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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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必要ない護衛

「護衛はお断りします」


「なんで!?」


 私が驚くのも当然だろう。だって盗賊が現れるのだ。

 自分の身が危険に晒されるのに、何故護衛を断る必要があるのか。


(金か!此奴も金が無いんか!しからば報酬は要らぬぞ!)


 だが、答えは私の後ろからやってきた。



「護衛ならアタイ達が居るからだよ!」



 そう話しかけてきたのは、軽鎧に身を包んだ白い――


「ケモミミ!」


「なんだい、このガキは……

 ……ちょっ、触るんじゃないよ!」


 ケモミミだけではない。尻尾もきちんとある()のお姉さんだ。

 触ったらピクピクと動いているので、恐らく飾りではない。


 だが、私は少々夢中になり過ぎた様で、近くに居たお兄さんから諭す様に話しかけられる。


「獣人に会うのは初めてなのかな?

 でもリリも嫌がってるから、離してくれるかい?」


 リリと呼ばれた彼女は成る程、確かに不機嫌だ。

 いきなり抱きつくのは流石に嫌だったか。

 人にはそれぞれパーソナルスペースがあるものね。


「あ、ごめんなさい」


 私が直ぐに謝ると今度は、酒瓶片手のおじさんに頭をポンポンされる。


「素直に謝れるのは良いことだぜ、嬢ちゃん」


(おい、今パーソナルスペースの話をしてた所だろ。

 このおっさんも叱られて然るべきなのでは?)


 そんな意思を込めて、お兄さんの方を見る。


「あー……ヴェル、君もやめるんだ。

 彼女が凄い顔をしているぞ」


 そんなに変な顔ではないと思うのだが。

 まぁ多少は睨んでるかもしれないけども。


 頭をポンポンされるとトキメく人も居るらしいが、少なくとも名も知らぬおじさんにされたら誰だって不愉快だろう。



「おっと、まずは自己紹介からしなくちゃな。

 俺はヴェル。この二人と《不屈の闘志》って冒険者パーティで活動してる。

 宜しくな、お嬢ちゃん」


「僕はピート。

 ……それで少し態度が悪い彼女がリリだ」


「フン……」


 このウインクしてきた、如何にも酔っぱらいのおじさんがヴェル。

 優しそうな細身のお兄さんが、ピートさん。

 ケモミミ鎧お姉さんがリリさん、と言うらしい。


 ヴェルはともかく、他の二人にはきちんと挨拶をせねば。


「私は明です。こっちが――」


「クラウスだ。

 済まないな、先に護衛が居るとは考えが及ばなかった」


 確かに、冷静に考えれば盗賊が出るのは帰りとは限らない。

 村に来る時点で護衛が既に居るのは当たり前だ。


「別に俺達も、お前達の報酬を掠めとりたい訳じゃない。

 同道させてもらえるなら、護衛と言う形でなくても――」


「無理だね。

 あんたらが乗るスペースで、より多くの荷物が積めるんだ」


 リリさんはクラウスの発言を遮り突っぱねる。

 私達は食事と宿と言う報酬を既に貰っている。

 だから負担はかけない、と言っているのだが取り付く島もない。

 問答など無駄だから、さっさと諦めろと言わんばかりだ。


「リリ、言葉が強すぎだよ。

 ……すみません。ですが、此方の意思は彼女の言う通りです」


「ってなこった。悪いな嬢ちゃん。

 もう(しばら)く村に居てくれや」


 酒臭い顔がにっこり微笑んでくる。


 どうやら、この決定はリリさんの意地やプライドによるものじゃないらしい。

 クラウスにも其れが伝わった様で、溜め息を吐くと《不屈の闘志》に背を向ける。


「……仕方ない。なら俺達は二人で先に行かせてもらう」


「なっ……!正気かい、あんた!?

 ()連れで盗賊が出る所に――」


「兄だ」


「……ん、んっ!

 ()連れで盗賊が出る街道を通るなんて、無茶にも程がある!

 やめときな!」


 クラウスの拘りのせいで、少し締まらない感じになってしまった。

 もしかしたら《不屈の闘志》は私達を心配して言ってくれてるのかもしれない。

 その気持ちはありがたい。



 でも、()()なのは此方も同じだ。



「そうだよクラウス、やめようよ」


「ほら、妹の方がわかってるじゃないか。

 だからアンタも大人しく村に――」



「この人達が()()()()()()()()()のに、商人さんを放ってはおけないよ!」



 私()が一緒に行かなかったせいで商人さんが死んじゃったら、私はきっと一生後悔することになる。

 そんな思いからの発言だったのだが――



「馬鹿……」


 そのクラウスの呟きの意味がわからず首を傾げていると、クラウスは「後ろを見ろ」と指差す。

 いったい何かと思い振り返ってみると――



「なっ……」


 ピートさん絶句。


「かっかっか!

 面白い事を言うな、嬢ちゃん」


 ヴェル大笑い。


「おい……言うじゃねぇか、クソガキ。

 アタイらよりも、てめぇの兄貴の方が強いってか?」


 リリさんブチギレ。



 三者三様に感情が爆発している。

 これは私の言葉足らずだったかもしれない。きちんと説明しよう。


「いえ、あの違くて!

 きっと皆さんも強いんでしょうけど、正直クラウスより強い人が想像出来ないって言うか……」


 その身に纏う雰囲気で、《不屈の闘志》がベテランであろう事はわかる。

 きっと《不屈の闘志》って名前もある程度は知れ渡っているのだろう。


 だが「この人達が目にも止まらぬ速さで狼の首を切れそうか?」と問われたら、答えはノーだ。


 だから、クラウスを連れていくメリットはある。


 そう伝えたかっただけなのに……



「そこまで言われちゃ黙っておけないね!

 勝負だ、クソガキの兄貴!

 アタイに勝ったら同行を認めようじゃないか!」


「おい、リリ!」


「面白い事を企んだな、嬢ちゃん」



 私は何も企んでいないのだが……


 どうしてこんな事になってしまったのか。

次回、初の対人戦。

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