変わらない私
上を見上げれば木、左を見れば木、右を見ても木。
「成る程、森という漢字はこうして作られたんだね」
さて問題です。私は今何処の森に居るでしょうか!
……本当に何処に居るんだろう?
女神様との会話の途中だったのに、何故か突然森の中。
少なくとも異世界だとは思う。
何故って?
それは……
「木がでっっっっけぇ!」
全部が全部、高さ三〇メートルくらいある。
それなのに幹が細く、抱きついたら私でも指同士が届きそう。
物理的に支えられなそうなのに、力強くそびえ立ってる。
現実離れした光景に、ずつと見てると頭バグりそう。
そんなことを、この場でずっと考え続けても仕方がない。
とりあえず、森の中を散策するとしよう。
さて。散策と言っても、これだけ木だらけだと迷子になりそう。
同じ場所をグルグルなんてしたくないからね。何か目印を用意しなければ。
「う~ん……一定間隔で木を傷つけていけば良いかな?」
そうと決まれば手頃な石を探す。
重すぎず、持ちやすく、適度に尖った石が良い。
だが、この広大な森の中で、そんなに都合のいい物が簡単に――
「……見つけた!」
なんでこんな手頃な石がこんな処にあるんだろう?
……私が天才だからか。きっとそうだな。
「どっせい!」
力を込めて木を引っ掻く。
先程抱きついたところ結構堅く感じた木だったが、驚く程あっさりと傷が付く。
異世界に来て力が強くなったとも考えられたけど……
三角錐の側面を少し削った様な形の石は、先端がかなり鋭い。
「この石、刃物みたいだな」
自分で口にした言葉で、直近の嫌な思い出が甦る。
(刃物か……)
私はこんな感じの物で刺されたのかな?
いや、落ちてた石な訳はないし、包丁辺りなんだろうな。
この石を手にしていると、少しだけ汗が滲んでくる。
だからと言って、刃物無しでは生きれまい。
良いものが手に入ったと、割り切っていこう。
――――――
歩いている間は暇だし、空気魔法とやらを試してみるか。
何が出来るのかわからないが、少なくともエアコン的な事くらいできるはずだ。
結構北なのか、標高が高いのか。緑は生い茂ってるのに意外と肌寒い。
これを解消するくらいは出来てよ。頼むから。
腕を大きく動かしてみる。広げて、閉じて。伸ばして、曲げて。
どうすれば魔法が使えるかわからないから、それっぽい動きを思い付く限り試す。
私はきっと偉大なる魔術師。この異世界で歴史に名を残して、可愛い肖像画と共に大人気になる存在。
(そんな私が命ずる!)
『なんか、こう……暖かく!気持ち良い程度の気温になれ!』
私の初めての魔法は、かっこつかない感じで終わった。
誰にも見られてなくて良かった。
頬がほんのり熱い。それに気づいたら、余計に恥ずかしくなってきた。
(落ち着け、大丈夫だ。誰も見ていないってば)
……あ、違うわ。魔法が成功して暖かくなってるんだ。
精神的じゃなくて、物理的要因で熱くなっただけだ。
それに気付かなかったのが恥ずかしくて、ちょっと暑いくらいに感じたのは内緒である。
――――――
しばらく真っ直ぐ歩いていると、大きな湖が見えてきた。
そう言えば、喉が渇いたな。ナイスタイミングだ。
水を飲もうと、早速しゃがんで水面を覗きこむ。
かなり綺麗な水で、私の顔がはっきりと映る。
「あ、葉っぱ付いてる。私の完璧な容姿が台無しじゃん」
いや、葉っぱ如きで台無しは言い過ぎかもしれない。
完璧可愛いが、超絶可愛いになった程度だ。
「……あれ?そう言えば可愛い私のまんまだな」
水面に映るのは、見慣れた茶色のショートヘアに、少し汚れてるけど血はついてないセーラー服。
目も鼻も口も素敵この上ない。
うん、間違いない。完璧可愛い天才美少女、日野明その人だ。
私、一度死んだよね?なんで身体があるんだろう。
でも女子高生としてまだ過ごせるなら、それでいいか。
例え、もう高校には通えないとしても……
もしもの時のために、異世界人として転生した時用のロールプレイは、色々考えてたんだけどな。
「お願ぇだす、領主様。娘の命だけは助けてくんろ」
「奥様、お目が高い!そちらの商品は最高級の一品でございます」
「おーほっほっほ!薄汚い庶民には泥水がお似合いですわ!」
うむ。我ながら良い出来栄えだ。
村長、商人、悪役令嬢。今から何に転生しても完璧に演じられる。
……まぁ、何を演じても私は私なんだけどね。
一頻り遊んだし、そろそろ目を背けていた居たことを考えなければ。
結構歩いて来たが、人っ子一人居る気配がない。
こうなると私は、己の力のみで生きなければなるまい。
無人森サバイバル生活である。
目の前に湖があるから飲料水はなんとかなった。
後は食料と寝床……他に何か要るかな?
色々考えつつ、後回しにしてた喉を潤す。
「はぁ、この水おいしい」
……もう少し休憩時間にしよ。
ブックマークしてくれた方が居るみたいです。
ありがとうございます。
これからも楽しく書いていこうと思います。