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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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小さな一歩

 ―――ウル視点―――


「よろしくお願いします」


「よろしくね」


 私が準備を終えて集合場所に向かうと、竜人と研究者が待っていた。

 どうやらこの二人と一緒に行動しなければならないらしい。

 子供に頭でっかち、正直足手まといとしか思えない。


「よろしくっす!」


 そう言えばサラ(馬鹿)も居た。


「……よろしく」


 一応挨拶は交わしておく。

 この二人は足手まといだが、サラと違って馬鹿ではない。

 ある程度の距離感を保っていれば、然程の害は無いだろう。


「タツヤ君、困った事があったらサラお姉さんにいつでも頼ると良いっすよ。

 なにせアタシには秘密兵器が……ってなんでタツヤ君もマジックバッグ持ってるんすか!?」


 サラは里では数少ない年下である竜人に対して、姉さんぶりたかった様だが盛大に失敗している。

 ……と言うか、マジックバッグ一つで自信を持ちすぎだろう。しかも自分のですらないし。


「これは、師匠から借りた物でして……」


「なーんだ、ならお揃いっすね!」


 サラは暢気に言っているが、マジックバッグを持っている者なんて、そうそう居ない。

 里長と騎士団、それと作った本人くらいだろう。


 竜人が師匠と呼ぶこの研究者は……魔導具の専門だったか?


 ……わからない。研究者の顔と名前なんて普通覚えない。

 特に私は名前を覚えるのが苦手なのだ。

 もう誰が作ったにせよ、ここにあるんだからそれで良いか。


「出発しなくて良いのかい?

 僕はここで、このままお喋りを楽しんでも良いけど」


 研究者の言う通りだ。さっさと出発せねば。

 この任務は、対象を連れ戻す事だ。

 早くに見つければ二時間で終わるかもしれないし、運が悪ければ数年かかるかもしれない。

 時間が経てば、その分対象の行動範囲も広がる。

 手間が増えるのは御免だ。


「……さっさと行く」


「了解っす。じゃあちょちょいと行ってきますか」


「はい、大丈夫です。行きましょう師匠」



 そうして私達三人は、竜人に触れながら歩く事で結界を抜けた。



 ふふふ。これで私が巫女を捕まえれば、団長になれる日も近い。

 今の団長が優秀なのは認めるけど、些か怒りっぽい

 私の方が団長を務めるのには向いている。


 従順な手駒を思うがままに操れる。

 想像するだけでも楽しくて仕方がない。

 その為にも、さっさと任務を終わらせなければ。



 巫女、あなたは私が出世する為の大事な餌。

 何処へ逃げようと必ず仕留める。


 ……生かして捕まえなきゃいけないんだっけ?

 なら、半殺しでいいか。



 ―――タツヤ視点―――


 僕は今、師匠と一緒に結界の外に居る。

 正直未だに信じられない。僕の信念と僕の夢、相反する二つが同時に守られたのだ。

 どうしても気になって師匠に聞いてみる。


「まさか彼女達は僕の為に?」


「それは違う。あくまでも君の事は()()()だよ」


 例え()()()だとしても、そのお陰で僕が夢に大きく近づけたのは事実だ。


 彼女に感謝を。彼女を遣わしてくれた女神様にも大いなる感謝を。



 ―――明視点―――


 透明になって空の旅。展望タワーのガラスの床より余程スリリングだ。


(スピード出してるのは良いけど、風が強いなぁ……そうだ!)


『ドラゴンライダー!』


 これで一安心だ。と言うか、その為の魔法だったのに、今の今まで忘れていた。

 快適になったので、クラウスの背で頬杖をつく。


「……ねぇクラウス、今更だけど巻き込んじゃってごめんね」


「本当に今更だな。謝るな、俺も自分の意思でここに居るんだ。

 何時もの自信はどうした?しゃんと胸を張れ」


 その言葉に嬉しくなって、私は上体を起こして宣言する。


「これからも沢山巻き込んじゃうけど、よろしくね!」


「多少は自重するようによろしく頼むよ……」



 理想のヒーローだったら、追われる様な事なく解決出来たのかもしれない。

 明ちゃんは天才だけど、まだ理想には程遠い。

 沢山失敗する。他人に迷惑もかける。

 それでも、少しずつでも、理想に向かって歩き続ける。


(そんな明ちゃんやっ――)


「少しだけ」


 良いところだったのにクラウスが遮る。

 一体何だと言うのだね。



「今日のお前は、少しだけかっこよかったぞ」



 ……どうやら、また少し理想に近づけた様だ。

 それは小さな小さな一歩かもしれないけど、それでも凄く大切な一歩に思えた。


 夕陽が私達を照らす。


(いつかは、この太陽よりも明るく皆を照らせる様な存在になりたいね。

 それにしても、今日と言う日はやけに長く感じたなぁ……)



「……あっそう言えば、早起きして寝不足だったんだ。

 思い出したら急に眠気が……」


 朝とは正反対な幸せな気持ちに包まれて、私の意識はゆっくりと落ちていったのであった。









「馬鹿っ寝るな!

 お前が寝たら『義翼』が……おい、本当に起きろ!」



 明の魔法を失ったクラウスもまた、物理的に落ちていったのであった。

これにて第一章、龍の領域編は終了です。

次回より第二章、フルート村編の予定です。

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