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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
70/134

勢いはいつまでも続かない

 ―――クラウス視点―――


「ちっ……!」


 ()()だ。


「なんで――」


 ハチャが叫んだ「フォーメーションB」その合図で盗賊の動きが全くの別物に変わった。



「なんで、盗賊が()()()()()()()んだよ!」



 そもそも、盗賊が()()から()()しているのに、此方からの攻撃を避ける事に徹して、明らかに()()させにきてる。

 かと言って手を休めようとすれば無視できないギリギリの攻撃を仕掛けてくる。そのくせ自分達は数的有利を活かして交代で休息をとるから腹立たしい。


 高速移動で一気に攻めるのは簡単だが、俺が離れた隙にアカリやアキナを狙われたら()()()()()()



 そう、俺はアカリ()守らなければいけないのだ。



 ―――アカリ視点―――


『プロト!』


 盗賊の剣を不可視の壁で防ぐ。


「ぐっ……」


 弾き返せこそしたものの、当初の余裕は全くない。


 ピートさんのナイフで切られた者が、ヴェルの魔法により焼け爛れた者が、「これが戦いと言うものだ」と私の心を(さいな)んでくる。

 そんなこと最初からわかっていた。だが、頭で理解するのと、実際に体験するのでは違う。


 余裕が無くなったからこそ感じる、人間(盗賊)からの明確な殺意。

 それは私の呼吸を乱すのに十分過ぎる要素だ。



 周囲に視線を向ければ、ヴェルに向かってナイフを投げる盗賊の姿が見える。


『プロト!』


 咄嗟に放った空気の壁は、ナイフの勢いを殺しきれず霧散する。


 ナイフとヴェルを隔てる物は他に存在せず、その刃がヴェルの首筋に吸い込まれていく。



「だぁ!」


 だがリリさんの伸ばしたハンマーにより、(すんで)の所でナイフが弾かれる。

 本当に危なかった。


「ぼさっとしてんじゃないよ!」


「悪ぃな。助かったわ」


 ヴェルはポーチから取り出したマジックポーションを呷る。

 勿論、盗賊達もそんな隙を見逃す筈はなく、ヴェルに猛攻を仕掛けるが、鬼気迫るリリさんが其れを許さない。


「誰一人、通しゃしないよ!」


(私も加勢しなきゃ――)


 そんな思いから再び『プロト』をかけようと手を伸ばす。



 ヴェル達の居る、前方ばかりに意識を向けて……



 ―――ヴェル視点―――


 魔法使いの弱点は、疲労による集中力の低下が戦士よりも極端な所にある。

 特に、全方位に意識を向ける必要がある乱戦では、それが顕著に表れる。


(よし、マジックポーションのお陰で多少はマシになってきた。

 これでまた――)


 視線を前に戻した俺が見たのは、嬢ちゃんに刃を向ける盗賊の姿。


「危な――」


 だが俺の言葉よりも早く、兄ちゃんの跳び蹴りが盗賊の腹に辿り着く。


「がはっ!」


 地面を転がっていく盗賊。

 ()()()ではなく、()()()だ。

 兄ちゃんの跳び蹴りの威力は言うまでもないだろう。


(凄ぇな……まだあんな体力があるのか)


 誰よりも動き回っている兄ちゃんの疲労は、誰よりも軽そうに見える。

 普段からどれだけ鍛えているのやら。


「え?……あ、クラウスありがとう」


 状況がわからず呆けていた嬢ちゃんだったが、助けられた事を理解すると直ぐに礼を言った。

 兄ちゃんは、そんな嬢ちゃんを一瞥(いちべつ)すると、短く言い放つ。


「お前はアキナと馬車の中に隠れてろ」


 一瞬キョトンとした嬢ちゃんだったが、直ぐに笑顔で宣言する。


「大丈夫だよ、クラウス。

 まだ戦えるよ」


 その笑顔は、とてもぎこちない。

 出会って一日ちょっとの俺ですら、無理しているのがわかる。


()()()()が前線に居るのは、はっきり言って()()だ。

 戦う力があると言うなら、アキナを守る為だけに使え」


「っ……!

 ……わかった」


 アキナさんを連れて馬車に入っていく嬢ちゃん。

 下唇を噛み締めたその顔は、いつ泣き出してもおかしくない様に見えた


「あれ、放っておいて大丈夫か?」


 俺の心配に対し、兄ちゃんは誇る様な笑みを浮かべる。


「あいつは()()。お前が思うよりも、俺が思うよりもな。

 あいつは()()()()()()()()()()落ち着いて戦える。だから安心しろ」


 兄ちゃんはそう言うが、俺から見れば嬢ちゃんは魔法が得意な()()の普通の子供だ。

 大人が信頼して良い程、特別には見えない。

 だが、()()ならば俺よりも其れを理解した上での行動なのだろう。


 嬢ちゃんは心配だが、これ以上は俺も構っていられない。

 戦いはまだ続いているのだ。



「嬢ちゃん、思いつめなきゃ良いが……」



 誰に語るでもなく小さく呟き、俺は思考を切り替えた。

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