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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
133/134

のばさないと

あかりの日にすら間に合いませんでしたが更新です。

「ほんとになんなんだ!」


 何なんだとは失礼な。二人分のプリティを詰め込んで名乗ってあげたと言うのに……いや、そう言えば名乗ってはいないか。


「天才美少女、プリティあかり!」


「くっ、王女の小間使いか」


 決めポーズもセットだったのだが、華麗にスルーされてしまった。

 もう少し反応して欲しかったが仕方ない。


 咄嗟に飛び出してきてしまったが、とにかく状況を整理しよう。

 目の前には領兵が二人。倒れてる女の人――ウインディって名前だったかな?――で、もう一人はそのウインディの首を切り落とそうとしてた男の人。名前はセバスチャン、男爵夫人と一緒に居た人。騎士なのに執事みたいな名前してたから記憶に残ってる。

 考えるまでもなくセバスチャンが悪者だね。


「王女の小間使いが何故ここに居るのかは知らないが、見られたからには口封じをさせてもらおう」


 もう自白レベルの発言をしてくれたセバスチャンは、切っ先を此方に向ける。

 正直かなり怖いが、私が逃げれば倒れてるウインディが狙われる。ここは堂々と立ち向かわなければ――お嬢様ロール(演技)で!


「あら、無駄な事を。

 貴方のへなちょこ剣技なんて私の魔法で幾らでも防げますわ」


 幾らでもは言い過ぎた。さっき防いだ時の手応えからして……あと二、三回くらいかな。

 飴で魔力も多少は回復したけど、へろへろな今の私じゃ数分も保たずにやられる。


(だから、今はとにかく戦いは無駄な強者って事にして時間を――)


「幾らでも防げるか……なら試してみるか?」


(――って、あれぇ!?やる気満々なんですけど!?)


 もう駄目だ、これは。セバスチャンは剣を構えだしちゃったし、明ちゃんの出番は終了です。

 お疲れ様でした。


「いや、もう大丈夫です!私は試さないので!」



 ―――セバスチャン視点―――


「幾らでも防げるか……なら試してみるか?」


 なめられたものだ。実際フォースホースを退けたアカリの魔法は厄介だ。だが、奴の顔には汗が滲んでいる。

 必死に虚勢を張っているのが丸わかりだ。

 恐らく、ウインディを守るのに使った魔法は何度も使えるものではないのだろう。


「いや、もう大丈夫です!私()試さないので!」


 現に、少し挑発すれば奴は直ぐに及び腰になった。


(邪魔が入った事には少し焦ったが、大した事は無かったな)


 アカリに詰め寄り構えた剣を振り下ろそうとした時、アカリの言葉にあった微かな違和感に気が付く。



(ん?……私()?)



 咄嗟に振り返り、剣を振り下ろす。


「――ちっ、気付かれたか!」


 そこに居たのは白衣の男――アカリの兄だ。

 勘だけで振り下ろした剣は流石に当たらなかったが、牽制にはなった様で互いに距離を取って構え直す。


(はな)から妹は囮か」


「突っ走って勝手に囮やり始めたんだよ。合わせるしかねぇだろ」


 この男、つなぎに白衣と言うふざけた格好だが、先程の動きを見るにかなり強い。

 近接戦闘の実力()()()言えば恐らく互角。時間に追われてる今は最も相手にしたくないタイプだ。


(時間内に全員の口封じをするのは現実的ではない。仮に可能だとしても王女の関係者を二人も殺すのは不味いか……これは、ソプラ夫人を無罪にするのは不可能だな)


 私は深く息を吐き、構えた剣を力無く下ろして告げる。



「降参だ」



 ――クラウス視点――


 奇襲こそ失敗したが、俺と反対側の位置――奴の背中側にはアカリが居る。これで奴は俺と戦う選択肢しかなくなった。

 仮に逃げたりアカリを狙おうとすれば俺に背中を見せる事になり、その隙を逃す程俺は甘くない。

 普通に戦えば力が拮抗し面倒な相手だが、此方は戦いを引き延ばせば『ゲート』で先に来た俺達に王女の増援も追い付く。

 圧倒的に有利だ。そして相手もそれを分かっている。


「降参だ」


「何?」


 不利な事を理解しているとはいえ、あまりに潔すぎる。

 俺が訝しむと、剣を下ろしたセバスチャンは語り始める。


「夫人の罪はもう誤魔化しきれないからな。

 だからもう大人しく捕ま――()


 セバスチャンの雰囲気が突然変わり、奴の()が急速に伸びて襲いかかってくる。


「魔法だと!?」


 真っ直ぐ此方に伸びてきた髪を、体を捻る事で躱す。

 癖毛の様なうねりで僅かに軌道が逸れた事に助けられた。


「外したか……やはり、この時期は湿気で感覚が狂うな」


 油断はしていないつもりだった。少なくとも不意打ち自体は常に警戒していた。

 だが、どこかで勝手に思い込んでいた。近接戦闘主体の奴は魔法を使ってこないと……使えたとしても悠長な詠唱をしてくると……


(俺は馬鹿か!無詠唱なんて()()()()()()だろうが!)


 無詠唱で魔法を()()()奴はほとんど居ない。だから、一介の貴族の――それも夫人程度の手下にそれだけの実力者は居ないだろうと、無詠唱の可能性は切り捨てていた。

 だが、()()()()魔法――つまりは戦士や剣士が無意識に使う様な()()()()()に使う魔法ならば誰だって無詠唱で使えるのは当然だ。

 今だって、奴の攻撃を避けるのに俺も身体魔法を使った。


「身体魔法系の遠距離攻撃。威力こそ弱いが、奇襲には適しているだろう?」


「だが、一度きりの手品だ。タネが割れた今、お前の勝ち目は結局無い」


 俺の指摘に対しても、セバスチャンは笑いながら答える。


「ああ、一度きりだ。だから失敗()()()どうすべきかと考えていた」


 俺への攻撃を外したにも関わらず、失敗していないと言う。


「私の髪は()()()()に同時に伸ばす事が出来るからな」


 そんなセバスチャンの後ろから現れたのは――


「ごめん……クラウス……」


 首に髪を巻き付けられ、苦しげなアカリだった。

・体毛魔法

主にウールウルフ等の魔物が使う、やや珍しい身体系の魔法

自由に伸ばせるので髪型は変え放題だが、伸ばすだけでなく操るとなると相当な修練が必要になる。

体毛魔法を戦闘用に鍛えるよりも、他の戦闘向きの魔法を使えば良いとなるので使い手は少ない。

体毛を伸ばす以外に生やさない事も可能なので、やけに無駄毛が少ない人が居たら、それは体毛魔法使いかもしれない。

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