるか?」


「うん!」


 明日の予定も決まった私達は、そのまま眠りに()くのであった。



 ――――――



「そして、やって来ました冒険者ギルド!」


「何が「そして」なんだよ」


 細かい事は良いのだ。

 大事なのは、私達が今ギルドの扉の前に立っていると言う事である。


 重厚な石造りの建物は、あちらこちらに皹が入っている。

 恐らくは血気盛んな冒険者達による、争いの名残なのだろう。

 この皹の一つ一つにどんな歴史が詰まっているのか。


「……明日から改装工事だってよ」


 歴史も風前の灯である。

 古きは新しきに取って代わられる運命なのだ。

 と言うか、建物に皹入っているの普通に怖いわ。さっさと工事終わらせてね。



「いざ参る!」


 扉を開け足を踏み入れれば、そこは多くの冒険者で賑わうホール。

 受付嬢さんの居るカウンターや、依頼が貼ってあるだろう掲示板。端にはバーらしき物まで併設されていて、イメージ通りの光景に私のテンションも最高潮だ。


「ああ、憧れの冒険者ギルド!

 あとは、強面の冒険者が絡んでくる展開があれば完璧なんだけど……」


「そんな面倒な事になって――」


 堪るか、とクラウスが言い終わる前に、それはやって来た。



「おうおう!小せぇ嬢ちゃんが、こんな所に何の様だ?

 ガキは帰ってママの(まんま)でも食ってな」


「出た!新人潰しのマグマだ!」


 誰かその名を告げれば、周りの冒険者の多くも盛り上がり、あっと言う間に大量のギャラリーの出来上がりである。

 新人潰しのマグマと呼ばれた大男は、拳にメリケンサックの様な物を装着し、早くも臨戦態勢だ。


「えぇ……」


 所謂(いわゆる)テンプレと言うものを知らないクラウスは、若干引いている。

 まぁ言ってみれば、初めて来た人に常連がいちゃもんつけて大盛り上がりと言う状況だ。そう考えたら大分クレイジーだな。


「かかってこいや!」


 手招きするマグマ。

 先手は譲ってくれるらしい。


「……これ、攻撃して良いのか?」


 クラウスは戸惑った末に私に聞いてくる。

 敵と認識するには、行動も状況も(いびつ)すぎて困っているのだろう。


「やり過ぎなきゃ良いんじゃない?」


「じゃあ……」と言って鞘からムラマサを抜くクラウス。

 人前で空間魔法を使わない為に、二本の刀は常に帯刀する事にしている為、今は作業着on白衣+刀と言うトンチキな格好だ。


 クラウスはムラマサを逆に持ち、魔力は込めずに素早く振るう。

 刀を脇腹で直に食らったマグマが吹っ飛び壁に激突する。


「安心しろ、峰打ちだ」


 かっこいい台詞と共に刀を鞘に納めるクラウス。


 刀の作りなんて知らなそうな西洋感溢れる冒険者さん達だが、少なくともクラウスが手加減した事は伝わった様だ。

 誰一人として、壁の皹を増やしたマグマを心配していない。


「まぁまぁやるじゃねぇか……」


 その一言を最後にマグマは意識を失う。


「あぁ……またやられたか」


「マグマも、まだDランクだしな」


 いつもの光景だと言う様に、ギャラリーの関心も散っていく。

 クラウスに瞬殺されたマグマは、あれでDランクと言うのだから驚きだ。


「……冒険者も玉石混交だな」


 クラウスの言葉の意味はわからなかったが、マグマの手応えの無さの話をしているのだろう。


(案外、私でもやっていけそうだなぁ)


 そう思わせてくれたマグマには感謝である。

雑補足

・玉石混交

玉石混淆を常用漢字にしたもの。

優れているものと劣っているものが入り混じっている様。

「中には劣っているものがある」と言ってる事になるので、使い所によってはとても失礼。

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