種が無い果実
あれから三日が過ぎた。
か弱い普通の女子高生にサバイバルなど出来る訳がない。
いったい明ちゃんはどんな可哀想な生活を送っているのだろう……
そんな心配は要りません!
何故ならば明ちゃんは、か弱い普通の女子高生ではなく、天才美少女女子高生なのだから!
衣、食、住。まるっと明ちゃんにお任せだよ!
一つ一つご説明致しましょう。
まずは、衣!
人どころか動物すら見当たらないこの森で、新しい服を作るのは、幾ら明ちゃんといえど流石に無理である。
もっとも、動物が居たとて皮を剥ぐなんてグロい作業は、避けたい所存ではあるが。
そんな訳で、セーラー服一着でなんとかするしかない。
常に着る以上、きちんと清潔に保たなくてはならい。
幸いにして、広い湖という大量の水があるのだ。洗濯も水浴びも自由に出来る。一応、普段水を飲むのに使わないエリアでする。
少し汚れたセーラー服を脱い…………お色気シーンなど無い!散れ散れ!
湖に浸かる!洗う!ついでに水浴び!以上!
さて、湖から上がったら服を乾かさなければならない。
呑気に自然乾燥なんか待ってたら、風邪を引いてしまう。
そこで、天才明ちゃんパワーの出番である。
『ドライヤー!』
温かい風が私と服を包んで乾かしていく。
うむ、流石は私。これくらいの魔法なら軽々と扱える。
初めて使ったときは鼻や口まで渇いて大変だったが、失敗もその程度だ。
だが、難関はこの後……
『スチームアイロン!』
制服に熱い水蒸気を圧縮して当てていく。
ドライヤーと違い、大雑把に当てたら変な皺が出来るだけだ、
少しずつ慎重にかけていく。
「……出来た!」
そう、初日には暖房くらいでしか役に立たなかった空気魔法だが、実はかなり自由度が高かった。
暖める、冷やす。風を起こす。酸素や水蒸気だけを動かす。
極めつけは、空気に触れている物を浮かべる事まで出来る。
自分より大きい岩を楽々浮かべられた時は、本当に驚いた。
驚き過ぎて力が抜けて、湖に落としてしまったくらいだ。
水飛沫が鼻に入って滅茶苦茶痛かったが、そのお陰で水中の物には干渉出来ない事がわかったので、怪我の功名といった所。
……これ、もう少し研究したら本当に何でも出来そうだな。
おっと、少し話が逸れてしまった。
続きまして、食!
動物が居る気配が無いから、こればっかりは本当に焦った。
もう最初に湖に辿り着いた時点で、お腹ぺっこぺこだったからね。
だが、天才明ちゃんは勘も天才的であった。
湖の反対側の森を少し歩いてみると、なんと大量の野菜と果物を含む、多彩な植物群生地帯を見つけたのだ!
野菜や果物だけじゃなく、穀物やよくわかんない雑草みたいな物まで選り取り見取り。
流石は異世界。気候や季節をガン無視で実りまくりであった。
しかも野菜や果物は種が無いから食べやすいったらありゃしない。
届かない場所になってる実も、初日に拾った石を魔法で飛ばして切り落とす。
『サイコ!』
多分これは念動力じゃくて、触れている空気を操って動かしてるだけなんだろうけども。
それっぽい名前付けたって良いじゃん!
だって名前付けて魔法使った方が、簡単に発動するんだもん!
まぁ、今はそんなことどうでも良いんだけどね。
収穫した食べ物を次々頬張っていく。
胡瓜も苫東も瑞々しい。蜜柑を摘まむ手が止まらない。
お次は西瓜に、岩塩を削ってまぶして……う~ん最高!
……おっと、岩塩まで何処で手に入れたのっかって?
きちんと説明するから落ち着きたまえ。
それでは最後の、住!
今度は湖の右側!……えっと群生地帯から見ると左側で……
方向わからないと面倒くさいな。磁石見つけたら方位磁針も作ろう。
まぁとにかく、その方向に洞窟を見つけたのです!
奥まで短く真っ直ぐな一本道で、昼間なら暗いけど見える程度。
やっぱり動物も全然居ない。熊とか蝙蝠とか居そうなもんだけど……
暖かい酸素を空気魔法で沢山用意しておけば、眠るのも安心。
そう、岩塩もね、ここに生えてたの。ビックリだよね。
サバイバルでの懸念事項が、何もかもトントン拍子。
私の日頃の行いが……いや、死ぬ前だから生前の?今は生きてるから前世のか?とにかく、行いが良かったからに違いない。
暗くなってきたし、『ドライ』で作った麦藁のベッドで眠るとするか。
あれ?昨日は平気だったのに少しチクチクする様な……気のせいか。
通して見れば今日も良い日だった。
明日はもっと良い日になるよね。
「おやすみなさい」
誰も見てなくても挨拶は大事である。