私は一人じゃない
魔法の特訓を始めてから、約二週間が経った。
私が一人で練習してる間、クラウスはクラウスで色々している。
自室で研究成果を纏めたり、作業場で魔導具を試作してたり。
農家紛いの事もやってるから、本当に幅広い分野の知識があるんだなぁ。
今はキッチンでお菓子作りをしている様だ。
覗いてみれば、箆でボウルに入ってる何かを一生懸命かき混ぜてる。
この匂いは……チョコだ!
「ねぇねぇクラウス~」
「なんだ?」
かき混ぜていたボウルを置いて、私の居る方へ歩いていくクラウス。
畑にあったカカオから作ったのだろうか。だとしたら凄い。
私なんて、バレンタインに板チョコを溶かして固めるのが限界だ。
いや、ああいうのは手間暇よりも大事なのは愛情だからね。
「魔法について聞きたいことあるんだけどさ」
「ふ~ん。魔法についてねぇ……」
「そう。魔力を込めると脳から魔素に信号が送られるって言ってたけど、魔素の濃度とかによって信号の強さも変化するのか気になって……」
私がクラウスの気を引いてる間に、私はチョコの味見を――
「……其処だ!」
突然クラウスは後ろを向いて、持っているヘラに付着していたチョコを何もない空中に飛ばす。
そのチョコは透明な何かにぶつかり、滴る。
「痛っ!熱っ!」
クラウスに話しかけていた明は霧散し、おでこにチョコが付いた明が姿を現す。
「ちょっと!火傷したんだけど!」
おでこを蛇口からの冷水で洗いながら文句を言う私。
「知るか。お前が変に高度な悪戯を仕掛けるからだろ。
……今の魔法はなんだ?」
クラウスも行動には呆れているが、私の魔法の発想力には驚いて居る様だ。
それに嬉しくなった私は胸を張って答える。
「クラウスのアイデアから創り出した光を屈折させた幻だよ。
更に独自のアイデアで声の振動も曲げる事にも成功したの。
今回はその二つを合わせて幻が喋ってる様に見せかけたんだよ!」
光の方は『蜃気動』音の方は『この声よ届け』と名付けた。
姿と声の発生源を別の場所に置いたまま、私は別行動が出来る。
欠点としては、私の感覚は本体にあるので、触れられたりすると幻だとバレる。
それをわかっていたので、私の目が届く範囲に幻を置いて、物に触れない様に注意していたと言うのに。
何故バレたし。
「幻のクオリティは称賛に値するよ。まさか本体と別の動きまで出来るとは……
だが、本体の行動が杜撰だ」
私の行動が杜撰?
天才明ちゃんの完璧な作戦に穴があったと言うのか……
「まず、話しかける内容が大雑把過ぎる。
お前は普段話しかける時に態々「〇〇について聞きたい」なんて言わない」
うっ……なるだけ普段通りのつもりだったんだけど、出来てなかったか。
私より私をわかっているとは、クラウスもやるな。
「その時点で、目の前のお前が幻の類いだろうと見当をつけ、小声で『感知』を使った。
そこで、視覚聴覚が目の前のお前に無いのはわかった」
そんなことしてたのか……空間魔法はずるい。
クラウスの姿は確認してたけど、後ろ姿だったから口の動きまでは見えてなかった。
「それと、忍ぶ事に集中してたのかしらんが、お前の発言の知能指数が高すぎる。普通逆だろうに……
あのときは「難しい!」と文句を言ってた癖に、ちゃんと理解してるじゃないか」
「いや、理解はしてないけど覚えてはいたから、なんとなくそれっぽい事を適当に……」
「良い質問だと思ったのに、質問者が質問の意味を理解してないのか……」
数日ぶりに溜め息を吐くクラウス。
天才明ちゃんは、感覚で全てを理解する生き物なのだ。
「ちなみにその質問に答えると、魔素の濃度は、地下だろうが建物内だろうが体内だろうが、常に一定で物理的な干渉は一切――」
「簡単に。簡単にだってば!」
「基本的にどこでも同じ感覚で魔法を使える」
もう思考時間もなく簡単に纏めてくれる様になった。
私が言い直させるの最初からわかってたな?
「ちなみに、電気を通すと魔素を引き寄せるアダマンタイトいう金属なら――」
「わかった!その話はまた今度聞くから!」