表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
45/134

魔物じゃない?

(魔物じゃん!)


 狼を見た第一印象は、この一言にに尽きる。

 尤も、大きな声を出して狼を刺激してはいけないので、心の中で叫んだだけだが。


「グルルルル……」


 私と目が合った狼は静かな唸り声を上げる。

 恐らく、これが例のフールウルフと言う奴だろう。

 正直何が普通の狼と違うのか全くわからないが、フールウルフは身体魔法が使えると聞いている。

 つまり、魔物とは()()()使()()()動物を指すのだろう。


 さて、この狼が魔物だとした場合、一番の疑問が――


(え?シッシーは何してたの?

 五月蝿いだけで役に立たない魔導具とかある?)


 私の訝しげな視線を受け、シッシーは首を縦に振る。

 これはシッシーが肯定している訳ではなく、単純に横に振る機能が無いだけだ。


 しかし、この行動はよろしくなかった。

 位置関係としては、狼、私、シッシーなのだ。

 つまり私がシッシーを見ると言う事は、()()()()()()()事を意味する。

 野性動物と遭遇した時に、隙を見せるなど言語道断だ。


 私が視線を戻したその瞬間、狼は牙を剥いて飛び掛かってきた。


 私はほぼ反射的に、斜め前へのローリングで避ける。

 そのまま()()()を取り、反動で姿勢を立て直す。


 中学の時に柔道の授業を真面目に受けておいて良かった。

 ありがとう義務教育。



 再び狼を見ると、着地の時点で二撃目を考慮していたのか、既に体を此方に向けている。


 狼が体を沈ませ、いざ飛び掛からんとした瞬間、ガチャン!と言う大きな音が鳴った。

 その音に、私も狼も意識を取られる。


 其方を見てみれば、シッシーが地面に倒れ伏していた。

 成る程。今のは私の『サイコ』が途切れた事により、シッシーが落ちた音だったか。

 魔法を切ったつもりは無かったが、それだけ今の私に余裕が無いと言うことだ。


 倒れたシッシーからは、水がだくだくと流れている。

 絵面的には瀕死の重傷を負った感じだが、あれは別に体液でも何でもない只の水だ。

 シッシー自体に何か影響がある訳でもない。

 後できちんと水は入れ直すので、悪いが今は放置だ。


 私と同じように、シッシーに興味を失った狼も視線を戻し、何事も無かったかの様に、再び体を沈める。


 狼とっては酷く無駄な時間であっただろう。

 だが私は今ので思い出した。

 私はもう日本に生きる一般天才美少女女子高生ではない。



 今の私は、天才美少女空気魔法使いだ。



『フライ!』


 魔法を発動し、先程とは比べ物にならない速度で狼の攻撃を避ける。


 崖付近は木々が少なくて助かった。テニスだって出来そうな程である。

 この広さなら、木にぶつかる心配無く『フライ』での高速移動が可能だ。



 これで少しは余裕が出てきたが、問題はこの状況が何時まで続くかだ。


 相手は敵、()しくは獲物として私の命を狙っている。

 害意や殺意と言うのは恐ろしく、一度受けたくらいで馴れる様な物ではない。

 寧ろ一度殺された事で、より一層それに対する恐怖が増している。


 バクバクと鳴る心臓が五月蝿い。息が上がっているのも単純な疲労と言う訳では無いだろう。

 このコンディションで何十分も避け続けるのは無理だ。

 何か打開策を考えなくては。


 魔法を使う動物に対抗するには、やはり此方も魔法を使うしかない。

 しかし、魔法使いになったとは言え、私の心はまだまだ一般天才美少女女子高生である。

 生活を豊かにする魔法なら思い付いても、他を攻撃する魔法なんてサッパリだ。


(『帯電』で痺れさせる?……いや、あの魔法にそこまでの威力は無い。

 なら『サイコ』で相棒の石(龍の歯)を飛ばす?……駄目だ。今は手元に無い)


 狼が飛び掛かってくるのを避けつつ、必死に考える。


 それ自体は間違っていない。

 だが、思考の海にほんの少しだけ深く潜り過ぎてしまった。


『フライ』の制御が乱れ、私は思い切り尻餅をつく。


「痛っ!」


 そんな大きな隙を、狼が逃す筈がない。

 何度も見た単純な飛び掛かりだが、今の私では避けられない。



(避けられない……ならっ!)


 私は土壇場で思い出した魔法を唱える。


『プロト!』


 私と狼の間に不可視の壁が出来上がり、弾かれた狼は何が起きたのかわからず目を丸くしている。


 これは龍の領域でクラウディア達が降りてきた時に、砂埃を防いだ魔法だ。

 空気を圧縮して作った壁を設置する。

 あの時はまだ、この魔法に名付けを行っていなかったので、今咄嗟に名付けたのだが、なかなかカッコいい名前になった。

 ()()()()()って意味の言葉だった筈。

 ……ん?なんかちょっと違う様な気が……


(……っと、今はそんな事を考えてる暇はないんだった)



 私が次の一手を考えようとした所で、横から声がした。


「おい、何の騒ぎだ?」


 洞窟の入り口から現れたのは、クラウス。


 私の詠唱、狼の鳴き声、それに加えてシッシーが落ちる音。

 音の反響する洞窟の前でそれだけ騒げば、遠くとも異常を感じ取れたのだろう。


 狼はクラウスを視界に入れると少しずつ後退し、距離をとった所で一目散に逃げていった。

 二対一だと分が悪いと判断したのか、それともクラウスが私よりも脅威だと考えたのか。

 それはわからないが、とにかく助かった。


(こうなるなら、最初からクラウスの所に駆け込めば良かったなぁ)


 緊張感から解放された私は、そのまま地面に寝転んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ