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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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奴は羊じゃない

 山を飛び越えた所で、私の耳に助けを求める声が聞こえた。

 クラウスに詳しい場所を聞かずに飛び出してきてしまったので、自ら居場所を教えてくれて助かった。


 私は声が聞こえた所へ、勢いもそのままに突っ込む。


(ふぎぎぎぎ……)


 龍人が着陸する時の真似をしてみたのだが、これが結構体に負担がかかる。これをGと言うのだろうか。

 ……Gって何の頭文字なんだろう。ギガトンとかグラビティ辺りかな?

 とにかく、そのGによって大きく体勢が崩れたが、顔から地面に激突するのだけは何とか抑え込めた。

 砂煙によって、私の間抜けな姿は見られていない筈なので、毅然とした態度で歩き出す。


「お嬢さん、怪我は無いかい?」


「…………」


 格好良く決めたつもりだったが返事がない。

 ……ちょっとキザ過ぎたかな?


 私を見つめて全く動かないのは、中学生くらいに見える可愛らしい女の子だ。

 森に山菜取りに来て迷った、と言った所かな?



 少し待ってみても、やはり返事がないので少し心配になってきた。


「あれ?ひょっとして怪我ある?」


「……あ、いえ。平気です!」


 良かった。呆けてただけみたいだ。

 明ちゃんの登場はかっこ良かったもんね。

 呆けてしまうのも無理はない。



 女の子が無事とわかれば、後は敵と向き合うだけだ。

 私は彼女を追い掛けていた白い魔物を見据える。


「……羊?」


 この魔物の見た感想を聞いたら百人中百人が、()()()()そう答えるだろう。

 モコモコの毛の中から、顔と足がひょっこりと出ている。

 そこまでなら可愛らしいのだが――


「……狼?」


 顔だけが凶暴な肉食動物のそれである。

 そのアンバランスな見た目に、私も困惑してしまう。


 それにしても、何故私はこんなにも狼と出会う事が多いのか。

 数日前に軽いトラウマを植え付けられたばかりなので、正直狼とはあまり戦いたくない。


 だが、幸いにも相手は一匹。落ち着けばなんとかなる。

 それに――


「私は日々進歩する生き物なんだから!」


 守りに意識を割きすぎるから怖いのだ。

 今回は先手必勝で終わらせる!


『エアガン!』


 私が放った三発の空気弾は、確かに全て羊狼に当たったのだが――



「効いてない?」


 ケロリとしているウールウルフに、少しばかり焦りが生まれる。




「ウールウルフは、その体毛に守られていて打撃系の攻撃は効きづらいぞ」


「うわ!びっくりした」


 いつのまにか私達の後ろに居たクラウスが解説してくれた。

 ゲートを使ったのだろうが、突然後ろから話しかけられたら誰だって驚く。


「集中しろ。羊に擬態し獲物を誘き寄せる様な魔物だ。

 フールウルフと違って油断は禁物だ」


 お婆ちゃんに擬態する赤ずきんの狼みたいな感じかな。

 丁度良いので、助けた女の子の事は赤ずきんちゃん(仮)と呼ぼう。

 ……あ、狼に食べさせる気はないよ!


 それにしても、フールと言いウールと言い、語感が似すぎだよ。

 言葉で伝える時に不便過ぎる。



 私の攻撃が効かないと理解した為か、ウールウルフは遂に此方に飛び掛かって来た。


「その攻撃は防ぎ慣れてるよ!」


『プロト!』


 以前より少し効率化された壁が、私達とウールウルフを隔てる。


 さて、向こうの攻撃を防げたのは良いが、此方の攻撃も効かない。

 このまま膠着状態になれば、普通の狼戦の時の様に私の集中力が切れるだろう。

 今回はそうなっても命の危険は無いだろうが、()()()()()()()()()事を考えれば、私がどうにかして打開すべきだ。



 だが、その為には情報が足りない。

 後ろで腕組みをしてる人に聞くしかあるまい。


「えっと。クラウス先生、ウールウルフが使う魔法とか教えてもらってもよかですか?」


「ウールウルフが扱うのは体毛魔法だ。

 あの羊毛は伸び縮みするものと思え」


 成る程。

 もしかしたら体毛を伸ばしまくって、触手の様に扱ってくるかもしれない。

 そんなR-18展開を許す訳にはいかない!

 ……現実に待ち受けるのは、R-18G()の方なんだろうけど。

 って言うかGって頭文字出番多いな


 駄目だ。私の思考とっ散らかり過ぎ!

 もうストレートに聞こう。


「弱点は?」


「羊毛で防いでいるんだ、つまり?」


 はい。ヒントは与えたから自分で考えろと、了解。

 羊毛でしょ?羊毛羊毛……


(刈り取る!……と伸びてきそうだし……

 燃やす!……のはここじゃ引火しそうだし絵面がグロそうだしなぁ)



 私が思考を巡らせ唸っていると、正解は思わぬ所からやってきた。



「……羊毛に埋もれてない部分……足の先、若しくは顔ですか?」



「お、おう。正解だ」


 その答えを導き出したのは、赤ずきんちゃん(仮)だ。

 クラウスも、まさか彼女が答えるとは思わなかった様で戸惑っている。


 天才美少女的には、自分で解きたかった気持ちが無いわけではないが、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。

 誰が解いたにせよ、相手の弱点がわかればこっちのものだ。

雑補足

・G

前者はグラビティ、後者はグロテスクの頭文字。

一般的に使われるもう一つの意味は、苦手なので絶対に登場させない。

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