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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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望んでない出会い

 気を取り直して、晩ご飯のお時間です!

 洞窟に泊まる大きな目的!睡眠と、後はご飯!

 欠かせませんよ、ええ!欠かせませんよ!


 何故そんなに騒がしいのかって?

 お腹が空いてるんだよ!


 最近お昼ご飯は飛びながら、おにぎりやサンドイッチを頬張るだけだ。

 あれはあれで美味しいのだが、やはりなんだか物淋しい。

 人には、じっくり座って食事と向き合う時間が必要なのだと、改めて実感した。


 それだけ楽しみにしていた時間なので、席に座りながら思わず小躍りをしてしまいそうだ。

 お皿に盛り付けられた唐揚げを前に涎が止まらない。


 さて、ご飯を食べる前には、挨拶が大事だ。

 それでは皆さん、ご唱和下さい!

 せーの!


「いただきま――」


「その前にシッシーの消音パーツ外してこい」


 しまった。忘れていた。

 もうこの作業も、ペットの餌やりみたいな感覚になってきた。

 時々忘れる事はあるかもしれないが、大切に思っているのは確かなんだ。


「さぁシッシーよ、元気な産声を上げる時だ」


 私がパーツを取り外すと、シッシーは軽くなった首を思い切り振り下ろす。


 カアアァァァァアアン!


「うるっさ!」


 発せられた金属音は洞窟の彼方此方で反響し、それは最早音波攻撃と言っても過言ではない。

 慌てて水の流れを止めてクラウスに判断を仰ぐ。


「どうする?」


「流石にこれは五月蝿いな。

 ……仕方ない。入り口の辺りに置いてくれ」


 あ、消音にするって発想は無いのね。

 まぁ、約束は約束なので別に良いのだけれども。



 侵入禁止のパイロン宜しく、洞窟の入り口ど真ん中にシッシーを設置する。

 振り返ると丁度シッシーが俯いている。

 寂しそうだが、仕方のない事なのだ。


 ご飯を食べ終わったら迎えに来るからな。

 それまで我慢してくれ。



 カーン……



 ――――――



 カリカリの衣を、檸檬の果汁で少しだけ湿らせる。

 かけすぎれば、唐揚げ本来の味を感じられず、尚且つ衣の食感も損なわれる。

 とてもリスキーな行為だが、そのリスクを乗り越え、絶妙な力加減で黄金比に辿り着いた暁には、味、香り、食感、全てが最高の唐揚げに出会えるのである。


 ……さて、このまま黙々と食事を楽しみたい所ではあるが、食事中の団欒と言うのも必要な時間だ。

 黙々と食べるのが許されてるのは、蟹だけだ。


 丁度良いので、先程疑問に感じた事をクラウスに聞いてみる。


「そう言えばさ、知覚魔法って何が出来る魔法なの?」


「対象を構成する高度な情報を閲覧出来る魔法だ。

 尤も、前提となる知識は必要だがな。

『鑑定』なんかは人間の国では役立つと思うぞ」


 確かに、日本でも偽札や偽ブランドバッグなんかは聞いたことがある。

 そう言うのは、余所者が狙われやすいらしいから、油断しない様にしないとね。


「じゃあ粉砕魔法は?」


「対象の物質同士の繋がりを希薄に――まぁ、簡単に言えば名前の通り粉末状にする魔法だ。

『開通』なんかは、洞窟を作って鉱石を採掘する時に使っていたな」


 ……う~ん、こっちはなんか地味だな。

 多分繊維魔法の亜種なんだろうけど、粉末状って所には魅力も物珍しさも感じない。


「後は料理の役に立つぞ」


「料理の?」


 俄然興味が湧いてきた。


「カレーに使っている様な香辛料や、今日の唐揚げに使った薄力粉も粉砕魔法を使って用意した物だ」


 私の知らなかっただけで、砕魔法には沢山お世話になっていたのか。

 大切な食事に於ける縁の下の力持ちさんにも、感謝の意を込めてこの言葉を送ろう。



「ごちそうさまでした!」


「食べるの速いなおい!」


 お喋りの合間にも食事を進める明ちゃんの超絶技巧である。

 ……ちゃんと味わって食べてるからね!



 ――――――



「シッシ~、迎えに来たぞ~」


 消音パーツ片手にシッシーのお迎えだ。

 いや、本当にお迎えと言って良いくらい、奥から入り口まで遠い。

 なんでこんなに長い洞窟にしたのだろう。

 ……もしかして私の運動不足解消が目的か?

 だとしたら、もう少し別の方法が良いなぁ。


「よし、じゃあ帰るぞ」


 私は『サイコ』を発動してシッシーを浮かび上がらせる。

 シッシーは竹筒だけでなく、水瓶やヒヒイロカネ、その辺りの一式がくっついているので運びやすい。

 まるで洞窟の森(スローライフゲーム)に出てくる家具アイテムの様だ。


 ……考えてみれば、今の状況はかなり窟森(くつもり)のスタート時に似ている。

 でも、これはゲームではなく現実。

 ワクワク感など皆無であり、物淋しさだけが残る。



 その時、ガサガサと外の(くさむら)が揺れた。


 窟森(くつもり)のチュートリアルそっくりだが、流石に「いぬきち(犬のNPC)が出てくるのでは?」なんて都合の良い妄想はしない。

 だが、シッシーも居るし魔物とも考えにくい。



(もしかしたら人間かな?)



 だが、人間であっても友好的とは限らない。

 私は慎重に音のした叢を注視する。


 もう一度ガサガサと揺れ、遂にその生物が姿を現す。



 ひょっこりと出てきた其れは、一匹の狼であった。

次回は、初の戦闘シーンです。


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