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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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助けナイト

 空の旅を始めてから一週間が経過した。

 ここまでずっと代わり映えしない景色が続いていたが、遂に変化が訪れた。


「あ、山だよクラウス……」


 変化と言ってもその程度である。

 ずっと平坦な森だったが、前方に大きく盛り上がった山が見えるだけ。

 要するに、山程度の変化が話題になれる程に退屈しているのだ。


「ああ。あの山脈の向こうだな」


「何が?」


「人間の国があるだろう場所だよ」


「ほんと!?」


 人間の国。その言葉で私の世界は色を取り戻す。

 終わり(クリア)がないリアル洞窟の森(スローライフゲーム)はもう飽きた。

 さぁ、これからは文化的な生活が私を待っている!


「遂に街に辿り着くんだね!

 やっと、ゆっくりお風呂に入れるんだね!」


「いや、道中も割りとゆっくり浸かってただろ」


「それとは全然違うの!」


 快適に(くつろ)ぐ為に設計された浴室と、隔てるものが衝立て程度の洞窟内にバスタブを置くのとでは、天と地以上の差がある。

 心のゆとりが大きく違うのだ。


「お前、変なところの拘り強いよな。

 もう暗くなってきたし、そろそろ洞窟探すか」


「任せてください隊長!」


「お前に任せるより『探知』の方が早い。

 明日からは地上を進むから、そのつもりでな」


「げ、また高速移動?」


「ここまで来たら普通に徒歩で良いだろう。

 偶然全く同じ方向に進んでない限り、追い付かれる心配はない」


 龍の里では大雑把に東側に人間の国があるとしか伝えられてないらしいので、追っ手は私達程は明確な目的地を持って行動している訳じゃない。

 それに、ここまで距離を稼げれば、一度方向がずれただけでも大きく違う場所に辿り着く。射撃と同じだ。



「洞窟は見つからないんだが――」


 見つからないんかい!

 さっきは「俺の『探知』なら簡単に見つかるぜベイベー」って言ってたのに。

 仕方ない。こうなったらへっぽこ『探知』君に代わって、明ちゃんが直々に探してあげるとするか。


「人間は見つけた」


 でかした!

 流石は『探知』!流石はクラウス!

 私は最初から信じていたよ。君なら期待を上回ってくれるって。


「それで!何処にいるの?」


「一時の方向だが……これは、追われてるのか?」


 後半は独り言が漏れた様な口ぶりだったが、私の耳はその言葉をしっかりと捉えた。


「追われてる?」


「あ、しまった。落ち着け、勝手な行動は――」


「先に行ってるね!」


『フライ!』


 私はクラウスの言った方向へ超特急で飛んで行った。





「せめて詳しい状況を聞いてから動いてくれれば良いんだがな。

 ……『蜃気動』()解除してないだけ良しとするか」


 人形態になったクラウスは『ゲート』の中へ、ゆっくりと()()()()()()



 ―――???視点―――


「はぁはぁ……」


 鬱蒼と繁る森の中を駆ける。

 息が苦しい。だが、一瞬たりとも休む暇なんてない。


 失敗した。森の奥には入るなと、あんなに言われていたのに。

 もっと大量の薬草を手に入れれば、お母さんの為になると考え立ち入った。それが浅はかだったのだ。


 もっと速く()から逃げたいのに、満身創痍の体は思う通りに動いてくれない。

 何かに蹴躓いて派手に転んでしまう。木の根か、石か、自分の足か。どれであっても、もはや関係ない。

 もう奴からは逃げられないのだから……



 奴がゆっくりと舌舐りをする。

 白い毛に包まれた獰猛な瞳が私を射貫く。


 私は必死に後退るが、そんな行動に意味はない。

 何故直ぐに飛び掛かって来ないのか。

 私には奴の表情は読み取れないが、想像はつく。

 恐らく私が怯える様を楽しんでいるのだ。


 奴を攻撃出来る様な武器も魔法も、私は持っていない。

 森の奥まで来るつもりだったのだから、護身用のナイフくらい持ってくるべきだった。

 ……その程度じゃ、どのみち奴には通用しないか。



(私、こんな所で死んじゃうんだ)



 辺境の村の、更に奥にある森に、他の人間なんて居る訳がない。

 お伽噺みたいに、ピンチを救ってくれる冒険者や騎士様なんて居やしない。



 でも……それでも、何かに縋らずには居られない。



「誰か……助けて!」



 その時、私の願いに応える様に、空から何かが降ってきた。


 突然の事態に、私も奴も驚いて其方を見る。

 猛スピードで落ちた其れは、いったい何なのか。


 土煙が徐々に晴れて、其れがゆっくりと姿を現す。



 其れは、一人の人間。



「お嬢さん、怪我は無いかい?」



 物語の騎士様の様な台詞。


 だが、その人間はとても騎士には見えない。

 鎧も、武器も、鞄すら持っていない。



 この場にはあまりにも似つかわしくない――


 ワンピース一枚の普通のお姉さんだった。

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