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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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快適な居心地

「おおお……」


 思わずそんな感嘆の声を上げてしまった。

 それも仕方ないだろう。

 だって今クラウスの手には、五十万M(マネー)もの大金が入った袋が握られているのだから。


「……良いのか?こんなに貰って」


「構わないさ。君達の協力のお陰で、全員を生け捕りに出来たんだ。

 捕縛による上乗せ分だけでも君達が貰うべきだ」


 そう、これは領兵だか衛兵だかに、盗賊を渡して引き換えられた金銭なのだ。

 まさか盗賊を捕まえるだけで、こんな大金が手に入るとは。

 ……いや、()()って事はないな。実際に大変だったもの。


「大金持ちだよ!文無(もんな)しから一気に大金持ちだよクラウス!」


「お前は落ち着け!

 大金持ちと言う程の金額じゃねぇだろ!」


 日々暮らしていくのに、どのくらいの金額が必要なのかは知らないが、少なくとも高校生が手にするには大金である。

 ハイテンションになるのも仕方なかろう。


「良かったな、嬢ちゃん。

 兄ちゃんに頼んでベッドが柔らかい宿にしてもらいな」


「ベッドは自分のがあるから大丈夫だよ!」


「おいおい、馬車だけじゃなくベッドまで持ち運んでるのかよ……」


 何故か《不屈の闘志》は若干引いているが、ベッドは大切なのだから当然じゃないか。


 快適な睡眠こそが、人生の基本である。



 ――――――



 《不屈の闘志》と別れた私達は、紹介してもらった宿に泊まる事にした。

 ベッドは固いが食事は美味しい所らしい。


 扉を開けて中に入ると、一階は全て食事処の様だ。

 夕食時と言う事も相まって、席はほとんど埋まっている。


「いらっしゃいませ!

 お食事ですか?宿泊ですか?」


 受付のお姉さんは、笑顔で手慣れた様に対応してくれる。

 接客業歴が長い人特有の、完璧なスマイルだ。


「宿泊だ」


「現在、一人部屋は満室となっておりますので、二人部屋で宜しいですか?」


「ああ……それと、部屋に自前のベッドを置いても平気か?」


 その質問で、お姉さんの完璧な笑顔の仮面に、初めて(ひび)が入る。


「はい?自前のベッド?

 ……当宿は石造りですし、床が抜ける事は無いと思うので構いませんが……自前のベッドですか?」


 凄い聞き返してくる。

 まぁ、宿屋にベッド持ち込む人はなかなか居ないのだろう。

 日本では絶対に無いだろうが、魔法がある世界なのだ。ベッドを持ち込む人くらい、私の他にも居るだろう。


「えっと……此方が部屋の鍵になります」


「悪いな」


 私達のせいで営業スマイルが剥がれかけたお姉さんだったが、次のお客さんが来たとわかれば直ぐに元通りの表情になっていた。

 接客のプロは流石である。



 ―――クラウス視点―――



 街の大衆浴場にも寄り、下で夕食も済ませたので、後は部屋に戻って寝るだけだ。

 《不屈の闘志》が太鼓判を押すだけあって、なかなか旨い料理だった。鶏肉の香草焼きなんかは、俺は普段作らないから勉強にもなった。


 部屋に入った途端、アカリは駆け出し自分のベッドに飛び込む。


「明ちゃんスペシャルダーイブ!」


 何故アカリはベッドに飛び込みたがるのか。

 だが、今度はきちんと『鉄壁』を使っていた為、スカートから()()()事はなかった。

 アカリもしっかり学んでいる様で感心だ。


「まぁ、今日のは今更隠しても遅すぎるけどな」


 スパーン!と枕を顔に投げられた。

 今日は()()のお陰で助かったんだから、別に良いじゃないか。


「寝る!おやすみ!」


 枕を返したら不機嫌なまま布団に包まってしまった。


(もう夜も遅いしな。俺も寝るとするか)


 布団に入り、(あか)りを消す。

 暗くなった部屋には一切の光など無く――



 ドオォォン!



 ――訂正。

 爆音と共に窓から雷光が訪れる。

 そう言えば夕飯を食べてる間、やたらびしょ濡れの客が多かった。

 あれは外で雨が降っていたのか。昼間から雲行きも怪しかったしな。



 すると、のそりと()()が立ち上がり、俺の布団に入ってくる。


「……おい」


「クラウス君が一人じゃ寂しいだろうと思って、優しい明ちゃんが来てあげました」


「一人には慣れてるから、安心して自分のベッドに戻れ」


「……寂しい事を言ってるので、優しい明ちゃんが傍に居てあげます」


 俺の腕をぎゅうと抱き締めるそれは、震える小動物の様だ。



 それにしてもアカリが雷が苦手だったとは()()だ。

 それも、俺の布団に逃げ込んで来る程。



「いつだかは同じ家ってだけで、襲われるだなんだ言ってたのにな」


「変な事したら大声上げるからね!」


「するわけねぇだろ馬鹿」


 そんな会話を最後に、アカリは早くも寝息を立て始める。

 色々あって疲れていたのだろう。今日は俺だって疲れたくらいだ。


 隣を見てみれば、雷光に照らされて、心地よさそうな寝顔が目に入る。


(雷はまだ鳴ってるのに、随分と深い眠りだ事で)


 その図太さが実にアカリ()()()



 図太くて、時々ムカつくけれども、何より安心する。

 そんな顔を見ながら、俺も深い眠りに落ちていった。

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