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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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誤ったなら、謝らないなら

少し長めです。

「……お前意外といい性格してるよな」


 俺は自分の尻を摩りつつ、隣で仁王立ちしてる奴を見る。

 こいつが姉貴に対して準備した一種の()()()()には正直少し驚いた。


「明ちゃんは別に説法を説くだけの坊主ではないのだよ。

 それに、全く必要ない事って訳でもないし」


『義翼』の時と言い今回と言い、実はそんなに馬鹿ではないのかもしれない、と評価を見直す。


「クラウスも大丈夫なんだよね?」


「あぁ、数日で元通りだ」



 もうすぐ姉貴がやって来る時間だ。

 こいつの()()の行く末に、俺は期待と不安の入り交じった溜め息を吐いた。



 ―――クラウディア視点―――


 約束の地へと向かう最中、私は供の二人に指示を出す。


「着いたらお前達は黙っていろ。先程の様な野次を飛ばされても邪魔なだけだ」


「……了解」


「は~いっす」


 やる気の感じられない問題児達だが、指示だけはきちんと守るので除隊もさせられない。

 こいつらに加えて巫女と言う悩みの種が増えた事で、私は深く溜め息を吐く。



 私達三人が再び辿り着くと、既に巫女とクラウスが待っていた。

 子供の頃クラウスが里を飛び出して以来の再会だが、互いに喜びはない。


「蜥蜴も来るとは意外だな。巫女の見送りか?」


「そのつもりだったんだがな……」


 クラウスの返事は歯切れが悪い。

 私が訝しげに思っていると、巫女が一歩踏み出してくる。


「まずクラウディア、さっきは偉そうな事言ってごめんなさい」


 突然謝り出す巫女。訳がわからない。

 先程の傲慢な態度も、最初の丁寧な対応とも違う。

 巫女の本性や本心がわからなくなり、私は戸惑う。


(なんなんだこの人間は。気でも狂っているのか?)


 そんな私の反応など目に入っていないかの様に、巫女は話し始める。


「ああでもしないと、一度帰らせてもらえないと思って……

 だから、私の我が儘で振り回しちゃって、ごめんなさい!」


 クラウスの所へ帰りたかったと言う巫女の言葉で、私も少し落ち着きを取り戻す。


(読めてきたぞ。巫女は領域に来てから一月の間全く里に顔を出さなかった。クラウスに里の話を色々聞いたのだろうな。

 一度帰ったのは、里長との婚姻が嫌で、それを避ける為に援軍を呼びに行ったと言ったところか)


「ほう、蜥蜴を呼んだという事は何か姑息な作戦でも考えているのか?」


 態々私に謝ってくるのだ。巫女は腹芸が得意なタイプではないと見て、私も正面から問いかける。


 昔からクラウスは正々堂々と戦わない。小狡い手で騎士道を馬鹿にした様な戦い方をする。

 だが私は鍛えに鍛えて正面からそれを捩じ伏せてきた。

 だからこの二人が今回何を企んでいようと同じことだ。


 だが、私の推察に巫女は首を横に振る。


「違うの。謝る時間が欲しかったの」


「謝る?」



「クラウスに……蜥蜴と言った事を」



 その衝撃的な言葉に私は目を見開いた。


(驚いたな。まさか一度「蜥蜴」と呼んだ者を許したと言うのか?)


 龍人を「蜥蜴」と呼ぶのは最大の侮辱だ。後でどれだけ謝罪しようと到底許せるものではない。

 私とて、それを理解した上でクラウスに対して使っている。

 仮に巫女がそれを知らずに使っていたとしても、それは関係のない事だ。


 そして巫女の次の言葉に、私は更に驚く事となる。



「だから、次は貴女がクラウスに謝って」



「……謝れば許すとクラウスが言ったのか?」


 そうだとしたら、謝罪ではなく寧ろ叱責すべきである。

「蜥蜴」と呼んだ者を謝罪程度で許すなど、龍人の品位を著しく傷付ける行為だ。


「言ってないよ。でもそんな事は関係無い。

 貴女は酷い事を言ったのだから謝るのは当然だよ」


 先程から巫女の言葉には驚かされ続ける。

 常識が違い過ぎて頭痛がしてくる。


「解せんな。私は自分の発言が間違っていると思った事はない。

 自分の発言を()()と思った事も、謝罪が必要だと感じた事もない。

 こいつは飛べないだけでなく、()()()()()のだ。それは蜥蜴と呼ぶに相応し――」


「まず、逃げる事の何が悪いの?」


 純粋に疑問に思っている様子の巫女を見ていると、頭痛が酷くなってくる。


(人間と言う種族はこうも愚かなのか。

 この程度の事を一々説明してやらねばならないとは)


「……いいか?それは龍人としての矜持がだな――」


「矜持って何?」


「プライドみたいなもんだ」


 又も私の話を遮る巫女、流れる様にそれに答えるクラウス。

 なんだ?この巫女はいつもこの調子なのか?


「あぁ、プライドね!最初からそう言えば良いのに……いい?プライドってのはね、人に押し付けるもんじゃないの!

 自分が自分らしく、かっこ良くあるためのものなの!」


「知ったような事をっ……!」


 矜持の意味さえ知らなかった癖に、私に説教をする巫女。


(幾ら巫女とは言え、これ以上の狼藉は……いや落ち着け)


 危うく怒りで目的を見失う所だった。

 私はこいつを里に連れていくだけで良いのだ。そもそも問答など不要だったのだ。

 それすら忘れていたとは、巫女のペースに飲まれて冷静さを欠いていた。


「まぁいい、話なら後で幾らでも聞いてやる。とにかく来い」


(里長に渡せば、私が相手をする機会など無いだろうがな)


 巫女の手を強引に掴もうとするが、私の手は何故か巫女の体をすり抜ける。

 予想外の事に一瞬戸惑ったが、直ぐに答えに辿り着く。


「……まさか幻影魔法か!?」


(空気魔法の他にまだそんな厄介な魔法を持っていたとは)


 そんな私の驚きが嬉しかったのか、巫女は自慢する様な腹立たしい笑みを浮かべて語り出す。


「ふっふっふ。違うのだよ、クラウディア君。

 私の『蜃気動』は立派な空気魔法なのだよ」


「おい、手の内は秘密にするんじゃなかったのか?」


「あ、しまった!」


 巫女の魔法の腕前には驚いた。まさか、空気魔法で幻影魔法の真似事ができるとは。


 だが、それよりも気になるのは、二人の親密さだ。

 巫女が単に婚姻自体を嫌がっているのか、他の相手との婚姻を望んでいるのかで、事態の厄介さは大きく変わってくる。


 熟嫌になる。この巫女はどれだけの面倒事を運んでくるのだ。


「それで、貴女は結局謝るの?謝らないの?」


「謝る理由はないと言っているだろう」


「貴女がクラウスに謝れる様な人だったら、大人しく里に行こうと思ってたんだけどね」


 まるで呆れた様に溜め息を吐く巫女。その余裕ぶったその態度が、より私の神経を逆撫でする。

 だが、ここまで余裕があると言うことは、恐らくこの近くに本体は居ないのであろう


「幻が使えるからと図に乗るな。

 広いとは言え閉ざされた領域だからな。多少時間はかかろうとも必ず見つけ出すぞ!」


 この言葉は虚勢ではない。

 戦闘寄りな分状況的に不利とは言え、龍人にも優秀な魔法使いは沢山居る。

 その者達を動員すれば、直に見つける事も出来るだろう。


 だが、それでも巫女の余裕は崩れない。

 それどころか、本日最も衝撃的な宣言を返してくるのだった。




「そう言うと思ったので、領域の外に出る事にしました」




「「「……は?」」」



 余りにも突拍子もない事を言い出すので、私だけでなく黙って聞いていたウルとサラまで揃って、素っ頓狂な声を上げてしまう。



「さぁ追っ手でもなんでも寄越してみなさい。

 こっちは逃げる事には定評あるんだから!」



 その挑発的な言葉を最後に、巫女とクラウスの幻が消える。

 残されたのは呆然と立ち尽くす私達と――



 赤い()()の尻尾だけだった。

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