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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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しがない研究者

『ゲート』を潜り抜けた先は、広めのリビングだった。

 木材の床、丸太の壁。この建物はログハウスかな?

 テーブルに椅子。久しぶりに感じるな。

 植木鉢にはアロエ。観葉植物だろうか、齧ったら怒られそう。

 綺麗な硝子窓。から見える外には、自転車!

 ……自転車!?素体は木材みたいだけど、あれは間違いなくママチャリだ。


「おい、ウキウキで見て回るな。そこかしこをベタベタ触る前に手を洗え。……手を洗っても窓はあまり触るな、指紋が付く。」


 早速注意されてしまった。

 子供じゃないんだから窓は触らないよ!……そんなには。


 異世界にしては、かなり文化が発展してるらしい。

 地球人の勇者は既に存在してるみたいだし、その人が文化を教えたとかかな?

 魔法の世界で自転車が普通に置いてあるは違和感がある。


 クラウスさんの指示に従う為に洗面所に移動する。

 洗面台で蛇口に手を翳すと、水が出てくる。

 ここまで来ると現代の我が家以上の文化レベルだ。



 リビングに戻ると、クラウスさんが座って待っていた。


「さて、それでは長い話とやらを聞かせてもらおう」


「そうですね。では、あの日の出来事から話すとしましょう」


 余計な話はせず私の経緯を話すには、私が死んだ日から始めるしかない。



「夏の夕暮れ。汗ばむのも気にせず道端で口論する、制服姿の学生が―――」



「待て!そんな情景の描写は要らないから、事実だけを並べろ!

 そんな朗読劇みたいにする必要はない」


 止められてしまった。

 私の経緯(ものがたり)を伝えるには、これが一番なのに。


 でもクラウスさんも頭を抱えてるし、具合が悪いのかもしれない。

 今日は簡潔に纏めて話すとしよう。



 ――――――



「……で、俺と出会ったという訳か」


 全てを話し終えると、もう日が沈みかけている。


「そういう訳で、作物勝手に食べちゃってごめんなさい!」


 やっときちんと謝れて、心が幾分軽くなる。

 経緯を話してる間もこれがずっと心に引っ掛かってたからね。


「いや、構わん。どうせ里の奴らに言われて作ってた物だ。

 悪戯ではなく生きる為なのであれば、お前に食われた方が幾分気分が良い」


 度量の深い優しい農家さんだ。


「クラウスさん……」


 私が感動していると、クラウスさんは苦笑いを浮かべる。


「出会って数時間の俺が言うのもおかしいが、お前かなり猫被ってるだろ。妙に鳥肌が立つから普段通りにしていいぞ」


「な、なんでわかるんですか!?クラウスさんは読心術の使い手ですか!?それとも魔法ですか?魔法ですね!使用を禁じます!」


 私は慌てて捲し立てた。


 何故バレたし……

 初対面の人に丁寧に接することに於いて、明ちゃんの右に出る者は居ないだろうに。


「怒ってる奴に「本業は芸人なのか?」なんて言う奴だぞ?ボロは出まくりなのに張りぼてで誤魔化すから、正直気持ちが悪い。

 あと、敬語も要らん。なんか煽られてる気がする」


 もう何度目かわからないが、クラウスさん……クラウスは頭を抱えている。

 全く失礼な!明ちゃんの対応は完璧なのに!


「それじゃあ、改めまして!

 天才……は今日は返上してるので、只の美少女、明ちゃんです!

 これからは、クラウスって呼ぶことにするから。よろしくね」


 とびきり可愛いウインク付きで挨拶し直す。


「化けの皮を剥がした事を、既に少し後悔している……

 あー、俺も改めて自己紹介するとしよう。

 この人類文化・魔導具研究所の所長にして唯一の職員、研究者のクラウスだ」


 これまた今日何度目かわからない溜め息と共に、挨拶し直される。

 研究者なのか。てっきり農家かと思ってた。


「……あの作物達は里に納める為に、世話要らずでも育つ様に品種改良したものだ。

 食文化の研究には役立ってるが、あくまで仕方なく作ったものだからな!俺は断じて農家などではないからな!」


 また心を見抜かれた!

 一体何故だ!


「お前、感情が顔に出過ぎなんだよ。少しは隠す努力をしろ」


 衝撃の事実である。明ちゃんの人生でも五本の指に入る程の大きな衝撃。

 なんてことだ。ポーカーフェイスには自信があったのに……


「このままお前の顔に答え続けてたら一生話が進まんから、ある程度無視するぞ」


 クラウスが何か話をしたがっているので促す。


「先程の自己紹介の通り、俺は人類文化の研究をしている。中でも俺が一番関心を持っているのは勇者世界の文化だ。

 この家の中が勇者世界を模しているのは、お前も気付いただろう?」


 私が頷くとクラウスは演説を続ける。


「そこに勇者世界から、使命も泊まる宿もないお前がやってきた。

 つまり、何が言いたいかわかるな?」


「全然わかんない!」


 私の元気一杯な答えに、クラウスが呆れながらも続けてくれる


「つまり、宿として我が家を提供してやるから研究に協力しろってことだ」


 私は腕を組み、深く考える。

 願ってもない提案だ。正直、心の大半は考えるまでもないと言っている。

 だが、うまい話には棘があるとも言う。


 ……棘じゃなくて毒だったっけ?

 なんにせよ、疑えってことだ。

 じっくりしっかり考えて結論を出さねば。


 私が悩んでいると、クラウスがダメ押しの一言を放つ。



「……今日の夕飯はハンバーグだ」


「お世話になりやす!!!」



 うまい肉には刺も毒もないからね。

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