飛べない龍
メインの二人が空気魔法と空間魔法ってややこしいですね。
確認はしてますが、いつか間違えそうです。
「飛べない龍……」
私はただクラウスの言葉を反芻することしか出来ない。
龍人なる種族を知ったばかりなのだ。その言葉の真の重みは正直理解できない。
だが、ただ一人のと態々言っているのだから、余程異端で異常なのだろう。
そんな私の顔を見ると、クラウスは少しずつ言葉を紡いでいく。
「人類は皆、五歳になると『鑑定』といって、天から魔法の適性が伝えられるんだ」
天から伝えられるという感覚がイマイチわからないが、恐らく「あなたの脳内に、直接!語りかけています……」みたいなものだろう。
「勇者世界のことは知らないが、この世界での魔法適性は血である程度決まっている。
だから今まで龍人が風魔法も空気魔法も適性が無いなんて事はなかったんだ
それはもう馬鹿にされたさ。それまで友人だった奴や両親や姉にまでな。
でも一人だけは違った。それが先代の爺さんだ。
それから先代のお爺さんが研究所をしていたこの場所に住むようになり、亡くなってからは仕事を継いだのだという。
先代のお爺さんとの思い出話をしている時だけはいつも通りだったが、やはりこの話をしている間のクラウスの表情は暗い。
私は拳を握りしめ、決意を込めてクラウスに話しかけ――ようとした所を遮られる。
「馬鹿にしてきた奴らを、どうこうしようなんて考えるなよ」
クラウスの言葉に私は少し驚く。
まーた読心術だ。
……だがしかし!
今回の明ちゃんの考えは少し違うのだよ!
まだまだ甘いなクラウス。明ちゃん検定一級は遠いぞ!
私はニヤリと笑うと、こう宣言した。
「飛べないのなら、飛べば良いじゃない!」
「は?」
――――――
「マジで言ってる意味がわからないんだが……」
戸惑っているクラウスを、家からある程度離れたところまで連れてくる。
「いいからいいから。天才美少女明ちゃんに任せない」
「一応念の為に言っておくが……お前の空気魔法で飛ばせてやるって話ならお断りだぞ」
あら?流石は賢いクラウス君。
すぐさまその答えに辿り着くとは。
「おい、その顔マジで図星なのかよ。
呆れた。今日は帰って寝る。夕飯は冷蔵庫の物勝手に食え」
帰ろうとするクラウスを慌てて引き留める。
「待って待って!微妙に勘違いしてるし、今日はハンバーグが食べたい気分です」
「この状況で夕飯をリクエストする図太さだけは認めてやる。
……で、何が勘違いなんだ?」
「私の空気魔法を使うのは間違い無いけど、私が飛ばすんじゃなくて、クラウスが飛ぶの!」
「お前の説明が下手すぎる……少なくとも『サイコ』みたいな魔法じゃないって事だな?」
明ちゃんの天才的な発想を人に理解してもらうのは難しい様だ。
こうなったら実際にやってみせるのが早いな。
「取り敢えず、龍になって翼を羽ばたかせ続けて」
クラウスは渋々だが従ってくれた。
私はそれをじっくりと観察する。
「こうか?言ったと思うが、龍の翼なんて見た目だけだぞ。
こうやって動かしたって自重を支えられる訳じゃない」
「でも、別に自重さえ支えられれば飛べるんだよね?」
「だから、それが無理だって――お前まさか!」
明が何が言いたいのかわからずイライラしていたクラウスだったが、ある答えにたどり着き、思わず明を凝視する
おや?最後の最後で気付いてしまったか。
せっかく驚かせ返せると思ったのに。
だが良いだろう。それでも十分に驚かせることが出来たみたいだ。
「誰が翼で飛べないと決めたのか!
自重を支えられないなら、支えてしまえば良いじゃない!
それでは御覧下さい!
明ちゃんプレゼンツの画期的飛行用空気魔法――」
『義翼!』
私の宣言と共に、大きくて薄く圧縮した空気の塊がクラウスの翼を包み込む。
それは翼の動きと連動して、大きな風を巻き起こし、そして――
クラウスの体が宙に浮かび上がる。
「飛んでる……」
クラウスの言葉はそれだけだったが、そこに全ての感情が詰まっていた。
それに満足した私は、クラウスの背中に飛び乗る
空気魔法で体を固定して、風避けも作る。こちらは『ドラゴンライダー』と言ったところか。
「じゃあ、快適な空の旅を楽しもう!」
日が暮れてクタクタになるまで私達は飛び回った。
その日の夕飯は、今までで一番美味しいハンバーグだった。