誤魔化しきれない
「単刀直入に言います。
テイラーさん、僕を弟子にしてください!」
「断る」
頭を下げて真摯にお願いするタツヤ君。
それを一蹴するテイラー。
うむ。これぞまさに弟子入りテンプレ百点満点。
テンション上がっちゃうね。
私は自分の事を誤魔化しきったので、もう完全に観戦モードである。
「何故です!服への愛情なら、師匠にだって負けません」
タツヤ君、見た目によらず熱い男らしい。
愛で物事を語るのって何かかっこいいよね。
「愛情云々で解決出来る問題じゃない。
それと師匠って呼ばないように」
現実の厳しさを教える為に突き放す師匠。
素晴らしい。実に素晴らしい展開だ。
退屈だし、ちょっと私も参加してみるとしよう。
「貴方がテイラー程の技術を習得出来ると、本気で思っているのですか?」
「習得できる様に努力を……いえ、必ず習得してみせます!」
おぉ、期待通りの返事してくれた!
ノリが良い。この子は逸材かもしれない。
「ちょっとちょっと、勝手に盛り上がらないで。
そういう問題でもないんだってば」
あれ?「修行に耐えれるだけの根性がお前にはあるのか!」って話じゃないの?
「ではどういう問題なんですか!」
「親御さんの許可が降りないだろう?」
あ、成る程。そのパターンね。
確かに研究者は変な人に与えられる役割って、クラウスも言っていた。
そんな所に弟子入りしたいなんて、家族に賛成されるとは思えない。
「それでも……
領域を出なきゃいけなくなるまで、もう時間が無いんです!」
そっか。それで親の反対を押しきってまで――って
「え、待って待って。領域を出られるの?」
あれ?ここって結界で外と隔てられてるんじゃないの!?
そういう話を割りと最近聞いたばかりなんですけど?
「そりゃ僕は竜人なので……」
何か不味い事を聞いてしまったかもしれない。
タツヤ君は怪訝な顔してるし、テイラーは頭を抱えてる。
なんかテイラーの反応がクラウスと似てるなぁ。
……研究者だからかな?
「ふむふむ……竜人?」
つい疑問に思った事が口から出ちゃう系乙女の明ちゃんです。
さっきは「聞いちゃ駄目かったかな?」って程度の認識だったけど、今回はわかります。聞いちゃ駄目な奴でした。
タツヤ君は完全に困惑してテイラーに答えを求めてるし、テイラーは頭を掻き毟り始める始末。
爪を立てると頭皮に良くないよ?
テイラーは一際大きな溜め息を吐き一言。
「……弟子にする。
だから、この事は他言無用だ」
――――――
「説明の前に、一旦お茶にしよう」
そう言ってテイラーが持ってきたのは、お茶漬けだった。
え、お茶ってそういう!?
これを「お茶する」と言い出した奴を問いただそうとすると、空間が裂けて『ゲート』が繋がる。
……原理を考えるなら「膜が広がり」と表現した方が良いのだろうけど、「空間が裂けて」の方がかっこいいのだ。
「……?
どうした、まだ試合中だったか?」
勿論クラウスのお迎えである。もうそんな時間か。
試合中って何の話だろうと考えて思い出した。
そう言えば今日、リバーシしに来ただけだった。
決着は、また後日に持ち越しだね。
「……どういう状況だ?」
クラウスの疑問も尤もだ。
状況に困惑してるクラウスの周りには、お茶漬けに困惑する私、全てに困惑してるタツヤ君、疲れが限界を超えたのか一人お茶漬けを掻き込むテイラー。
「もくあせふめいひほう」
「……飲み込んでから喋れよ」
しっかりと噛んでからお茶漬けを飲み込んだテイラーは、クラウスとタツヤ君のそれぞれに説明を始めた。
――――――
「成る程。俺が竜人の説明を後回しにしたせいで面倒な事になったと……」
頭を抱えるクラウス。
見慣れた光景だね。
「勇者世界からの巫女なんて、僕からしてみたらお伽噺より衝撃の展開なんですけど……」
タツヤ君の方は更に困惑してる。
そりゃあ私は、女神様も驚く様な存在だからね。仕方ないよ。
「タツヤ君、《事実は小説より奇なり》だからね」
「奇過ぎません?
僕はこれが現実ではなく小説だと言われても納得しますよ」
タツヤ君は面白い事を仰る。
「で、次は私に説明してほしいんだけど……」
現状、私への説明だけ後回しにされている。
竜人に結界、今日はわからない事だらけだ。
……今日もかな?
三人は顔を見合わせると、代表してタツヤ君が口を開く。
「竜人とは……
言わば龍になり損なった者です」