龍のなり損ない
「龍のなり損ない?」
この言葉の正確な意味がわからないので、取り敢えずクラウスの方を見る。
以前、似たような流れで似たような話を聞いた気がする。
「……確かに俺もなり損ないっちゃなり損ないだが、今回はもっと根本的な問題だ」
ふむ。魔法適性云々の話じゃなさそうだ。
テイラーが詳しく説明してくれる。
「昔は龍人も人と暮らしていたからね。
僕達も少なからず人間の血が混じっているんだよ。
竜人はその血が色濃く出た者って事さ」
半分龍人で半分人間って感じかしら。
親が人間って訳でも無いだろうし、ハーフとは違うんだろうけど。
「明確な違いとして、僕ら竜人は体の一部しかドラゴンになれないのです」
そう言うと、タツヤは足を変化させる。
大きさはそのままだが、硬い鱗に覆われて頑丈そうだ。
「そして竜人は十八歳の成人と共に領域を旅立つ運命なのです」
次は役割の説明かな。
私が一番気になってるところだ。
「ここって結界で完璧に閉ざされてるんじゃないの?」
クラウスに聞いた限りでは、出る方法は無いみたいな言い方だった。
「この結界を創られた際に女神様が仰った言葉に『人と龍の絆の証のみが巫女を探しに行く事を許します』と言うものがあります。
この『人と龍の絆の証』が竜人の事を指し、龍人と違って結界を通り抜ける事が出来るんです」
女神様も態々難しい言い回ししなくても……
えっと、確か『巫女』は空気魔法使いを指す言葉だったよね。
つまり……
「早い話が「居もしない空気魔法使いを探すと言う名目で、危険度の低い竜人は外で暮らしても構わない」って事だな」
「それはクラウスさんの主観が多いです!
人の世界で巫女を探すには、より人に近い竜人が適していると言うだけです!
居もしないと言いますが、現にここに居るじゃないですか!」
「こいつは別枠だ」
龍人でも里長の一族だけって言ってたし、空気魔法使いはかなり珍しいみたい。
解釈に差はあれど、言ってる事は同じ。
竜人は、成人したら、外に出る。
「じゃあタツヤ君は、旅立つ前にテイラーに服の事を学んでおきたいって訳だ」
「はい。テイラーさんの技術を学べば、外でも職人としてやっていけると思います」
人間の世界がどれ程発展してるのかは知らないけど、確かにテイラーの服のクオリティは凄いからね。充分に需要はあるだろうな。
「何処かに定住する気満々じゃないか。
結局使命とやらを果たす気も無いんじゃないか?」
「生活基盤はどういった形でも構わないでしょう!」
さっきからクラウスとタツヤが険悪だなぁ。
私の事を説明してる間とかは平気そうだったんだけど。
クラウス側が一々突っ掛かってる風に感じる。
タツヤ君も里の人だけどクラウスを馬鹿にしたりしてないし、原因はなんだろう?
聞いてみよう。
「……なんで今日のクラウスは喧嘩腰なの?」
クラウス本人に、と言うよりは「誰かわかる人居る?」と言うニュアンスで問いかけたのだが、クラウスが不機嫌さを増して答える。
「別に喧嘩腰じゃねぇよ」
「いや、超喧嘩腰じゃん」
「だから違う!」
何故かは全くわからないが、珍しく向きになっている。
意外と子供っぽい所もあるようだ。
見かねたテイラーが小声で私に教えてくれる。
「クラウスは里の慣習や龍人の考え方が好きじゃないんだろう。
掟や仕来たりを重視してる里の人としての模範解答みたいなタツヤが気に食わないんだろうさ」
成る程ね。里の人には馬鹿にされたって言ってたもんね。
詳しい事はわからないけど、里で色々嫌なことがあったんだろうな。
「こいつは本当に秘密を守れるのか?」
「失礼な!僕だって里の為でも、人の嫌がる事はしませんよ」
……もう今日は解散で良いんじゃないかな?
そんな風に考えていると突然、外に隕石が落ちてきたかの様な、大きな音と揺れが響き渡る。
何が起きたのかわからず私が驚いていると、テイラーが溜め息と共に答えてくれる。
「……不機嫌な来客が増えた様だ」
それはテイラーから聞かされていた、里の龍人が来た時の合図だった。