同じじゃない
「気安く触らないで頂けるかしら?」
「……急にどうしたのだ巫女殿?」
私のツンとした態度に、クラウディアは引き攣った笑みを浮かべて問いかける。
もしかしたら怒らせたかもしれない。
「うはっ!団長に楯突くなんて大物っすよこれは」
「……只の馬鹿」
サラとウルの反応を見るに、里の人からすると相当不味い事だったらしい。
それにしても「只の馬鹿」って……巫女への態度それで良いの?
タツヤ君は割りと敬意持って接してくれてたと思うんだけどな。空気魔法使いへの意識も人に因るのかもしれない。
「ごめん遊ばせ。
けれど、私は女神より遣わされた巫女です。
それにしては無礼な振る舞いが多いのではなくって?」
だが例え怒らせていても、もうこの手に賭けるしかない。
論理的な説得を放棄して我が儘を叶える!
(名付けて!お嬢様の命令は、ぜった~い大作戦!)
さて、三人の反応はと言うと――
「これが本性と言う訳か……」
「……面倒臭い」
「そうっすか?私は結構好きっすよ」
サラにだけは何故か気に入られた。
正直演じてる私ですら、割りと相手にしたくないと思う程なのに。
取り敢えず、相手の目的を再確認する。
「それで?貴女方は私を里に招きたいと?」
「ああそうだ。巫女殿が里に来れば――」
「嫌ですわ」
私の即答に再び固まるクラウディア。
「……何?」
「私を招待するんでしたら、手土産の一つでも持参するのが当然ですわ。なのに、貴女は手ぶら。
これでは、私を軽んじてる様に感じますわ」
「巫女殿、我々は――」
「しかしですわ!どうしても歓迎会を開きたいと言うのなら仕方ありません。参加して差し上げましょう。
それこそが高貴なる者の務めですから」
相手に反論を許さず捲し立てる。
これは会話ではない。一方的な要求なのだ!
「……わかった。では巫女殿を歓迎する宴を開かせよう」
よし!なんとかなったみたいだ。
流石は演技派女優の明ちゃんだね。
「それでは、一度クラウスの家へ戻って相応しい服装に着替えてきますわ」
「服ならテイラーの所の方が良いんじゃないっすか?」
サラの的確な指摘に固まる私。
(こやつ、阿呆キャラっぽい喋り方して意外と鋭い!)
「お、お黙り!私には私のやり方がごさいますのよ!
供も必要ありませんわ!」
こうなったらゴリ押しじゃあ~。
押し通す。押し通すったら押し通す!
「もう好きにしろ。
……再びここに迎えに来れば良いか?」
「そうですわね。五時間後くらいで良いかしら?」
「長くないか?」
龍人の飛行速度を考えたら、そう感じてもおかしくない。
「あら、レディの身嗜みに時間がかかるのは当然ですわ。
当然ご理解頂けますわよね?」
本当は自転車での往復時間を考えたギリギリだが、それを説明すると「なら送っていく」と言われかねないので言えない。
「……我慢だ……相手は世間知らずでも巫女……」
「あの団長が耐えてるっす!」
「……珍しい」
普段はそんなに短気なのか。
この人と普段接してるタツヤ君は大変そうだな。
「……ふぅ、また五時間後に会おう」
クラウディアはそれだけ言うと、クラウスと同じ赤い龍になって飛び立つ。
ウルとサラもそれに続き、残されたのは私一人だ。
「上手くいったけど時間がない。急いで戻らなきゃ」
私は猛スピードで自転車を漕ぎ出した。
―――クラウス視点―――
シャワーを止め、タオルで髪を拭く。
随分と頭は冷えた。
「……物理的な冷却も効くもんだな」
あいつを追い出してから、もうすぐ三時間が経つ。
きっともうテイラーの家に着いているだろう。
事情を聞いたテイラーは俺に怒るだろうか、それともあいつを叱るだろうか。
……わからないな。そういえばテイラーとこんなに話す様になったのもあいつが来てからだしな。
どういった人物かはお互い知っていたが、表面上の遣り取りだけだった。
それが今じゃ頼る相手だもんな。これもあいつのお陰か。
いつもの作業着と白衣を着ながら考える。
それにしても、何故あいつはあんなに怒ったんだろうか。
健康管理は必要な事で、それを俺が行ってたんだから、感謝こそされど怒られる理由など無い。
しかも「蜥蜴」なんて龍人に対して最大級の侮辱の言葉を使う程――
「いや、違う。
あいつがそんな事を知ってる筈がないのか」
あいつは龍人じゃない、そんな当たり前の事が抜けていた。
互いの常識は違う、だからこそメモまで持たせていたと言うのに。
……記憶力には自信があったんだがな。
「……何が不味かったんだ?」
あいつが怒った理由を考えようと思えば幾らかは思い付くが、俺には理解できないものばかりだ。
明確に失敗と言える発言は思い当たらない。
「なんにせよ俺は必要以上に怒り過ぎた。一度話し合わなきゃな」
早速テイラーの家に『ゲート』を開こうとした瞬間、玄関の扉が叩かれる音が聞こえた。
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