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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
69/134

冒険者は伊達じゃない

長め

 ―――ピート視点―――


 戦いが始まり、僕は即座にハチャの所まで駆け抜ける。

 数人の盗賊からの攻撃を避け、ハチャの首筋を目掛けて振るったナイフは剣で弾かれた。


 リーダーを早々に始末すれば、集団の弱体化を図れると思ったのだが……

 流石は二つ名持ちの冒険者。そう甘くはない。


「これだけの盗賊を、どうやって纏めあげた!」


 剣戟を繰り広げながら、ハチャと言葉を交わす。


「簡単さ。俺はずっとCランクの冒険者として働いてきた。

 Cランクは対人の依頼、つまり盗賊に関係するものばかりだ。

 そこで(つちか)ったノウハウを盗賊共に持ち込んだ。「俺の部下になれば、絶対に捕まらずに盗賊が出来る」ってな!」


 確かに盗賊からしてみれば、敵の情報は喉から手が出る程に欲しい物だ。

 それこそ、部下として従う事になってでも。


「しかし、どうやって作戦の情報まで掴んだ!

 我々は情報が漏れない様、厳重に警戒していたと言うのに」


 僕の問いに、ハチャは嘲笑う様に答える。


「厳重()()なんだよ。

 今の時期にCランク以上の冒険者がギルドに集まってれば、盗賊の殲滅作戦だと予想がつく。

 それが極秘ときたら尚更だ」


「成る程、冒険者ギルドに常在している仲間も居るのか。

 街に着いたら、そいつも捕まえなければな」


 余程勝てる自信がある様で、簡単に情報を吐いてくれるのは助かる。

 後は賊共を討伐し、この情報を持ち帰れば良いだけだ。


「おいおい、この状況から生きて帰れると本気で思ってるのか?」


 ハチャの剣の勢いが増す。

 手合わせするのは初めてだが、厄介なものだ。


 Bランクに上がり護衛の依頼を受ける事が減っても、対人戦の()()は続けていた。

 だが、()()で常に戦ってきたハチャの実力は伊達じゃない。


「確かに強いが、この程度なら大した事はない。

 ()()なんて二つ名も、大袈裟だね!」


 今の言葉も半分は虚勢だ。あと少しでも剣の速度が増せば、僕は会話する余裕もなくなるだろう。

 だが、もう半分は本心だ。怪我をする前の師匠の方が余程強かった。


(だから、まだやれる!)


(ジジイ)の金魚の糞が調子に乗るなぁ!」


 ハチャの剣の動きが変わる。

 成る程。()()とは、よく言ったものだ。


 僕は先程から、奴の攻撃を全ていなしている。いや、いなす様に()()()()()()()()

 流れたハチャの剣は、そのままの勢いで次の攻撃となって襲いかかってくる。攻撃が通らないと判断した瞬間に、その攻撃を()()次の攻撃への布石に変化させているのだ。

 これはまるで剣による演舞、両者の攻撃は全てハチャが決めた演目通りであるかの様。



(これは一対一じゃ勝てないな)


 だが、それでも僕は余裕の表情を崩さない。



「なんで、まだ絶望しない!」



 ハチャへの答えは、彼の振り下ろした剣が()()()()()に弾かれた事が物語る。



「幸運にも、助っ人が居るからさ」



 ―――明視点―――


『プロテクテクト!』


 アキナさんを含む全員に防御壁を張った。

 これで大抵の攻撃は平気だろう。

 少なくとも、破られる様な事があれば私に伝わる。


 後は、()()に徹していれば良い。


『暖房!』『冷房!』


「なんだ!?今むわっとしたぞ?」


「うわ、寒っ!」


 盗賊が固まっている辺りの気温を滅茶苦茶にする。

 これにより、きっと盗賊のコンディションはガタ落ちだ。

 温度差による体調不良は、案外馬鹿に出来ないものである。


 更に――


『エアガン!』


「あてっ!」


「うげっ!」


 外してもフレンドリーファイアしない様な位置の盗賊は、積極的に狙っていく。

 正確に頭に当てないと気絶させる事は出来ないが、適当な位置に当たるだけでも結構痛いであろう。


 だが、そんな邪魔を続けていれば当然――


「ガキを狙え!あいつが魔法使いだ!」


(やば、目立ち過ぎちゃった)


 だが、いつも私を助けてくれる声がする。


「やるじゃないか。後は任せろ」


「クラウス!」


 彼は溶刀ムラマサよりも()()()を構え宣言する。



「さぁ、雑魚狩りの時間だ」



 ―――クラウス視点―――


 相手は人だ。魔物じゃない。

 龍人による殺人とあっちゃ、再び女神の逆鱗に触れる可能性もある。

 今度怒らせたら、竜人すら通さない結界を作られるかもな。


 まぁ、要するに今回は()()の方が良いって事だ。


(必要なのは()()の溶刀ムラマサじゃない)


 取り出した刀に魔力を込める事で、()()()()特有の翡翠色が蒼白く染まっていく。


()刀オオデンタ。実践で使うのは初めてだな」


「え、それ大丈夫?」


 初めてと言う言葉で不安にさせた様だが、心配は要らない。


「俺が作った魔導具だぞ?

 俺が誰よりも理解している!」



「覚悟ぉ!」


 盗賊が威勢良く突っ込んでくる。

 俺に向かい振るわれた剣に、オオデンタを合わせる。


 ムラマサとオオデンタは対になる様に作ってある。

 ムラマサが()()なら、オオデンタは()()


「ムラマサが()()なら――」



 バキンッ!


 盗賊の剣が音を立てて砕け散る。



「――オオデンタは()()だ」



「俺の剣が!」


 自分の剣が突然折れた盗賊は狼狽している。


 冷刀オオデンタは触れた物を急速で冷凍し、脆くなった所を破壊する。

 武器が無くなれば、盗賊も続けられまい。


「そのまま素手で殴りに来ても良いぞ?

 同じ様に破壊してやる」


 怯えた雑魚は後ろに下がっていく。

 相手の攻撃に合わせるだけで無力化するオオデンタは、この戦いに丁度良い。


(だが、このペースでは遅すぎる。

 多少は此方からも叩き壊しに行くか)



 ―――リリ視点―――


「クラウスが強いのは知ってたけど、武器もあそこまで強いとはね」


 片手盾で盗賊の剣を防ぎつつ、ハンマーを()()()殴り飛ばす。

 伸縮魔法が刻まれたアタイの武器――エク()()()ドを使った本来の戦い方なら、クラウスにだって負けていない――と思っていたが、あの動きを見てると少し自信もなくなるってもんだ。


(まぁ、アタイ本来の役目は敵を()()()ことさ)


 チラリと見れば、ヴェルも()()を手にして準備万端だ。


「間違って他を巻き込むんじゃないよ」


「おいおい、どれだけ()()()()を使ってきたと思ってんだ?」


 ヴェルは酒好きだが、戦闘中に()()()()を取り出す奴じゃない。

 あれは()()()()()だ。


 ヴェルが得意とする魔法。

 それは修繕魔法ともう一つ――



 ―――ヴェル視点―――


 酒を口いっぱいに含む。

 本当なら今直ぐにでも飲み干したいが、こんな()()()()()酒を今飲んだら、戦闘どころではなくなってしまう。


 口が酒で塞がっている関係上、この魔法は脳内詠唱で行うしかない。

 ほんの一時とは言え、目を瞑り集中する必要がある脳内詠唱は、基本的に戦闘には向かないとされる。


 だが、俺にはリリ(仲間)が守ってくれると言う信頼がある。

 目を瞑っても何も問題は無い。


(俺の自慢の()()魔法を喰らいやがれ!)



『火種よ、灯れ――ファイアブレス!』


 燃え盛る()が俺の口から放たれる。

 近くに茂みや馬車がある関係上、あまり多くの敵に当てられなかった。

 だが、突然上がった火の手にパニックを起こした奴が居るのは僥倖。


「リリ、次は『ファイアバレット』でいくぞ!」


「あいよ!」



 ―――ハチャ視点―――


「ちっ!」


 一番槍で突っ込んだ手練れの盗賊共が、既に五人も戦闘不能だ。

 《不屈の闘志》とわかった時点で多少の()()は予想してたが、この速度は早すぎる。


「どうだ。数の差で覆せそうか?」


 余裕を取り戻したピートの顔がウザったい。

 流石は高ランク冒険者と言ったところか。俺が憧れ続けた場所に居るだけの事はある。


(ますます腹立たしいな)


 特に助っ人と言う刀使いが厄介だ。

 だが、全盛期の(ジジイ)程の精密さはない。あれならどうにかなる。

 このまま()()()()負ける。


 それならば、動きを変えるまで……!


「野郎共!フォーメーションB()だ!」

雑補足

・伸鎚エクスタンド

伸縮魔法が刻まれたリリの武器。

持ち主の攻撃範囲を拡げ、確実に相手を気絶させる。

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