推理に穴はない
お待たせしました。
「いったい何なのですか!着いてこなければ私を拘束するなどと。
幾ら衛兵とは言え横暴です!責任者はそれを理解しているのですか?」
そんな文句を連ねながらホールへと足を踏み入れたソプラ領主夫人を待っていたのは――
「当然理解してますわ。どうぞお掛けになって下さい、男爵夫人」
「だ、第二王女殿下……」
優雅な仕草で出迎えたメロディだ。
そりゃまあ驚愕だろう。店長を呼んだら本社の社長が出てきた感じだ。
「とにかく座ろう。これは正式な捜査らしいからね。
従うのが貴族の責務だよ」
「あなた……」
ノール男爵も居るとわかったソプラ様は落ち着いて用意された椅子に腰かける。
私やクラウスやクロウ、他にも領兵や衛兵が沢山居るのだが眼中にはない様だ。
それにしても、館にやってきて関係者全員を集める。これは、ドラマやアニメでよく見る――
「……推理ショー?」
架空の存在だと思っていたのだけれど、どうやらここでは違う様だ。
「口封じの危険性を考えて、犯人を暴く時は盛大に。当然よ」
それっぽい理由な気がしないでもないが、何代目かの勇者辺りが推理ショーやりたくて理由をこじつけた香りがする。
「一理ある……のか?」
クラウスも戸惑っておる。
きっとこんな感じで、みんな納得させられたんだろうな。
まぁ、私としては推理ショーなんてテンションの上がるものを逃す手はないので、こじつけでもなんでも良いのだけれど。
「さて、それでは関係者も粗方集まった所で推理ショーを始めましょう」
メロディが宣言し、ざわついていた人達も静かになる。
するとノール男爵が口を開く。
「あの、王女殿下。そもそも何の事件の犯人を暴くのですか?」
「あら勿論、例の誘拐事件の首謀者と誘拐の実行犯よ」
メロディの言葉に再びざわめきが広がる。
この場に居るのは私達を除けば貴族と領兵と衛兵のみ。平和な街で起こった大事件の首謀者が、平和を守る筈の人の中に居るとあっては驚くのも無理はない。
只、それとは別に私も驚く点がある。
「あれ?実行犯ってバリトン商会の人じゃないの?」
だって商会に監禁されていて、商会の傭兵達が見張ってたのだ。
その中の誰かが拐ったと思うだろう。
「アカリ、実行犯は冒険者の格好をしていた。間違いないわね?」
質問に質問で返してくるメロディ。
その意図はわからないが、取り敢えず合ってるので頷いておく。
「まず、この冒険者の格好と言うのは、大きな麻袋を持っていても通行人にも何も知らない従業員にも怪しまれずに堂々と商会に出入りする為。
けれど、フードを深く被っていても顔を見られる危険性があるのに変わりはない」
「成る程。同僚が冒険者の格好なんてしていたら、とんでもなく怪しいって訳か」
「そうよ。同じ理由で誘拐事件より前から雇ってる傭兵もシロ。
そして、本物の冒険者達の潔白もクロウが調べてくれてるわ」
「私はメロディ様の指示通り動いていただけですよ」
私を置いてドンドンと会話が進んでいくが、まぁとにかく外部の人の犯行って事とクロウさんが頑張ってた事はわかったからよし!
「それでそれで!犯人は誰なの?」
「そう慌てるんじゃないわ。説明には順序が必要なの。
……まずは証人を此処へ!」
メロディの合図と共に二人の人物が部屋に入ってくる。
「アカリお姉ちゃん!」
そう言って飛び込んでくる可愛いケモミミ少女のユウカちゃんと――
「もう本当に何がどうなってるんだよ……」
戸惑っている大男のマグマだ。
てっきり安全の為に家に帰ったものと思っていたが、ここに居たとは。
けど、ここで誘拐事件が解決さえしてしまえば多少遅くなっても安全だろう。
「……あれ?この二人が証人なの?」
ユウカとゃんとマグマは今日はほとんど私と共に行動していた。
それはつまり、私以上の情報を持っているとは考えにくいと言う事だ。
「ええ。この二人は、犯人を指し示す重大な証拠品に大きく関わっているの」
「じゅ、重大な証拠品……」
その響きに、私だけでなく多くの人の緊張感が高まる。
「その証拠とは――」
続くメロディの言葉を、皆が固唾を飲んで見守る。
「ドーナツよ!」
高まっていた緊張感が、穴の空いた風船の様に急速に萎んでいった。