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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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戦いは力だけじゃない

 ―――タツロウ視点―――


 騎士団長から「巫女を発見した」と聞いたときは、今日と言う日が人生で最良だろうと思っていた。

 だが、再び巫女を迎えに行った筈の騎士団長の報告。その最後の一言は耳を疑うものであった。



「……そして、巫女とクラウスが結界の外へ逃げた」



「今……何と言った?」


「巫女とクラウスは領域から出たと思われる」


 多少言い回しは違うが、その内容は同じ……いや、私が繰り返させたのだから当たり前か。

 いかん。やはり混乱している。だが内容は理解出来た。

 だからこそ、聞かねばなるまい。


「……それは息子の仕業か?」


「違う。安心しろ」


 龍人が領域の外に出た。女神より遣わされた巫女が逃げた。

 前代未聞にも程がある現実に、頭がクラクラする。

 タツヤは関係ない。それだけが私にとって唯一の救いか……


「……ならば、どうやって外へ出たのだ?」


「わからん。

 だが、私の()が外へ出たのは間違いないと言っている」


 騎士団長の勘。

 それならば下手な証拠よりも余程信用できる。

 であれば、後は掟に従い指示を出すだけだ。

 ……本来なら里長の仕事なのだがな。


「よし。タツヤを使い、少数の龍人で探しに行かせる」


 竜人と共にであれば、龍人も結界を抜けれる。

 それ故に、それを実行した者を捕らえる為の掟も存在している。

 尤も、そんな事をする者は居なかった為に形骸化した掟ではあるが。



「それならば是非私を――」


「待った!」


 騎士団長の自薦を遮る声がした。

 扉を開けて入って来た人物は、普段里には居ない筈の研究者―――


「テイラー……」



 ―――クラウディア視点―――


(何故テイラーがここに居る?)


 研究者が自ら里に来るなど、余程のことだ。

 それに明らかにタイミングが良すぎる。


「……貴様、さては事前に知っていたな?」


「知っていたらどうするんだ?」


 その余りにも挑発的な態度に、私の顔はまたも引き攣る。

 今日はどいつもこいつも私を怒らせたい様だ。


「龍人が領域の外へ出るのを見逃がすなど、掟破りも甚だしい!」


「そもそも、タツヤの協力を仰がずに外に出る等、土台無理な話だろう。

 そんな戯言を信じて報告する方が可笑しい」


 それは自分の行動の正当性を主張する様でいて、暗に私の勘を馬鹿にした物言いだ。

 そして、今度は私ではなくタツロウ殿に向けて提案を始める。


「だからこそ、領域内を捜索するのが当たり前だ」


「待て、私は反対だ。タツヤと言う手札を使った形跡を見せずに、あの蜥蜴がまだここに残っているなど有り得ん!

 だから領域の外へ捜索に行くべきだ」


 勘。それは経験に基づく無意識の考え。

 奴を嫌いだからこそ、何度も戦ったからこそわかる。


(何か出られる確証があったからこそ、あそこまで大胆な行動に出た筈だ。

 寧ろあの時点で既に外に出ていた可能性すらある)


「そうだね、僕もその考えに賛同するよ」


 そう言ったのは、今しがた私と反対の意見を言ったばかりのテイラー。


「……貴様、言っている事が滅茶苦茶だぞ」


 巫女と言いこいつと言い、一体何なんだ。

 これも私をおちょくる手段の一つか?


「僕は領域内を探すのは()()()()だと言っただけだ。

 あの二人に当たり前だけで対処していい訳が無いだろう」


 ならば最初からそう言えば良いだろうに。

 回りくどい言い方は嫌いだ。


「領域内と領域外の両方を捜索するんだ。

 そして、クラウディアは領域()を担当すべきだ」


「何故だ!」


「クラウディアはクラウスに執着し過ぎだ。

 彼に挑発されたら、人間の国に影響を及ぼしてでも戦いかねない」


「そんなことは無い!」


 私の否定に、テイラーは一瞬口角を上げ、態とらしく溜め息を吐く。


「現に今も彼等に挑発されたから、ここまで向きになって外へ行こうとしてるんじゃないか」


「ぐっ……」


 言葉に詰まってしまった。正直真っ向から否定は出来ない。

 さっきの笑みは、私が狙い通りに食い付いたが故のものだったか。


 話の主導権を握ったテイラーは、意気揚々と自分の目的の方向へ漕ぎ出した。


「僕が外へ行こう。服もすぐ作れるからどんな場所でも溶け込める。

 捜索にはもってこいだろう。」


「奴等を見つけても見逃すのではないか?」


 こいつは明らかにあの二人と親しい。

 交友があるものを捜索に行かせるべきではない。


(論理的な話は得意ではないが、意見の裏にある欲望の臭いだけならば私でもわかる)



 だが私はテイラー()領域を出たがっていると勘違いしていた為に、より一層テイラーのペースに飲まれてしまう事となった。


「勿論、監視も兼ねてタツヤを連れていくさ

 彼なら掟を破るのは許さないだろう?

 僕とて弟子の目の前で失望させる様な事はしない程度の矜持は――」


「ま、待て!タツヤはまだ成人前だぞ!」


 我々の会話を黙って聞いていたタツロウ殿が慌て出す。

 自分の息子の事だ。それも当然の反応だろう。


「成人後に領域を出るのは掟じゃなくて()()だ。

 外で暮らす為の力を身に付ける期間なのだから、龍人と言う充分な力が供する分、早めに出ても構わない筈だ。

 名目通り巫女を探しに行くんだから、文句は無いだろう?」


 この意見に穴は見当たらない――否。仮に有ったとしても私達が気付けないのを、こいつは理解してやっている。

 反論を封じて自分の意見を通す。

 ……研究者と言うのは(つくづく)癇に障る生き物だ。


「……仕方ない行け」


「しかしタツロウ殿!」


 私と同じ様に考えたのか、渋々と言った様子で許可を出すタツロウ殿。

 だが、このままでは奴の思う壺だ。

 そう考えた私だったが、タツロウ殿はそれを手で制すると、テイラーに向き合って、こう続けた。


「ただし、騎士団からウルとサラは連れて行け。その二人は巫女達の顔を知っているのだろう?

 捜索の力になる筈だ」


 それがテイラーに対する精一杯の抵抗だった。

確証もなく大胆な行動に出た天才美少女が居るらしい。


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