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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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馬車に空きは無い

第二章も終盤です。

 馬車の荷台は樽()でほとんど埋まっている。

 私の座るスペースは狭いので、座布団を敷いて足は外に出しブラブラさせている。

 後ろ向きの景色を見ていると車酔いをしやすいと言うが、私は全然乗り物に酔わない体質で良かった、


 他の護衛の皆は、馬車の前後に二人ずつで徒歩移動だ。

 私だけ楽をしてるのは少し申し訳ない。

 だからと言って歩く気はないけれど。


「なぁ、一つ聞いて良いかい?」


 後方担当の一人であるリリさんに話しかけられる。

 護衛の仲間に秘密なんて……あんまりない!答えられるものなら答えよう。


「なんですか?」



「その鹿威し、なんなんだい!」



 なんだ、馬車に載せてあるシッシーの事か。

 最新式のサスペンションで揺れが軽減されているからか、水も溢さずに置いておけるのは素晴らしい。

 そらにしても、シッシーの()()()()なのだろうか



「何って……普通の魔物除けですけど?」


「なんで態々そんな嵩張る物にしたんだい!」



 リリさんの指摘で、初めてその可能性に辿り着く。


(魔物除けって普通は鹿威しじゃないのか?)


 ……いや、確かにマジックバッグを持ってない人には、シッシーの持ち運びは大変だ。

 それに『サイコ』みたいな浮遊させる魔法を使えないと、移動中も使えない。


「嵩張らない魔物除けって例えば……?」



「こんな風にベルで良いだろう」


 リーン


 リリさんが取り出した小さなベルは、正直シッシーよりも綺麗な音を奏でている。

 ……あれ?シッシー解雇の危機では?



 そんなシッシーの危機を救えるのは只一人――


「嵩張っても良いだろ。俺の拘りだ」


 もう一人の後方担当、クラウスである。

 と言うか、クラウスの心が離れない限りシッシーに解雇の危機など無いだろう


「アンタ、本当に変わってるね……」


「よく言われる」



 ――――――



「無駄に騒いだから喉が渇いちまったよ」


 リリさんは恨めしげに此方を見る。別に騒がせるつもりなど全くなかった。

 だが、確かに陽射しが強くて暑い。猛暑と言う程ではないが、ずっと日向を歩くには辛いだろう。

 仕方ない。あれを出してあげるとするか。


「クラウス」


「ん」


 最小の遣り取りで望んだ魔導具(ポット)が渡される。

 カップに水を注いでリリさんに渡す。


 だがこんな気温じゃ、また直ぐに喉が渇いてしまう。

 ついでに冷やしてあげるとするか。


『冷房!』


 前方の護衛二人や、御者をしているアキナさんにもかけてあげる。


「アンタ、便利な魔法を持ってるんだね」


 素直に感心した様にリリさんが頷く。

 褒められると照れてしまうぞ。


「それほどでも」


「いや、環境による疲労が一番馬鹿に出来ないんだ。

 アンタのそれは冒険者向きだよ」


 冒険者の御墨付きをもらってしまった。

 明ちゃんの才能は留まるところを知らないな。


「……あんま調子には乗るなよ」


 クラウスは直ぐに私の心を見抜いて指摘してくる。

 良いじゃないか。少しくらい気分良く居たって。



 ――――――



 夕方に差し掛かり、今日はこの場で夜営をする事になった。


 ヴェルがポーチから瓶を取り出す。

 サイズ感で考えれば入る訳ないのだが、どうせ()()()()()()()の類いだろう。

 それよりも気になるのは、瓶の中の少し()()()()()液体だ。


「それ何?お酒じゃないでしょ」


「お、嬢ちゃんは目敏いな。

 これはマジックポーションだ」


「ポーション!」


 フルート村での詠唱に続いて、またまたファンタジー要素である。

 いったいどんな味がするのか。気になって仕方がない。


「そんなに気になるなら少し味見するか?」


「うん!」


 ヴェルが私の掌に少し垂らしてくれたので、チロリと舐めてみる。



「甘いね……」


 砂糖水と言うよりは、濃い目のスポーツドリンクみたいな感じだ。

 そう言えばクラウスも「回復には糖分を摂れ」みたいな事を言っていた。


「これでも結構な値段する奴なんだけどな。

 そんな残念そうな顔されるとは驚きだ」


 恐らく工場なんて無いのだから、絶妙な配分だと高価だったりするのだろう。

 只、この味は現代人には有難みがないのだ。



 ――――――



「お二人とも、大切な話があります」


 夕食の後、ピートさんが改まって話しかけてくる。

 はて、なんだろうか。



「明日、盗賊は確実に襲ってきます」



「……言い切るって事は、何か根拠があるんだな?」


 クラウスは訝しげな視線を向ける。

 確かにそうだ。盗賊の動きがわかるわけでもなし――


「盗賊の動きは、既にわかっているんです」


 ――あれぇ?それ普通に凄くない?

 それならもう普通に捕まえれば……あ、そうか。


「つまり、お前ら《不屈の闘志》は盗賊の討伐に来たって事か」


 明ちゃんもわかってたのに、クラウスに先に言われてしまった。


「はい。正確には()()()()です。

 この領内には複数の盗賊団が出るので、我々以外のパーティも同時に任務に当たっています」


 あら、盗賊が出るとは聞いてたけど、そんなに沢山居るのか。



「極秘の任務の為、村でもお伝えする事が出来ませんでした。

 すみません」


 申し訳なさそうにするピートさん。

 でも、私達は大丈夫である。


「気にするな。無理やり付いて行くと言ったのは此方だ」


「そうだよ!来るとわかってるなら心構えもバッチリ出来るからね」



「クラウスさん……アカリちゃん……

 ありがとございます。ですが、我々もBランク冒険者。

 お二人に頼らずとも、十人程度の盗賊など討伐して見せましょう」


 そう宣言するピートさんにヴェルとリリさんが肩を組む。


「おうよ。盗賊なんかに負けるアタイらじゃねぇさ」


「それに頼りになる兄ちゃんも居るんだ。

 万に一つも負けはねぇよ」


 《不屈の闘志》の笑い声が闇に響く。



 そうだ。私達に不可能なんて無いのだ!

雑補足

・マジックポーチ

空間魔法ではなく、伸縮魔法と保存魔法が刻まれている。

小さく腐りにくくして運ぶだけなので、言ってしまえば劣化マジックバッグ。

高級品だが、高ランクの冒険者なら問題なく買える程度。


・白い濁り

マジックポーションはブランド毎に染色魔法で色付けされている。白は冒険者組合本部の色。

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