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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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出来る事はこれ以上ない

 ―――クラウス視点―――



 首に髪の毛を巻き付けられたアカリは苦しそうに呻いている。自力での脱出は難しいだろう。


「人質を取って勝ったつもりか?

 まさか、アカリを殺されたくなきゃ首を差し出せ、なんて言わないよな?」


 強気に問い掛けるが状況は悪い。

 自棄になられたらアカリを守りきれる保証はない。

 ()()にここの地形は把握してるから奇襲は可能だが、通用するとしても一回きり。

 そこで仕留め損なったら、それこそ最悪だ。


「いやなに、只の取り引きの提案だ」


「取り引き?」


(アカリ)を傷つけない代わりに、私を見逃せ」


「おいおい。それを信じろってのは――」


 一見、破れかぶれの無茶苦茶な提案だが、俺には思い当たる節があった。


「――お前、契約魔法使いか?」


「察しが良くて助かるな」


 契約魔法は自身で課した言葉の枷を意図的に破る事は出来ない。

 だから、この提案は平等な条件に()()()()


「受け入れるのなら、剣を置いて此方に来い。

 怪しい行動はとるなよ?妹を殺して私も捕まると言う未来が最も不毛だ」


 契約魔法は互いの魔力を流し合う関係上、触れ合わなければならない。

 自然な流れで徐々に不利に追い込まれている。


 だが、逆に最悪から遠のいているのも事実だ。

 今、奴が突然全てを捨ててアカリを殺す可能性は限りなくゼロに近い。


 二振りの刀を慎重に地面に置いた俺は、セバスチャンの手に手を合わせ契約魔法に身を任せる。


『我らが交わすは命の契り――』


「アカリが意識を失い次第、アカリを解放する」


「アカリが解放されるまで、それとセバスチャンが大人しくアカリを解放した後は、セバスチャンの不利益になる事をしない」


 不利益と大雑把に括ったが、契約魔法は自分の意識の問題。

 どれだけ言い訳をしようと自分の意識に嘘は付けないから、抽象的な条件は寧ろ俺の首を締める。


 だから、セバスチャンは必ずこの条件を飲む。


『――契約は成った。破らんとする者には死を――コントラクト!』


 触れた掌に微弱な痛みが走る。言葉の枷が刻まれた証だ。


「さて、後はアカリの意識を奪うだけだが、このまま首を締め上げていたら殺してしまうな。

 麻酔薬を使わせてもらおう」


 そう言って俺から距離を取ったセバスチャンは自分のポケットに手を突っ込もうとするが、すかさず俺は注射器を投げつける。


「麻酔薬だ。それを使え」


 契約魔法は自分の言葉が枷になる()()だ。

 セバスチャンの条件はアカリを解放する事に関してだけ。危害を加える可能性が無くなった訳じゃない。

 毒薬なんかを使われない様に先手を打つ必要があった。


 だが、これだけしてもアカリの安全を確保できた()()

 そして、俺に出来る事はこれ以上ない。



 ―――明視点―――



 不味い。完全に油断してた。

 あっさり捕まってクラウスの足を引っ張ってる。

 クラウスのおかげで私は助かりそうだけど、このままじゃセバスチャンに逃げられる。

 私がなんとかしなきゃ、こんな危険人物を野放しにする事になっちゃう。


(何か……何か……)


 苦しくて頭がぼんやりしてきた。


(……ダメだダメだ!それでも考えろ私!)


 何か一手で引っくり返す手段は……

 何かビビっと来る様な最高の閃きは……


(ん?……ビビっと?)



『外したか……やはり、この時期は湿気で感覚が狂うな』



 セバスチャンのその言葉を思い出した私は、なけなしの魔力を振り絞って魔法を放つ。



『帯電!』


「っ!」


 私を締め上げていた髪の毛の力が突然抜け、私は尻餅を着く。

 湿気に影響される髪の毛の魔法なら、()()()を纏わせる私の魔法で乱せるという読みが当たった。


 だが、魔力も体力も完全に使いきってしまった。


(……それでも、逃がさない)


 必死にセバスチャンにしがみつくが、私の力じゃ長くは持たない。

 それでも、私に出来る事はこれ以上ない。



 ―――セバスチャン視点―――



 完全に油断していた。

 大した力もない小娘に、私の髪魔法の弱点を突かれるとは思わなかった。


(こうなればアカリに大怪我を負わせて、(クラウス)の意識をそちらに向けさせる!)


 殺して永久に恨まれるよりも、今後関わりたくないと思わせるのが最良。

 クラウスも間合いの外に居るから問題ない。

 そう判断した私は、アカリの脚を目掛け剣を突く。


 だが――



『ゲート』



 ――突き刺したのは間合いの外に居た筈のクラウスの左腕。


「冷刀オオデンタ!」


 そして、クラウスの振るった魔導具の剣によって、首から下を氷漬けにされて身動きが取れなくなる。


「アカリ、怪我は無いか?」


「いや、全く無いけど腕!

 私よりクラウスの腕!その、めっちゃ刺さってる腕!」


「ああ、これなら平気だ。

 突き刺さってる剣が出血も抑えてるから問題ない」


「ありまくりでしょ!

 見てたら気分悪くなってきた、おえぇ……」


 アカリがえずいてるのは気にせず、私はクラウスに話しかける。


「珍しいな、転移系の魔法使いか。此処に駆けつけるのがやけに早かったのもそれか」


「髪の毛操る奴より珍しくはないだろ」


「だが、わからないな。

 アカリを解放するまで、お前は私の不利益になる行動は取れない筈だ。

 アカリを守る所まではわかるが、私を捕まえる事は言葉の枷に抵触する」


 私の指摘に、クラウスはニヤリと笑って種明かしをする。


「端から前提が間違ってんだよ。

 俺は解放()()()()じゃなく、解放()()()()()って言ったんだ。

 お前が能動的に行動するかどうかは関係ないんだよ」


 契約魔法で散々人を騙してきた私が、まさか騙される側に回るとは思わなかった。


「あ、やべ。つい喋りすぎた。

 これじゃアカリにとやかく言えねぇな……」


「いや、だからそんな事より腕!」


 この反省は()に活かすとするか。



 ピューー!



 私が鳴らした口笛に、二人が驚いて振り返る。


「……お前、何をした?」


「なに、只の合図だ。援軍を此処に呼ぶためのな」


「「なっ!?」」


「満身創痍のお前達では万に一つも勝ち目はない。

 大人しく逃げる事を薦めるぞ?」


「ど、どうするクラウス!?」


「いや、ハッタリかもしれない。

 ギリギリまで様子を見て、本当なら逃げるぞ」


 好きに疑うが良い。

 お前達に残された道は一つなのだから……










「……何も来ないね」


「マジでハッタリだったのかよ……」


 暫く待っても援軍が来る気配は全くない。

 これは異常な事態だ。


「ハッタリではない!

 私の口笛で、この森に放っておいた魔物が来る筈なんだ!」


 私の言葉を聞いたクラウスが気まずそうな顔をして聞いてくる。


「……その魔物って4匹くらいのチーター系だったりするか?」


 的確に言い当てられ驚愕する私に、クラウスが頬を掻きながら告げる。



「それ、もう昼間に倒しちまった」



 だとすれば、もう私に出来る事はこれ以上ない。


 私の完敗だった。

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