隠せない秘密
―――ミソラ視点―――
「……それでね、ミソラちゃんの住んでるフルート村まで一緒に行っても良い?」
「当然、護衛も兼ねよう」
恩人の二人からの申し出は、とてもありがたい。
クラウスさんの殲滅力だけでなく、アカリさんも防御力は信頼できる。
ただ、その優秀な二人に護衛を依頼するとなると――
「あの、払える様な報酬は無いのですが……」
実力に見合った報酬を払うとなると、当然高額なものになる。
母の負担を減らす為にここまで来たのに、逆に増やして帰る訳にはいかない。
……正直この二人なら額を誤魔化しても気付かなそうだが、恩人にそこまで不義理な事をする程、私は腐っていない。
「報酬は……要らない」
……ちょっと間が空いてた。
そりゃあ報酬は欲しいのだろう。恐らく二人は王国通貨を持ってないだろうし。
只、このクラウスさんなら冒険者を始めれば直ぐに稼げると思うので、非常に申し訳ないが今回は諦めてもらおう。
「俺達の情報を秘密にしてくれれば、それでいい」
「でしたら任せてください!」
恐らく沢山の秘密を抱えている二人にとって、それは何より重要な事なのだろう。
最低限の恩返しだ。どんな秘密も私は隠し通してみせる!
「よし、じゃあ行くか」
私達はフルート村に向かって歩き出した。
―――明視点―――
「――と、その前に」
一歩踏み出した途端、クラウスに止められる。
「今「行くか」って、言ったじゃん!
何でこのタイミングでマジックバッグを弄る必要が――」
クラウスがマジックバッグから取り出した物、それは――
「シッシー!」
我が友、シッシーではないか!
考えてもみれば、ミソラちゃんに合わせて徒歩移動なのだから、魔物対策をしてないと、ウールウルフみたいなのに次々と襲われてしまう。
カーン!
あ、食事じゃないから消音パーツは付けるよ。
ガーン!
「……あれ?最初からシッシーを出していれば、ウールウルフも追い払えたんじゃない?」
「そんな近くで嫌がる音を鳴らしてみろ。
範囲外まで逃げるより原因となる物を破壊する方が早いって考えるだろうが」
確かに。
手を伸ばして届く目覚まし時計なら、取り敢えず叩く。
……いや、目覚まし時計の場合は結局止めるしかないんだけどさ。
「じゃあ、『サイコ』で運べ」
言われた通りに『サイコ』を使用して、シッシーを浮かべる。
「……そう言えば人前で空気魔法を使っても良いの?」
空気魔法は珍しいと聞いている。
それこそ使える人間は私しか居ないだろうと言う程。
それを人前で簡単に披露しても良いものか。
「駄目な事があるとしたら、今みたいに空気魔法だと宣言する事だ」
「あ」
明ちゃん、痛恨のうっかりミスである!
「あ、安心してください!
秘密は守りますから!」
「はぁ……助かるよ」
クラウスの溜め息も随分と聞き慣れたものだ。
「何魔法か聞かれても答える必要はないが、どうしても言わなきゃならない時は、風とか念動魔法って答えとけ」
「はーい」
そうか。空気魔法を当たり前に知ってる人じゃなきゃ、見ただけで何魔法かなんてわからないのか。
此方も態々「これは空気魔法です!」って伝えてる訳じゃないし。
『エアガン』とか大丈夫かなぁ?……まぁ、平気か。
「あのー……お二人って、やっぱり親子でした?」
ミソラちゃんから突然パスが回ってくる。
今の会話を聞いていて何故そう思ったのか。
それは全くわからないが、何にせよ私への追い風だ。
風に乗って羽撃くしかあるまい。
「へいへいダディ!やっぱりそう見えるってよ!」
「うるせぇ!ミソラも蒸し返すな!
兄妹って結論出ただろ。
これからは何処でも兄妹で通すからな。反論は認めない」
「むぅ」
クラウスは変な所で頑固なんだから。
「お二人って本当に不思議ですね」
何故かミソラちゃんは笑っている。
何が不思議で何が面白いのか。
クラウスに視線を向けても、彼も首を傾げるばかり。
「あ、ごめんなさい。良いコンビって事です!」
ふむ。それならば悪い気はしない。
出会ってからまだ一ヶ月だと思えない程には、クラウスの事を信頼している。
せっかくの相方なのだ。神山から鶴部に変わる様な事にはなりたくないな。
変化を客観的に楽しめるドラマと、当事者である現実は違うのだから。
「……あ、見えてきました。あれがフルート村です!」
もうそんなに歩いて居たのか。楽しいと時間が経つのは早いものだ。
駆けていくミソラちゃんを追いかけて、私達もフルート村へ足を踏み入れた。
雑補足
・風魔法と空気魔法
同じ豆を動かすのにも、風魔法は指で弾く様な、空気魔法は箸で摘まむ様なプロセスを辿っているので、知識のある人が見れば違いがわかる。