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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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興味ない

 クラウスとの共同生活も、今日で七日目。

 ハンバーグにホイホイ釣られて始まった生活だったが、全くもって順調そのものだ。


 クラウスがアラサー程の見た目なので、初日の夜こそ夜這いを警戒したが全くその気配すらなかった。

 次の日聞いたら「誰がお前なんぞに欲情するか!」と何故か怒られた。

 天才美少女の明ちゃんに興味が無いとは変わった人だが、そのお陰で安心して暮らせてる。


 変人でありがとう、クラウス。



 私の待遇は?と聞かれれば「最高!」としか言えない。


 三食昼寝付き。お菓子や遊び道具なんかも幾つかあり、無いものも、説明したら嬉々として作ってくれる。


 気になったので「他に人は居ないのか?」と聞いてみれば「仲が良くないから滅多に会わない」と言われた。

 この答えに私の正義感が疼いたが、私も態々諍いを起こしたい訳ではない。

 問題が起きたら仲裁してあげるとしよう。



 今は朝ごはんを食べ終わったので、クラウスと将棋で戦っている。

 ちなみに朝ごはんは、トーストにサラダと味噌汁だった。

 味噌汁は鍋が空になるまで、おかわりしてしまったくらい美味しかった。


「う~ん……あ、王手!」


「二歩だ、馬鹿」


「げ、本当だ!」


 将棋は昨日教えたばかりなのに、駒の動きからルールまで完璧に覚えたらしい。

 研究者名乗ってるだけあって賢いな。


「じゃあ角で桂馬取って成るよ!」


「それじゃ、俺は王手飛車取りだ」


「うぇ!?いつのまに!」


 本当に賢い……

 飛車角落ちの理としか戦ったことない私では、あっという間に劣勢だ。

 ついさっきまで、私が攻めていた筈なのに不思議だ。


 こんなことならば、将棋のラノベに書いてあった戦法を詳しく調べておけばよかった。

 何分(なにぶん)キャラの設定とかを深く読まない性分でね。「なんか戦ってるなぁ」程度の認識でも楽しめちゃうのだ。



 試合はと言えば、その後も私の駒はどんどんと取られていって……


「これで詰みだ。ほら、敗者はさっさと片付けろ」


 うぅ……最早詰んでるかの確認する気力すらない。


「へいへい。弱者は強者に従うでごじゃりますよ」


 もう十手前くらいから勝てる気は一切してなかったので、大人しく片付ける。

 クラウスは完全に私を無視して二階に上がっていく。恐らく将棋に関する事を何かに記しておくのだろう。


 少しは片付け手伝ってくれもいいのに。


 なんだな私の扱いが日に日に雑になっている気がする。

 最初の頃は「馬鹿」なんて言われなかっ……いや「気持ち悪い」とか言ってたわ。実は最初から雑だったのかもしれない。



 リバーシの横に将棋盤を置いたら、ゴロンと寝転がる。

 頭を使ったからか、眠くなってきた。

 早めのお昼寝にしようかとも考えたが、それには少し寒いな。

 エアコンの魔導具(スイッチ)も遠いし、今日は魔法でいいや。


『暖房』


 部屋が暖かい空気で満たされる。


「エアコンより楽だし、暖まるのも早いな」


 そもそもエアコン要らずだと考えてた空気魔法だったのに、エアコンを見つけた途端、自分で魔法使うより魔導具に頼る方が楽だろうと考えてしまっていた。


 ここで暮らし初めてから今まで気付かなかった……いや、早くも気付いたと言うべきか。

 また明ちゃんの天才ぶりを発揮してしまったな。


 快適な気温で微睡んでいると、うるさい足音が降りてくる。


「お前、エアコン壊しやがったな!二階まで満遍なく暖まってんぞ!」


 あ、少し制御が甘くて広範囲に広がってしまった。


 だが、全く失礼なクラウスだ。私の気付きだと言うのに、失敗と決めつけるとは。

 天才とは、いつの時代も、どの世界でも、理解されぬものよ。


「クラウス君や、私が何者かお忘れかね?」


 クラウスは腕を組み少し考えてから、寝転がっている私を見て答える


「……怠惰の化身?」


「違わい!寝転がっているからって何も考えずだらけていると思うなよ!

 私が何の魔法使いかと聞いてるの!」


 クラウスは再び腕を組むと、今度はシンクに置いてある空の鍋を見てから答える。


「食い気魔法?」


「空気だよ!誰が魔法の胃袋を持つフードファイターだ!」


 今日は久しぶりに食べた味噌汁が懐かしかっただけだ。

 決して食いしん坊な訳ではない!


 私の反応が面白かったのか、クラウスはお腹を抱えて大笑いしている。


「悪い悪い、少し巫山戯ただけだ。

 それにしても、これだけの魔法使うくらいなら魔導具を使った方が楽だろ。何のための魔導具だよ」


「え?」


「え?」



 私とクラウスの認識に何か大きな差がある気がする。

 クラウスがニヤリと笑う。

 クラウスの研究者魂に火を着けるような事を、私は言ってしまったらしい。

 こうなったクラウスは面倒くさい。


「これは興味深い……そう言えば初めて会った時も木から降りる為だけに魔法を使ってたな。

 あの時は見せつける為かと思ったていたが、お前がわざわざそんなことする訳ないよな。」


 クラウスが一歩一歩躙り寄ってくる。

 私は聞こえないフリをして目を閉じる。


 私はもう寝ている。私はもう寝ている。私はもう寝ている。


「おいおい、狸寝入りをしても意味はないぞ。

 お前を飼ってるのは何の為かお忘れかね?」


 この世界で他に知り合い等居ない私に、逃げ場など無い。




「さぁ、研究(仕事)の時間だ」


そんな悪魔の呟きが耳元で聞こえた。

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