一つしかない個性
逃亡生活も今日で三日目。
空から見る景色は良いのだが、何処を見渡しても、木、林、森!
要するに領域と大差が無いと言うことだ。
昼寝をすると落ちてしまうので、本当に時間を持て余している。
「ねぇクラウス~暇~」
「……じゃあ地上の木々の合間を縫って進むか?
退屈しないだろ?」
「それは絶対嫌!」
私が何故こんなにも怯えてるかと言えば、以前に高速移動で木に服を引っ掛けて、破いてしまった事があるからだ。
領域に居る時は、服が破れてもテイラーに頼めば直せた。
だが、今は逃亡中。頼れる相手は全くのゼロ。
人間の国の正確な場所もわからない今は、着る服を減らす訳にはいかない。
「ここで遊びを提供して、それに疲れて寝られても困る。
暇なら今晩泊まる洞窟でも探してろ」
「むぅ……」
「仕方ねぇな……」
溜め息を吐くと、クラウスは咳払いをして声を切り替える。
「あー、アカリ隊員に告ぐ!
至急、我々の拠点となる場所を捜索せよ!
良いか、これは最重要任務である。心してかかれ!」
これは、上官命令だ!
クラウスから持ち掛けてかれるなんて珍しい。
「了解であります!」
私は嬉しくなって、敬礼をする。今は『蜃気動』で透明化してるので誰にも見てもらえないが……
こう言うのは気持ちが大事だからね。
よーし、任務を遂行するぞ~!
――――――
「クラウス隊長!
該当エリアに洞窟らしき物は発見出来ませんでした!」
「そうか、ご苦労。
……それにしても、ここまで見つからないか」
あれから一時間。
定期的に報告している内容も、ほぼ同一のものだ。
辺りも暗くなってきて、そろそろ目視での捜索は厳しくなってきた。
「隊長、如何致しましょう?」
「そうだな……崖ならあるか?」
「それならば左舷に確認しております!」
「よし、なら今日はそこにしよう」
目標の崖に接近すると、並行して発動していた魔法を切り『フライ』で優雅に降り立つ。
本当はスーパーヒーロー着地をしたいのだが、あれは膝を痛めると誰かが言っていたので止めておくとしよう。
見上げた崖は遠くから確認した時よりも遥かに迫力がある。
登ろうとしてもスタミナゲージが足りなくなりそうだ。
「それで、この崖でどうするの?
もしかして「洞窟が無いなら掘れば良いじゃない」的な話?」
クラウスが使えるのは空間魔法と熱魔法、私が使えるのは空気魔法。
どれもこれも自由度が高くて優秀な魔法だが、流石に崖相手には分が悪い。
なので、今のは実に明ちゃんらしさ満点のジョークであったのだが――
「その通りだ」
「え?」
クラウスは不敵に笑うと、崖に手を当てて魔法を唱える
『開通!』
するとクラウスが触れていた近くの壁が、突然砂になった様に崩れ落ち何処かに消えていく。
後に残ったのは直径三メートル程の広さで、奥まで続いている空洞。
人はそれを洞窟と呼ぶ。
「え、今何したの?」
「粉砕魔法で一定の範囲を砂に換え、後は空間魔法で砂を別の場所に――」
「いや、待てぃ!
クラウスの魔法適性って空間魔法と熱魔法だけじゃないの!?」
さらっと驚愕の事実を言われたのだけれども。
粉砕魔法って何さね。
今まで一度も使った事なかったでしょうに。
「違うぞ。昨日使った『分析』だって知覚魔法だし、高速移動には身体魔法だって使ってる。他にも……」
「待って待って待って!
え?適性ってそんなに沢山あるものなの?」
「普通はそうだ。その点で言えば、お前はかなり珍しいな。
適性が一つしか無いなんて、他にはフールウルフくらいなもんだぞ」
「フ、フール……」
恐らくそれは魔物の名前だろう。
どう考えても、ろくな魔物じゃない。
フールて……もう少しマシな名前あげてよ。
「まぁ、フールウルフが使うのは身体魔法だがな。
只でさえ珍しい空気魔法使いで、且つ他の魔法の適性が無い生き物なんて、この世界でお前だけだろうな」
あまり嬉しくない太鼓判を押されてしまった。
フールウルフ、お互い強く生きていこうぜ……