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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
72/134

明じゃない

 ―――クラウス視点―――


「六コンボ!」


「げぶらっ!」


「七コンボ!」


「ぐぬぺっ!」


 先程から盗賊を次々殴り飛ばしていくアカリ。

 何を言ってるかはわからないが、その勢いは凄まじい。


「……次、何コンボだっけ?」


「し、知らねぇよ」


()?じゃあ、これで五コンボ!」


「めぎょっ!」


 突然の事に、盗賊達が戸惑っているのもあるが、アカリの動きが見違えるように速くなっているのだ。



 だが、戸惑っているのは盗賊だけじゃない。


「あれ、アカリちゃんか……?」


「なんだい、ありゃ……」


「嬢ちゃんが強ぇってのは、こう言う事かよ……」


「いや、俺も初めて見た……」


 《不屈の闘志》や俺も何が何だか全くわからない。


 ……いや、この混乱の中で俺だけは見当が付いている。

 あの赤い()に覆われた左腕。


()()か?……だが何故、今になって……)


「アカリが竜人なんじゃないか」と言う話は以前にもした。

 その時は結局わからず終いだったが、今更になって判明するとは。


(今になって竜化した原因……出血か?

 生命の危機を感じた体が無意識に変化を起こした、と考えれば納得は出来るか)



 アカリが馬車に(こも)ってる間に、俺達で粗方の盗賊は片付けていた。

 攻めに傾け過ぎた結果アカリと商人を危険に曝したが、アカリが覚醒して怪我の功名と――は言えないな……


「ハハハ!残り一匹ぃ!」


 今のアカリは、確実に力に()()()()()


「ちぃ!」


 残った盗賊の一人、ハチャがアカリの攻撃を剣でいなす。

 首魁なだけあり、他の有象無象とは違い冷静に対処している。


 だが、休み休みとは言え今までずっと剣を振るっていたハチャと、ほとんど動いていなかったアカリ。体力の差は歴然だ。

 それに加えて、今は竜化しているため膂力(りょりょく)もアカリが上回っている。


 決着は直ぐに訪れた。


「がっ!」


 顔を殴られ吹き飛ばされるハチャ。

 幾ら体を鍛えても、脳は頑丈にはならない。

 顔に強い衝撃を受ければ、他の盗賊と同じ様に気絶するだけだ。



 これで盗賊との戦いは終わった。


 だが、それでもアカリは止まらず、倒れたハチャに馬乗りになって殴りつけようとする。


「落ち着け!やり過ぎだ」


 振りかぶったアカリの拳を抑える。

 竜化してるだけあり、人間態の俺じゃギリギリだ。

 俺も、もう少し鍛えないと駄目かもしれない。



 俺が止めに入った事で冷静になるかと考えたのだが、ここでアカリは思わぬ行動に出る。



『着火』



「なっ!」


 俺の白衣に火が点る。

 だが俺は熱魔法で白衣の温度を下げて瞬時に消す。


 大した攻撃じゃない。



 だが、アカリは俺に()()したのだ。



 幾ら力に飲まれたからと言って、()()()()()する様な奴じゃない。

 だから、俺は思わずこう呟いた。




「お前……誰だ?」




 どう見たってアカリだ。だが、俺には其れがアカリの姿をした()()に見えた。


 俺の言葉に一瞬、スンと表情が抜け落ちたアカリだったが、直ぐに先程と同様の笑みを浮かべ、大声で笑い出す。


「フフ……フフフ……アハハハハ」


 一頻り笑った後、アカリは――いや、()()()()()()()は其の名を告げる。




「良いだろう、教えてやる……俺は(あか)

 (あかり)の中に居る、()()()()だ」



 ――――――



「アカ……それに、もう一人ってどう言う事だ?」


「クラウスに一から説明するの面倒臭ぇなぁ。

 ()()()()って知ってるか?」


「……概要程度だったらな」


 二重人格。

 先代の医学関係の資料の中に少し書いてあった為に知っている。

 確か、耐え難い()()を味わった時に、心に()()()()()()が生まれる病だ。


「……アカリからは、アカなんて人格が居るなんて聞いてねぇぞ」


「そりゃそうだ。俺はさっき生まれたからな」


(さっき生まれた。となると原因となる苦痛は……

 ……出血の()()か!)


 死んだ時も大した痛みは感じなかったと言っていた。

 恐らく今回の怪我が今までで一番の痛みだったのだろう。

 只でさえ血が苦手なアカリが、戦士でも顔を歪める様な傷を受ければ、耐えられないのも無理は無いか。



「そうか、盗賊を倒してくれて助かったよアカ。

 アカリと変わってくれるか?」


 とにかくアカリの状態が心配なので、アカに交代する様に促す。

 アカリだったら、これで言うことを聞いたのだろうが、アカは――


「……断る。俺の仕事はまだ終わっていない。

 盗賊が小麦粉なんかを狙うって事は、それを()()相手も居る。そいつらも俺が捕まえてきてやる」


 まぁ、アカの言う通りだろう。盗賊達が盗んだ小麦粉を使って皆で仲良くパン作りなんてしてる訳がない。

 だが、そこまで手を出そうと言うのは傲慢だ。

 力で解決出来る範囲じゃない。専門家なりに任せるべきだ。


「そりゃ居るだろうが俺達の仕事じゃねぇ。

 とにかく竜化を解け。アカリと変われ」


 だが言う事は聞かず、抑えていた俺の手を振り払うアカ。



「さっきから聞いてれば、否定ばかりで気に食わねぇ。

 そんなに言うんだったら、力尽くで俺が正しいって証明してやるよ」


「なんでそうなるんだよ……」


 駄目だ。思考回路が全くわからん。

 臨戦態勢に入るアカに頭を抱えてしまう。


 だが、これは逆に都合が良いかもしれない。

 普通の竜人と同じなら気絶させれば竜化は解ける。


(だが、解いた所でアカからアカリに戻るのか?

 ……そこは祈るしかねぇか。まぁとにかく――)


「そっちがその気なら、一発殴って目を覚まさせてやる」



 飛び出した(アカ)とクラウスの拳が激突する。

次回、明(緋)VSクラウス

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