細かすぎない?
「私の魔法をとくとご覧あれ!」
クラウスにそう宣言して、私は『フライ』での高速移動を始める。
低速の移動は、もう自由自在だ。逆さ向きにも動ける。
この森は最早ホームグラウンドみたいな物だ。
だからこそ高速でも大丈夫だと高をくくっていたのだが――
「ぐぎゃ!」
枝に引っ掛かり、ゴブリンみたいな鳴き声を上げる私。
美少女が出して良い声ではなかったが、クラウスしか聞いてないし良しとしよう。
……そう言えば、魔物的な生き物は見かけた事が無い。
この世界に居るのかな?今度聞いてみるとしよう。
葉っぱを払い落としながら、ゆっくり降りる。
「高速移動って頭が動きに付いていけないね」
「高速移動できる魔法適性がある奴は大抵身体魔法か視力魔法に適性があるもんなんだがな。
お前の場合慣れるしか――あ」
クラウスが話を中断して指を指す。
疑問に思い、その方向――私の脇腹を見てみると……
自慢のセーラー服が、思い切り裂けていた。
――――――
家に戻ると、取り敢えずクラウスに泣きつく。
「クラざえも~ん、魔導具出して~」
「誰がクラざえもんだ!
……と言うか、それ本当に誰だ!?」
しまった。迂闊に日本ネタを入れると、また根掘り葉掘り聞かれる。
また長時間尋問されるのは嫌なので、慌てて話題を逸らす。
「ほら!クラウスなら何か服を直せる様な魔導具くらい持ってるでしょ?」
「流石に服を直す様な物は無いな。
普通の裁縫セットならあるが……」
いや、普通の裁縫セットはあるんかい!
……ん?普通の裁縫セットならあってもおかしくないのか?
わからない!文化レベルがわからない!
「お前もしかして、その服一着しかないのか?」
「え?そりゃそうだよ。
クラウスもそうでしょ?」
似合わない作業着に、合わせる気のない白衣を羽織っている。
クラウスの見馴れたファッションである。
私の指摘に、クラウスは憤慨する。
「違ぇよ!同じ服が何着もあるんだよ!
家があって、畑があって、魔導具があって、それでいて服が無いなんて異常者がこの世に居て堪るか!」
「いや、そのダサい服を好んで揃えてる方が異常者でしょ!」
「だ、ダサい!?……ダサい……」
あれ?これ本気でカッコいいと思ってたタイプか?
あれで?……いや、ないない。
「……機能美を優先しているのは確かだが、そこまで壊滅的なセンスと言う訳でも――」
「いや、壊滅的。
一万年経とうが、そのセンスが評価される事は無い」
トレンドの最先端とまではいかなくとも、一端の女子高生である明の容赦ない口撃が、クラウスに深く突き刺さる。
「クラウスのセンスの話はどうでも良いんだけど、クラウス裁縫出来るの?
出来るなら直してほしいんだけど」
「まず俺のメンタルを直してほしい所ではあるが……
残念ながら得意な方ではない。」
クラウスは自分のメンタルも私のセーラー服も直せない様だ。
私も少しなら出来るが、横のファスナーの部分まで壊れてるのは手に負えない。
「服ならあいつに頼むのが一番だが……」
お!どうやら頼りになる人がいるらしい。
クラウスには一人も友達が居ないと思ってたから少し意外だ。
「誰?里の人?」
「いや、あいつも研究者で、里を出てる。
変わり者同士だからこそ、ある程度接しやすいんだ。
服が好きな奴で、繊維魔法と並外れた裁縫の技術を持っている」
きっとその人ならセーラー服も直してくれそうだし、もしかしたら新しい服も手に入れる事が出来るかもしれない。
……が、それよりも気になる事がある。
「繊維魔法って何?」
「どんな素材からでも瞬く間に繊維を作り出せる魔法だ」
魔法の分類細かすぎないか?
もし空気魔法ではなく繊維魔法しか適性無かったら、天才明ちゃんと言えども流石に詰んでただろう。
「風魔法とか熱魔法の話してる時も思ったけど、出来る事が被ってる魔法が結構あるよね。
出来る事限られてる方が劣ってるって事?」
「いや、一概にそうとは言えない。
能力の限られた魔法は、その分必要な魔力が少ないんだ。
だから空気魔法使いが5年修行しなきゃいけない事も、風魔法使いなら3年で出来たりする」
成る程。
自由度が高いと自分で考える事も多くて大変ってことかな。
「ほえー。魔法も奥が深いんだね。」
感心した私に、クラウスは苦笑いをして答える
「まぁ十分な修行を行える時間や才能があれば話は別だがな。
一般的には出来る事が多い魔法の方が優秀だとされるさ」
なんでい、結局才能かい。
天才でない人達の事を思うと可哀想で涙ちょちょぎれるぜ。
次回は遂に新キャラです。