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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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怪しい者じゃないよ!

「大丈夫?」


「……あ、はい!

 ありがとうございました!」


 私は終始座り込んで居た赤ずきんちゃん(仮)に手を差し伸べる。

 少し呆けていたのは、ウールウルフの首が落ちるシーンが、一般中学生にはショッキングな絵面だったからだろう。


「赤ず……」


 つい、赤ずきんちゃん(仮)って呼ぼうとしてしまった。


 そう言えば名前をまだ聞いていなかった。

 人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗らなければ。



「私は日野……じゃない!明!ただの明!

 隣は相方のクラウス!」


「あー……クラウスだ。よろしく」


「ミソラです」


 礼儀正しく御辞儀をする、赤ずきんちゃん(仮)改めミソラちゃん。

 うっかり名字まで名乗りそうになったが、ギリギリセーフだった。

 この世界では名字は一般的でないらしいからね。

 クラウスが眉間を指で抑えたりしてるが、セーフったらセーフなのだ。



 ―――ミソラ視点―――


 ウールウルフに襲われてた私を助けてくれた二人組。

 片や、自信満々に空から飛んできたのに、普通に苦戦していたお姉さん。

 片や、気配なく現れて見守ってるだけかと思ったら、突然C()()()()の魔物を一瞬で葬り去ったお……兄さん。


 辺境の森で出会うには、あまりにも不思議二人組。


()()アカリ?

 ()()()があるって事は、有名な冒険者さんなのかな?)


 でも、少しも火の魔法使っていなかった。


(森の中だから延焼を警戒した?

 二つ名の由来になる程の魔法を縛られていたから、実力を発揮出来なかった?

 ……いや、それにしても対応が素人過ぎる)


 知識だけなら私と同レベル程度だろう。そんな人が二つ名持ちにまでなれるとは思えない。


(それに、クラウスさんと実力が離れすぎている。

 なら師匠と弟子?先程の戦いも試験か何かと考えたら合点が……いや、師匠を紹介する時に()()なんて言う人は居ないか)



 本当にこの二人は何者なんだ?




 ―――明視点―――


 さて問題なく自己紹介が終わった所で、今度は情報収集だ。


「ミソラちゃんは、この近くで暮らしてるの?」


「はい、この森を抜けた所にあるフルート村と言う所です」


 おお!これは間違いなく人間の集落だ!

 やっと野宿生活ともサヨナラ出来る。



「お二人は何処から来たんですか?」


「うっ……!」


 当然と言えば当然の質問だ。

 だがここで正直に「龍の領域です」とは言えない。


 ミソラちゃんを騙すのは忍びないが、ここは嘘の設定で乗り切るしかない。



「私達……人里離れた森の奥でひっそり暮らしてたんだけど、ある日強暴な魔物に住みかを追われてしまったの。

 命からがら逃げ出したは良いけど、行く当てもなく魔物に怯えながら彷徨う日々を過ごしているの」


 完璧だ。

 これなら怪しさも消しつつ、同情も誘える。

 上手くいけば「うちに泊まりますか?」ルートまで有り得るね。



 ―――ミソラ視点―――


(絶対嘘だ)


 おかしな点は幾つもあるが、一番おかしいのは服装だ。

 二人が着ている服は、この国なら王都まで行かなきゃ買えない様な高価な物だ。

 閉ざされた森の奥で暮らしていた人が着れる物じゃない。


 あまりにも嘘が下手すぎる。

 こんなの誰でも嘘だとわかると言うのに……



 ―――クラウス視点―――


(あながち嘘でも無いんだよなぁ)


 人里離れた森の奥で暮らしていたが、そこを追われて彷徨っている。

 龍の領域の説明を省いただけで、概ね嘘は吐いていない。


 ただ、龍の領域なんて知らない奴には荒唐無稽な話に聞こえるだろう。


 だからと言って、俺も別の設定を思い付いた訳じゃない。

 例え思い付いたとしても、()()の後じゃどのみち多少は怪しまれるのだ。

 仕方ない、ここはアカリの話に乗るとしよう。


「そうだな。睡眠も儘ならなかったな」



 ―――ミソラ視点―――


(あれ!?クラウスさんも嘘下手なんですか?

 絶対に普段ガッツリ眠ってますよね!?

 アカリさんのお肌プルップルですよ!?

 睡眠と栄養足りまくってますよね!?)


 ――とは流石に言えない。

 これだけあからさまな嘘なのに、何故こんなにも堂々としているのか。


 最早怖い。この二人が何を考えているのかわからない。

 慎重に言葉を選びながら探らなくては……


「お、お二人はご家族と言う事ですか?」


「「あ~……」」


(なんで今の質問で間が空くの!?)


 変な逆鱗に触れたかと私が怯えていると、短くない思考時間を終えた二人が揃って宣言する。



「そうだよ。私達は親子なの」

「そうだな。俺達は兄妹だな」



「え?」


「「え?」」


(割れたーっ!割れる筈のない所で主張が割れたーっ!)


「あらあら、クラウスお父様。鯖を読みまくるのは見苦しくてよ?

 貴方いったいお幾つでして?……え、本当に幾つだ?

 ……まぁ、良いわ。とにかく、(わたくし)みたいな若者と兄妹と言う歳でも無いでしょう?」


「おいおい、我が妹よ。俺を爺に仕立て上げようとするのは止めてもらおうか。

 本気でタツロウと同年代に見えるか?

 だとしたら目が腐ってるな。俺が治療してやろう」


(なんか喧嘩始まったー!)


 私は無難な質問をしただけなのに、何故こんな事になったのか。

 巻き込まれては堪らないので、私は息を潜める。


「お父様、ミソラちゃんが何も知らないからって嘘はいけませんわよ。嘘は」


「おいおい、お前がそれを言うか?

 良いだろう、妹よ。だったらその何も知らないミソラに、どっちに見えるか聞こうじゃないか」


 謎の執念を宿した瞳が此方を見据えてくる。


 私はいったい何に巻き込まれてるんだろう……

 こうなってしまったら何か答えるしかない。


(無難な答えは……駄目だ!無難な質問でこうなってるんだ。もう考えても無駄だ!素直に答えちゃえ!)



「えっと……兄妹でしょうか?」



「ほれ見ろ節穴マイシスター。親子には見えないってよ?」


「ぐぬぬ。造形か?クラウスの顔の造形がいけないのか?」


 正直、見た目の話ならどちらにも見えるのだが、強いて言えば今の喧嘩のレベルは兄妹のそれだろう。



 本当に下らない時間ではあったが――


(あ、この人達何も考えてないだけだ)


 私がそう確信するには充分な時間だった。

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