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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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見られない黄金の絨毯

「ようこそ、フルート村へ!」


 森を抜けた先に待ち受けていたのは広大な畑。



 それは正しく黄金色のカーペット


 ――を巻き取った様な物が幾つも転がっている。



「あれ何?」


「あれは麦稈(ばっかん)ロールと言うものです。小麦の収穫が終わった後に、ああやって藁を纏めるんです。

 近く隣の村に運ばれて、牛などの寝床になります」


「あんなに綺麗に手作業で纏めるのは無理だからな。

 四代目勇者が考案した魔導具を使うんだ」


 農業のエキスパート二人よる解説は頼もしい。

 小麦の収穫は終わっちゃたのか。

 これだけ広い畑一面に実ってたら、さぞかし綺麗だったろうに

 まぁ、あの大きい藁のトイレットペーパーみたいな奴も、初めて見るものだし良しとするか。


 それにしても、()()()勇者か。勇者って意外と何人も来てるんだね。


「クラウスさん、お詳しいんですね」


「農業の知識は齧った程度だがな」


 あんな旬も何も無い最強の畑を作っといて良く言うよ。


「はいはい、二人とも農業トークはその辺にして。

 モタモタしてると置いてくよ?」


「置いてくも何も、お前案内される側だからな?」


 日野明、十六歳。

 少々お姉さんぶりたい御年頃である。



 ――――――



 畑を越えた先には、同じ作りの木造の民家が点々と建っている。

 全部で三十軒くらいあるだろうか。村の規模としては、大きいのか小さいのか。

 都会育ちの明ちゃんにはさっぱりわからない。


「あれが我が家です」


 そう言ってミソラちゃんが指差した家も、他と作りの変わらない家だ。

 そんな家から、灯りを持った一人の女性が駆けてくる。


「ミソラ!何処行ってたの!」


「ごめんね、お母さん。

 でも薬草沢山とってきたから」


 ミソラママはミソラちゃんを強く抱き締める。

 夕陽も先程沈みきった。こんな時間まで若い娘が帰って来なければ、心配するのも無理はない。


 ミソラちゃんがバスケットに詰めてたのは薬草だったのか。

 ミソラママは具合悪いのかな?


「これは……貴女まさか森の奥まで行ったの!?

 私は平気だから絶対に止めなさいって言ったでしょ!」


「ごめんなさい。もう無謀な事はしないわ。

 助けてもらった命だもの」


 そう言ってミソラちゃんは此方に視線を向ける。

 ミソラちゃんしか見えてなかったミソラママも、漸く私達に気付いた様だ。


「貴殿方は……」


「私は明!こっちは相方のクラウスです!」


「お前毎回それ言う気なのか?

 ……あ、宜しく頼む」


「冒険者の方……ですか?

 娘がご迷惑をおかけしました」


 冒険者。それは魔法、魔物と並んでファンタジー世界を代表する単語だ。

 その響きに胸が……いや、もうそろそろファンタジーで喜んでも、現実に叩き落とされるだけって気付き始めたけども。

 少しくらいは夢見ても良いじゃないか。


 とにかく、(ファンタジー)が叩き壊されるまでは(ファンタジー)として考えよう。

 冒険者。その多くは、ギルドで冒険者登録などを行ってなるものだ。

 だとすれば、ギルドに訪れてすらいない私達は、それとは違うものだろう。

 ミソラママの発言はきちんと訂正しなくては。


「いえ、私達は冒険者じゃ――」


「そう!お二人は冒険者なの!

 すっごく御世話になったんだよ!」


 私の訂正をミソラちゃんが掻き消す。

 突然大声を上げてどうしたと言うのだ。


「でしたら今、報酬の方を――」


「いや。報酬は……薬草の一部を貰った。それで十分だ」


 クラウスもミソラママの行動を妨げる。

 此方の意味は理解出来るのだか、報酬は薬草ではなく秘密を守る事だった筈だ。


「それでね。今日はお二人に泊まってもらおうと思ってるの。

 良いかな、お母さん」


「そうね、そうしましょう。

 では私は主人にも、この事を話してきます。

 ミソラ、それじゃあ居間の方にご案内してて」


「はーい」


 そう言ってミソラママは何処かへ行ってしまった。

 ミソラパパはまだ外でお仕事だろうか。お疲れ様です。



「それにしても、いつのまに薬草なんてもらったの?」


 なんとなしにクラウスに尋ねたが、帰ってきたのは溜め息だ。

 その「やっぱりわかってなかったか」みたいな雰囲気を醸し出すのはやめなされ。


「貰ってない。報酬は秘密の保持って決めただろ?

 だが「秘密を守って貰うのが報酬だ」なんて正直に言ったら、何か秘密があるって伝える様なものだ。

 だからさっきのは適当な言い訳だ」


 成る程。秘密を抱えると、そんな事まで考えて行動しなきゃいけないのか。

 またうっかりミスしない様に気を引き締めよう。

雑補足

・麦稈ロール

小麦を収穫した後の麦藁を機械で丸めたもの。

この世界では機械ではなく魔導具による補助を加えた手作業で行っている為、実際に地球で作られてる物より小さめ。


・ミソラママ

明が突然ミソラちゃんにバブみを感じた訳ではなく、ミソラちゃんのお母さんを指す言葉。

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