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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第二章 フルート村編
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許さない鉄壁

(……冷たい)


 頬に当たる風によって、少しずつ意識が浮かび上がる。


「……お、やっと起きたか」


 重い瞼を少しずつ上げると、クラウスの横顔が目に入る。


(……私はどうしてたんだっけか。

 クラウスと喧嘩して、仲直りして……そうだ、結界を抜けて空を飛んで……あ、そこで寝落ちたのか!)


 怪我をしてないって事は、クラウスが受け止めてくれたのだろう。

 今は、どこか森の中を移動しているみたいだ。


 私の魔法を失って飛べなくなったクラウスは、人間態になって私を運んでくれている。所謂お姫様だっこと言う奴だ。

 なかなか悪くないが、クラウスが速いので風と揺れが強い。

 う~ん、減点。


「重いから早く……あーこう言う言い方は駄目なんだったか?」


 失礼な発言を直前で取り止めるクラウス。

 私の言ったことをちゃんと覚えてくれている様で感心感心。


「うむ、成長しておるな」


 イラッ……


 そんな擬音が聞こえそうな程にクラウスの顔が歪んだのだが、明はそれに気が付かない。


「まだ眠いのでもう少し運んでたもれ」

 

 途端に手を放され、私は『ゲート』に落とされる。

『ゲート』の出口は上方向に開けたらしい。

 空に落ちると言う感覚はなかなか不思議なものだ。

 だが、勿論急に重力の向きが変わった訳ではない。

 私は徐々に速度を落とし、ゼロになったところで再び下方向へと加速する。

 そして最終的には、クラウスの肩で受け止められる。


 高度な技術を使った様だが、要するに私の持ち方を変える為の作業ってだけだ。


 そして、新たに変わったこの運び方を私は知っている。

 俗に言うお()様だっこと言う奴だ。


 何故ヒロインを雑に運ぶ時は、皆この運び方にするのか。

 広めた奴は誰だ!運ばれる身にもなれ。結構お腹苦しいんだぞ。


 だが、多少の苦しさよりも何よりも――



「ワンピース着てる時にして良い事じゃないって!」



 お尻に風がバッサバッサ当たって、捲れ上がらない様に必死に手で抑えつけている。

 スカートってだけでも駄目だが、ワンピースともなると油断したら大惨事だ。

 私が慌てていると、クラウスは呆れたように溜め息を吐く。


「魔法を使え、魔法を。お前には『フライ』があるだろう?」


 ……すっかり忘れていた。

 スカート云々は『フライ』の時に解決させたのであった。


(よし、今回は魔法の一部として組み込むんじゃなく、スカートを抑える効果単体でやるぞ……)


『鉄壁!』


 どんな風も、どんなアングルの視線も許さない、女の子の味方。

 その名も『鉄壁』のスカートである。


 流石は天才明ちゃん。これでお米様だっこでも安心だ。


「起きたんだから降りて自分で飛べよって話だったんだがな……」


 成る程。だが断る。

 明ちゃんは疲れたので、もう少し休みたいのだ。



 ――――――



 結局降ろされて、自分で飛ぶ羽目になった。

 高速飛行はまだ無理だと言ったのだが……


「右二……左三…………右一で屈め」


 目の前のクラウスの指示に合わせて体を上下左右に動かす。

 これにより、クラウスと同じ速さで進んでるにも関わらず、一切障害物にぶつからない。


 一人で出来ないのならば誰かに助けてもらえば良い。

 見えないのなら代わりに見てもらえば良い。

 だから、私は指示通り正確に動くだけ。


 これならば、もう目を瞑ってても平気


 ――な訳がない。


(これ……滅茶苦茶厳し――うわっと!)


 まず『フライ』でクラウスと同じ速度で動くのが難しい。

 高速で動く事までは大した事ではないのだが、完璧に同じ速度を維持し続けるのはかなり神経を使う。

 少しでも速度がずれれば、木に引っ掛かってしまう。


 更に指示を聞き逃さない為に『フライ』だけでなく『この声よ届け』も併用しているのだ。

 お忘れの方も居るかもしれないが――と言うか私がさっきまで忘れていたのだが、魔法とは頭を使うものだ。


 二つの魔法を維持しつつ、正確に指示を聞き正確に動く。

 わかる?これね、滅茶大変なの!


 今も少し遅れて、枝に当たりそうになった。

 緊張感が増し、更に神経を磨り減らす。


「ねぇ……休憩しない?」


 私の提案に、クラウスはきちんと答えてくれるのだが――


「そうだな――右三、十キロ先に――左一、洞窟を見つけ――右二、たから今日はそこで――右一でジャンプ、休むとするか」


 ヤバい、下手に話しかけるんじゃなかった。

 難易度爆上がりなんだけど。



 結局私は返事の内容を理解できないまま、クラウスが止まるまで飛び続けるのであった。

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