会わない方が良い
軽快に『ゲート』を潜り、慣れ親しんだクラウスの家に帰ってくる。
慣れ親しみ過ぎて、最早我が家と言っても過言ではない。
あと、もう『ゲート』に関しては考えない事にした。
あれは穴。分解も再構築もしてない。
「戦績はどうだった?」
「聞かないで……」
留守番をしていたクラウスの言葉が突き刺さる。
さて、私が一人で何処に行ってたかと言うと、テイラーの家である。
先日クラウスが将棋を貢いでいたので、初心者のテイラーに明ちゃん自ら手解きをしてあげに行ったのだ。
……結果は惨敗。まさかの全敗。
帰りは時間を決めておいて、クラウスが家から『ゲート』を出してくれると言う寸法だ。
なんか預かり保育みたい。
……やっぱそれは嫌だから、送迎車って例えよう。
「研究者って皆あんなに頭良いの?」
テイラーも里を追い出された研究者の一人である。
服が専門ならクラウス程は賢くないと思っていたのだが。
「全員が全員って訳でもないが……比較的その傾向はあるな」
天才も含めて〝変わり者〟って括りなのかな?
才能があるのに評価されないのは悲しい。
天才とはやはり孤独な生き物なのか。
明ちゃんは日本に友達居るから幸運なのかもしれない。
……そう言えば、クラウスには友達が居ないんだよね。
こんなに優しいんだし、切欠さえあれば友達は出来ると思う
今友達が居ない原因は、飛べない事を馬鹿にする里の人側にある訳だし、私が里の人に話をつけて謝ってもらう方向に出来れば……
「……ねぇ、里ってどっちにある」
私の質問にクラウスは少し不機嫌になる。
「それは念の為に教えないし、お前は会わない方が良いし、あいつらは謝らないし、俺は仮に謝られても仲良くするつもりはない」
……わーお。私の質問一つで全部お見通しだ。
「謝られても絶対に無理なの?」
「お前にとって謝罪がどれ程重要なのかはしらんが、里の奴等の謝罪なんぞに俺は全く価値を感じない」
取り付く島も無い。
クラウスにお友達大作戦編は始まる前から終了です。
「それに、お前は会わない方が良いんだ」
「会わない方が良い?」
私が面倒事を引き起こすから会わないでくれと言うのならわかる……いや、面倒事は引き起こさないけども。
だが会わない方が良いだと、私にとって不都合があるみたいな言い回しだ。
「もしかして、龍人って普通の人間を差別してたりする?」
まず思い当たるのはこれだろう。
悲しい事に、他人との些細な違いで見下したり蔑んだりする人は居る。龍になれるなんて大きな違いがあれば、そういった考えを持っててもおかしくない。
……と言うか、同じ龍人のクラウスへの扱いを考えたら、まずもって間違いないな。
「それも理由の一つだが、お前に限っては逆だ」
「逆?」
逆と言うと、敬われたり崇められたりするのだろうか。
普通の人間と明ちゃんの違い……美貌、頭脳、愛らしさ、他にも沢山思い付くが、人種差別を覆す程の要素と言われると謎だ。
「……龍が飛ぶ時は何魔法を使うか覚えてるか?」
そりゃ勿論、風魔法と――
「あ、空気魔法だ!」
この世界に来て一番大きく変わった所を忘れていたとは。
「空気魔法を扱えるのは、長の一族だけなんだ。
だから空気魔法使いなら人間だろうと、巫女として長との婚姻って話になるだろうな」
うげぇ……そういう望まない結婚展開は好きじゃない。
ましてや自分がとなれば大反対でしかない。
クラウスを差別してる様な相手と、私が結婚を望む可能性はゼロだ。
「……これでも里に行きたいなら止めないが――」
「普通の人間の場合、見下されるとして扱いどうなるの?」
「人間なんて前代未聞だからな……最悪監禁だな」
「末長くお世話になります」
私はクラウスに綺麗なお辞儀を披露する。
このまま此処で暮らしたい。
そもそもクラウスが望まない時点で、私が里の人に会う理由は無いし、結婚か監禁の可能性があるなら尚更だ。