その条件なら仕方ない
ロキまでに投稿しようと思ってたのに、ブラックウィドウ前日になってしまった……
―――クラウス視点―――
「黒幕が誰か。
そんな事は条件を整理すれば直ぐに分かる事です」
「条件?」
広間の誰かから挙がった声に、メロディは指を掲げて数え始める。
「1つ、バリトン商会と言う大店からの充分な信頼がある事。
2つ、関わらせた領兵が領主へ密告する危険性を無視出来る事。
そして3つ、領兵が拘束している犯罪者を駒として使える権力を持っている事。
これだけの条件を達さなければ、今回の犯罪は不可能でした。
そして、その条件を満たす人物は――」
皆が息を飲んで待つメロディの言葉を、場違いな明るい声がを遮る。
「はいはい!4つ!
街の子供達と頻繁に会って、ターゲットの目星を付けられた人物……それは貴方だ!」
そう高らかに宣言するのは、当然アカリだ。
明らかにメロディの役目だった台詞を掻っ攫い、自信満々に犯人に指を突きつける。
やや不満そうなメロディと共に告げたその名前は――
「「セイヴィア男爵夫人――ソプラ=セイヴィア!」」
「なっ……」
唖然とする男爵に対し、当の夫人はピクリと眉が動いただけだ。メロディとアカリが条件を挙げている段階で、自分の名前が呼ばれるのはわかっていたのだろう。
「さて夫人、何か申し開きは有りますか?
いずれにせよ、暫く拘束させて頂く事にはなりますが」
「待ってくれ!状況証拠だけで拘束なんて――」
「状況証拠でも充分な数が揃えば王族権限での拘束は可能です」
「しかし!」
淡々と説明するクロウに対し男爵は必死に弁明するが、当の本人は黙ったままだ。
(一見すると仕方ないと諦めた様だが、それにしては表情が――)
「ソプラ!君もどうして黙ってるんだ!
君はこんな事を企む人間じゃないと、きちんと伝えなければ――」
すると、夫人は遂に口を開く。
その表情は変えぬまま。
「必要ありませんわ」
「え?」
「何故なら――」
微笑んだままで。
「――私が関わってない事は、すぐに証明されますから」
―――???視点―――
「――手順は以上だ。何か質問はあるか?」
セイヴィアの街から少し離れた森の奥。
私の言葉に、男は必死な形相で聞いてくる。
「この誘拐さえ成功させれば、本当に我がスタッカート村を最優先で支援してくれるんだな?」
「当然だ。信じられないと言うならば契約魔法を使ってやろう」
スタッカート村の村長である男の前に手を差し出し、握手を求める。
当然、友好の証などではなく契約魔法を行う為の手順だ。
しかし、村長は警戒して手を握ろうとはしない。
「待て、契約魔法と言うのは意図して破れば死が待っているんだろう?
私に求める条件はなんだ?」
死の危険性を前にして、村長も少し冷静になった様だ。
条件の確認は契約において最も重要な事だからな。
「お前に求める条件は、もし現行犯で捕まった時は、この街で起きた全ての誘拐を自分が企んだと供述する事だけだ」
「……そ、それだけで良いのか?」
村長からすれば破格の条件だろう。誘拐に成功さえすれば、デメリットはほとんど無いのだから。
そして村長は遂に私の手を握った。
(哀れなものだな。
村が貧困に喘ぐ原因となった盗賊が、誰の指示で集まったかも知らないで)
握られた手に魔力を流し、魔法の詠唱を開始する。
『我らが交わすは命の契り――』
「誘拐が成功した際には、スタッカート村の支援を最優先に行うものとする」
私の言葉に村長も続く。
「私が現行犯で捕まった際には、この街の全ての誘拐の罪を私が背負うものとする」
『――契約は成った。破らんとする者には死を――コントラクト!』
手に込められた魔力が互いの全身を駆け巡り、契約魔法は確かに発動された。
これで村長が捕まれば真の誘拐犯となり、夫人を拘束する理由は消え去る。
(それでも王女からの疑いは晴らしきれないだろうが、奴がこの街に長居できない事はわかっている。
奴さえ居なくなれば、後は幾らでも誤魔化し様はある)
思考も一段落したところで、契約魔法の反動で呆けている村長に発破をかける。
「……何をしている。さっさと誘拐を済ませてこい」
「あ、ああ!」
素性もわからない男に縋るしかなかった村長は、私が領兵で誘拐犯として捕まえる為に誘拐を依頼したとは露程も考えていないだろう。
誘拐に成功すれば私が捕まえ、失敗すればそこらの領兵か衛兵に捕まる。どちらにしても現行犯なので、契約魔法によって村長は一生真実を話す事は出来ない。
夫人の軽率な行動の尻拭いを、ここまで有効活用した自分に賛辞を送りたいくらいだ。
(尤も、暫く目立った行動は出来なくなる為、痛手である事に変わりはないが――)
パキ…
後ろから聞こえた枝を踏んだ微かな音。
人気の無い場所である事に胡座をかいて油断していた。
気付いてみれば余りにも分かりやすい気配に、振り返る事なく話しかける。
「尾行とは、直情的なお前にしては珍しいな」
私が問いかけた事で、隠れていた人物は茂みから姿を現し答える。
「生憎、今日はその直情的な行動で失敗したばかりだからな。
珍しく我も反省したのだ!」
(この特徴的な一人称……やはり間違いない。領兵の中でも一番厄介な奴に見つかったものだ)
一部始終を見られていたのは間違いないだろう。
始末するしかないと殺気を出した私に応じて、その女は愛剣を掲げ私に名乗りをあげる。
「我が名は、疾風のウインディ!
――覚悟しろ、セバスチャン!」
間が空きすぎてキャラ名を忘れた方は107話と115話辺りを読むと良いと思います。
次回、シャンチーの公開日までには。