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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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譲れないもの

 それは突然思い付いた。


「ハンバーグをおろしポン酢で食べたい」


「急にどうした」


 確かに急過ぎた。

 朝起きて第一声がこれでは驚くのも無理はない。


「おはよう」


「ああ、おはよう」


「ハンバーグをおろしポン酢で食べたい」


「急にどうした」


 おかしい。ちゃんと挨拶してから言い直したのに。


「まぁ、急なのはいつもの事だから良い。

 それより、おろしポン酢ってなんだ?」


 そんなにいつもいつも急な訳じゃないんだけどなぁ。


 それで、おろしポン酢の説明だね。

 まずポン酢の原料ってなんだったっけ?


「醤油と酢と、何か柑橘系の果汁だったと思う。

 ……ポンだから椪柑(ポンカン)かな」


「いや、ポン酢の方はあるんだが――」


「あるんかい!」


 おろしポン酢に於いて一番難易度高いのここでしょうに。

 ……いや、醤油も普通にあるなら難易度低いのか?


「おろしがわからない」


「そっちはないんかい!」


「あと、ポン酢に椪柑は使ってない」


「使ってないんか――え、使ってないの!?」


 今日一番の衝撃。衝撃過ぎて素が出てしまう程。

 ポン酢国、柑橘系果汁軍の中に椪柑は属してないの?

 じゃあ何さ。ポン酢のポンって何さ!



 ――――――



「……成る程。じゃあその卸金ってのを作れば良いんだな」


 朝御飯を食べながらおろしポン酢について話した。


 結局ポンが何かはわからなかった。

 クラウスに聞いても「勇者が伝えた物だ。語源までは伝えられていない」と言われただけ。

 ポン酢を伝えた勇者君は、もっとポンに責任を持って頂きたい。

 あとポン酢は伝えたなら、大根おろしも伝えといて頂きたい。


 クラウスは取り出した金属の塊を熱魔法で加工していく。

 職人が見たら泣き出しそうな速度で、次々と試作品を作り上げる。


「一度洗ったら、実際に大根で試してみよう」


 そこからはおろして味見しての単純作業の繰り返しだ。

 単純作業に飽きてくると、ここ数日考えていた事が口から零れる。


「タツヤ君どうしてるかなぁ」


「まぁ休みなく戦闘訓練だろうな」


 戦闘訓練がどのようなものかはクラウスに聞いた。

 魔法を交えた肉弾戦で、頭も体も極限まで疲弊すると言う。

 きっとテイラーの処に行く暇どころか、服の事を考える体力も残ってないだろう。


「……タツヤ君とテイラーでさ、駆け落ちみたいに領域の外に行っちゃえば良いんじゃない?」


「嫌な例え方するなお前……もしそれが出来るなら俺も出たいな」


「良いじゃん!皆で出ようよ」


「だが駄目だ」


 せっかく良いアイデアだと思ったのに、何故か否定されてしまった。

 賛成っぽい事言ったくせに。


「なんでさ!」


「あいつは正しくない事はしない」


 自分の案を()()()()()と真っ正面から否定され、私はたじろいだ。


(また失敗した?……いや、大丈夫。まだ間違えてない筈)


 私の動揺っぷりを見て、クラウスは慌てて訂正する。


「いや、すまん。言い方が悪かった。

 ()()()()()()()正しくない事って意味だ」


「タツヤ君にとっての正しさ……」


「あいつにとっては、里の掟や慣習ってのは大事なものなんだ。

 自分の我が儘で曲げていい物じゃないと考えてるんだろう。

 ……俺にはさっぱり理解出来ないが」


 テイラーも里の事より外の服の方が興味あるだろうし、反対はしないし寧ろ賛成しそう。

 テイラーだって外で人間に迷惑かける様な人じゃない……少なくとも龍である事が原因では。

 だから外に出ても問題ないと思う。

 きっと皆が幸せになる筈なのに、それは我が儘なのだろうか。


「お前の事は黙ってるみたいだし、単に堅物って訳じゃなく、何かきちんとした芯があるんだろう。それは尊重してやれ」


 私がきちんと理解するには少し難しいだ。

 でも、タツヤ君にお願いして領域を出る案が駄目なのだけはわかった。



「……おっ、これは食感もいい感じじゃないか?」


 十数個目の卸金で、満足のいく大根おろしが出来た。


「これを大量にすって、適量のポン酢をかければ良いんだな?

 ……大量にするの結構面倒だな。自動化の魔導具も考えるか」



 その後、ハンバーグも一緒に作り、お昼御飯はそれになった。



 最近色々考えすぎて疲れた。

 そんな時のおろしポン酢ハンバーグ(好物)はやっぱり格別だった。


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