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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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風呂に足りないもの

「お風呂に入りたいです!」


「お風呂……ですか?」


 帰ってきて第一声がこれだ。

 ミソラママが驚くのも無理はない。


「ただいまです!」


「え?あ、おかえりなさい」


「お風呂に入りたいです!」


「えっと……」


 ありゃ、これでも駄目か。


「学べ学べ。過去から学べ、まず会話をしろ」


 おっと、いけないいけない。

 明ちゃんは急いでる時は会話を端折(はしょ)る傾向がある様だ。


 まずはお風呂があるのか聞かなければ。


「浴室ってありますか!」


「ありませんけど――」


 終わった……!

 あまりにも呆気なく、明ちゃんの文化的で健康的な生活は終わりを告げた。



「――でも、大衆浴場なら村の中心にあります」


 大衆浴場。つまりは――



「銭湯!」



 これは行かねばなるまい。


「クラウス、ミソラちゃん、出発だよ!」



 ――――――



 ミソラちゃんによると、銭湯は二十年前に公共事業として、この国の至る所に建てられた物らしい。

 一村落にまで作るなんて太っ腹な国だ。

 魔法とかもあるし、もしかしたら日本とは公共事業の難易度も違うのかもしれないね。



 少し歩いて辿り着いた場所は、正に私のイメージする銭湯そのものだった。外観の違いと言えば、煙突が無いくらいだろう。


「なんか……浮いてるね」


 勿論、物理的に浮かんでいる訳ではない。

 その明らかな()()()()が、この村に馴染んでいないのだ。


「この建築様式自体は初代勇者以前の時代からあるが――」


「何故かこの様式を好む勇者様が多いらしいです」


 わかる。わかるぞ歴代勇者達。

 私は結構頻繁に和食を食べたりしてるので平気だが、()の文化に触れてないと時々無性に恋しくなったりするものだ。


 例え、元々フローリングの家に住んでても……

 例え、朝はパン派でも……


 まぁ、とにかく馴染みの物に近いのは嬉しいサプライズだ。

 早速中に入ろう!――とした所で思い出す。


「そう言えば私達、お金持ってないんだけど……」


 龍の領域には通貨なんて物はなかった。

 テイラーの所ですら物々交換だ。


 私の知る銭湯と同じなら、少額とは言えお金がかかる。

 これは由々しき事態である。

 お金に困ってるミソラ家から借りるのも忍びないし、いったいどうすれば……


「ああ、それなら大丈夫です。

 お湯は埋め込まれた魔導具から自分で、石鹸などは持ち込み。

 管理費は国から出ているので、備品を壊さない限り金銭のやり取りは発生しません」


(体が限界迎えるまで、お風呂入り放題なんて……)


 なんて素晴らしい国なのだろう。

 王国って言ってたっけ?ならトップは王様か。

 王様万歳!ありがとう!



「じゃあミソラちゃんと私はあっちだから、クラウスは上がったら此処で待っててね」


 銭湯なので当然クラウスとは別行動である。


「シャンプーに石鹸にタオル、他に必要な物は無いな?」


 クラウスは遠足前の母さんみたいに荷物の確認をしてくる。


「桶は中にあるらしいし大丈夫だよ。

 クラウスは心配性だなぁ」


「……お前、忘れ物あった時に男湯の入り口から大声で呼んだりするなよ?」


「そんな恥ずかしい事しないよ!」


 クラウスや私は初めて利用するが、ミソラちゃんはこの村の住人なのだから使い慣れている。

 そんなミソラちゃんが教えてくれた物さえあれば、困る事なんてある訳がない。


「それなら良いが……じゃあ後でな」



 ――――――



 脱衣所には、私とミソラちゃんの二人きり。

 只、篭は幾つか埋まっているので、一番風呂と言う訳ではなさそうだ。少し残念。



 同性とは言え、人の着替えを勝手に見るのは良くない。

 だが一緒に着替えてれば見えてしまう事はある。


(あれ?ミソラちゃん、私より大……いや、待て待て。

 空気は温度差で光を曲げると習ったじゃないか。そう、これは湯気による光の屈折が齎した結果、つまりは気のせいだ。良し!)


「どうかしましたか?」


 私の視線に気付いたのか、タオル一枚で体を隠したミソラちゃんが首を傾げて問いかけてくる。

 その仕草は、可愛らしさだけでなく若干の色気すら感じるものだ。


(これ完全に負け――待て、落ち着け私。

 ほら……何か……そう、そもそもミソラちゃんが年下と言うのが勘違いかもしれないじゃないか!

 童顔で少し背が低いだけで、案外年上の可能性もある。

 途上ならともかく成長しきった上であれなら、まだ成長期の明ちゃんが上回る事は全然可能だ。良し!)


 意を決してミソラちゃんに年齢を聞いてみる。



「ミソラちゃんって何歳なの?」


 一定のラインを超えた乙女には不躾な質問だが、まだ若い我々には関係ない。


 これで見た目通り十四歳なんて言われたら少し落ち込むが……いや、冷静に考えたら、それでも年の差そんなに無いじゃないか。

 中学生と高校生と考えるから大きな違いに感じるのだ。私だってまだ高校一年生なのだから、中学生相手に多く見積もっても三歳差だ。成長期の訪れる個人差と言える範囲内だろう。

 そうとわかれば私は無敵。ミソラちゃんの年齢が幾つでもノーダメージだ!



「私ですか?十一歳です」



「ごはっ!」


 ノーダメージとは言ったが即死攻撃は聞いてない。


 いや、これで小学生はないって!

 何がとは言わないけどさ!これで小学生はないって!


「だ、大丈夫ですか?」


「平気……早く、行こう……」


 この傷ついた心を癒してくれるのは、お風呂だけだ。




 戸を開けた私達を待ち受けていたのは、やはり概ねイメージ通りの銭湯そのもの。流石に富士山の絵は無く普通の壁だったが。


「ない……」


 だが、この私の言葉は富士山に向けられた物ではない。


「ない……!」


 富士山が足りない事など些事と呼べる程に、決定的に重要な物が足りていなかった。




「湯船にお湯が無ぁぁい!」




 私の魂の叫びが女湯に木霊した。

浴場で幼女に欲情せず養生しろ。

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