出来ない事と出来る事
目が覚めた私は、まず魔法で洞窟内を暖め直す。
『換気』『暖房』
少し肌寒く感じてたが、徐々に心地の良い温度に変わっていく。
この作業も一週間やってると、かなり慣れてきた。
瞼を閉じて二度寝したい気持ちを抑え、葉の掛け布団から抜け出す。
そこら中に生えてる大きい木は、幹や枝は細いが葉は大きく、何枚か重ねれば掛け布団にぴったりだった。
藁のベッドから起き上がった私は、手探りで靴を探す。
学校指定のローファーではなく、スニーカーだ。
私が死んだ日は、靴を履き間違えて登校して怒られたんだっけ。
でも、そのミスのお陰で森の中をサバイバル出来ている。
私くらいになると、ミスのタイミングまで完璧ってなもんよ。
洞窟を出れば、眩しい朝日と御対面だ。
「さて、今日も生きますか!」
生きていくのに必要な物は、最低限揃って余裕も生まれてきた。
だから今日は、空気魔法で出来る事を色々試してみよう!
――――――
まずは、電気を操りたい。
現代人は何をするにも電気を使っていたからね。自由に操れれば、何かを開発するときに役にたつだろう。
私は雷の魔法適性が無いので、直接電気を産み出す事は出来ない。
それならば間接的に作りだすまでのこと。
まずは雷の発生メカニズムを考えて、空気でそれを再現していく。
「えーっと、雷の発生メカニズムは……」
……知らない!
え?雷ってどうやって出来るんだ?
しまった。学校のテストはほとんど勘だけで乗りきってきたから、知識が身に付いてない!
天才明ちゃん、一生の不覚!
……いや、そもそも私自身が電気を作る必要なんて無いじゃないか!
そうだ、電池を作ろう。
「電池の作り方は知ってるぞ。活性炭に食塩水、アルミホイルを用意して……」
……うろ覚え!
いつだか理科の実験でやった気がするのに!
作り方もあやふやだし、恐らく材料も足りてない。活性炭が何か理解してない上に、アルミの特徴も知らないから探しようがない。
……この際どんな些細な事でも良いから、何か電気に関連して私にも出来る事を考えねば。
「静電気ならいけるか?」
確か摩擦を起こせば良かった筈だ。
空気を固めて、それを髪に擦り続ける。
「…………熱っっ!!」
しまった。速く擦り過ぎた。
痛かったが、燃える程の温度にならなかったのは救いだ。
良い感じに調整したらゆっくりと空気を持ち上げる。
水面を覗いてみれば、きちんと髪が逆立ってる。成功だ!
他の魔法に比べると何故か結構疲れるが、まぁ良い。
この魔法は『帯電』と名付けよう。
『帯電!』
早速、地面に落ちている石に使ってみる。
そっと指先で触ってみると、冬場のドアノブや手摺と同じ衝撃が襲ってきた。
「完璧だ。」
予定よりも随分とショボいが、今は達成感を味わおうじゃないか。
――――――
さて、お次は火だ。
これは恐らく簡単に出来る
落ちてた葉や枝などを風で集めて乾燥させる。
そして、強力な摩擦をかけてやるだけだ。
『火起こし!』
徐々に煙が出てきて、風を送ってやれば火がついた。
水は逆の操作で出来そうだな
適当な石を宙に浮かせ、水蒸気を纏わせて冷やしていく。
『結露!』
すると石から水がポタポタと滴り落ちる。
電気では苦戦した為に、この二つがあっさりと上手くいって、とても満足だ。
やっぱり明ちゃんは天才で間違いないのだよ。
――――――
さて、最後は風だ。
最早検証する必要も無い程に自在に操れそうだが、思い付いた事があるからとりあえず試すのだ。
一つ目は空中浮遊。
物を浮かせられるんだったら、自分自身も飛べるのではないか。
それでは早速試してみよう!
石を浮かべた時の様に、上昇気流を作り上げる。
すると、重力など存在しないかの様に、ふわりと持ち上がる……
……スカートが。
「ちょっ!」
慌てて魔法を解除してスカートを押さえつける。
風なんて一番危険視すべき属性なのに、ここ数日で身近になりすぎた為に油断していた。
見える程ではなかったが、誰も居ない場所で良かった。
……お色気シーンなど無いと言っておろう!散れ!
今度はしっかりと、スカートを両側から空気で抑えて挑戦だ。
もう鉄壁。二度とあんな事故は起こさない。
『フライ!』
今度こそきちんと体が浮かび上がる。
少しずつ高度を上げていく。
魔法自体は一切問題無いのだが……
「足がフワフワするのは怖いなぁ」
なんの支えも無く空中に居る事の安心感の無さたるや。
結局、二階にも満たないだろう安全な高度で移動する。
果物の群生地帯まで来たところで、ジャンプでは届かなかった枝に座り、林檎を一つもいで齧る。
「昨日と大して変わらない日だったな。」
思わず、そう独りごちた。
魔法の進歩はあったし、それが嬉しかったのは間違いない。
だが娯楽や交流に溢れる現代で過ごした私が退屈に感じるのも、仕方ないと言える。
そんなことを考えて、ふと下を見ると、男の人と目があった。
口を開けて、目は飛び出さんばかりに開いてる。
あまりに驚いてる様子なので、逆に私はひどく冷静になれた。
(この世界にも人居たんだ。……いや、勇者がどうのとか言ってたから当然か。)
真っ赤な髪にモノクルをかけた男の人は、多分インドア派なのだろう。着ている作業着がひどく似合っていない。
とにかく、このまま見つめあってても仕方ない。
フレンドリー明ちゃんが話しかけてやろう。
「林檎食べます?」
男の人の返答は、実に元気なものだった。
「俺の果樹園だ!!!」
やっと現地人です。