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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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気付くのが間に合わない

 檻を力強く握りしめていると、トントンと肩を叩かれる。


「落ち着け。怯えさせてどうする」


 クラウスにそう言われて、慌てて檻から手を離し笑顔を作る。

 だが、あれだけ怒りを(あらわ)にした後で、今さら表情を取り繕っても一層警戒されるだけだった。しょんぼり。


「それより、これを見てみろ」


「……樽?」


 クラウスが指差すのは並べられた四つの普通の樽。

 態々こんな所に置いてあるって事は、この樽の中に子供達を詰めて運ぼうとしてるのだろう。だが、そんな事をしたら直ぐに検問に見つかるだけだ。

 ここまで色々と偽装工作をしてきた犯人にしては単純すぎる。


 私が首を傾げていると、クラウスが樽を傾けて中を見せてくれる。

 そこには樽の高さよりも明らかに浅い底面が見える。


「二重底だ。樽の下側に子供を隠し上側に通常の積み荷を入れる事で、樽の蓋を開けて調べる検問を抜けようとしてるんだろう」


 今は空だから浅い事がハッキリと分かるが、中身を入れたら確かにそれも分からなそうだ。


「偽装用の積み荷は……香辛料や香草と言った所か。

 それならば臭いで子供を発見される心配も無く――」


「嗅覚の強い獣人の子供達は、気を失って声を上げる事も出来ない……」


「しかも樽はご丁寧に重量魔法の魔導具と来たもんだ。

 どんな側面からもバレない様に計算され尽くしてる。

 領主が検問を始めたのは事件の後だってのに、よくここまで対策を立てたもんだ」


 誘拐犯の悪知恵に舌を巻くクラウス。

 検問があるから直ぐに外に逃げられる事はないと心の何処かで思っていたが、まさかこんなに完璧だったとは。

 まだ連れ出される前に、ここに辿り着けて本当に良かった。


 急いで連れ出す為にも、至急子供達の警戒心を解かなければいけない。

 深く息を吸い込んで覚悟を決めた私は、久し振りにお姉さんを演じる(ロールプレイを行う)



「み~んなー!こーんにーちはー!」



 そう。お姉さんはお姉さんでも、()()お姉さんだ。


「「「…………」」」


「あれれ~?聞こえないぞ~?

 もう一回元気よく、こーんにーちはー!」


「「「……こ、こんにちは」」」


「いや、せめて『こんばんは』だろ」


 せっかく返事が聞こえてきた所なので、クラウスのツッコミはスルーである。


「皆はお家に帰りたいですかー?」


「「「…………は、はい」」」


「温かいご飯が食べたいですかー?」


「「「はい……」」」


 う~む……返事はしてくれる様になったが、三人とも今にも泣きそうな顔で俯きだしてしまった。

 希望を持ってもらおうと思ったのに、これではまるで絶望してるみたいだ。


 何がいけなかったか考えていると、クラウスが口を開く。


「なぁ、今の気味が悪いサイコパスごっこは何だ?」


「気味が悪いサイコパスとは失礼な!何処からどう聞いても歌の――あっ!」


 そこで漸く気付く。この世界に子供向けテレビ番組なんて通じない事を。


「しまったー!昔から子供相手の時は鉄板ネタだったから通じないなんて考えもしなかった!

 ……え、じゃあ何?周りには今の私は、突然大声で会話を強制してくる何故か笑ってる不気味な人だったって事?

 子供達に『帰りたいよね?食べたいよね?でも駄目で~す!』とか言いだしそうな極悪非道キャラに見えてたって事?」


 慌てて捲し立てた私の言葉に、クラウスは苦笑いしながら頷く。


(やっちゃったー!)


 頭を抱えて(うずくま)るが、今はそんな事をしてる場合じゃない。


「クラウス!出して!ご飯!温かいの!」


 とにかく味方である事だけでも理解してもらわなきゃいけない。

 私がお願いすると、クラウスはマジックバッグから温かいスープを出してくれる。

 そのカップを檻の隙間から……は入らないな。


「クラウスお願い」


 クラウスは私が呼んだだけで、溶刀ムラマサで南京錠を壊してくれた。

 以心伝心。流石は相方だ。


「どうぞ」


 檻の入り口でカップを差し出して待つ。

 下手に近付いてこれ以上怯えさせたら可哀想だ。


 すると、流石に私の行動から誘拐犯の仲間には見えなかったのだろう。

 ゆっくりと此方に近付いてきてくれた。


「……お姉さん達は悪い人じゃないの?」


「そうだよ。君達を助けに来たの」


 私がそう答えると、子供達は安心するどころか顔を見合わせて慌てだす。


「なら、逃げて!今すぐに!」


「大丈夫。お姉さん達はちゃんと誰にも見つからずに来たから。

 それに、もし誰か来るとしてもエレベーターの音はするし」


 もしエレベーターから誰か来たら、分かってても逃げ道は無いから慌ててるのだろうが、私達にはクラウスの空間魔法があるから緊急事態でも安心だ。この子達なら口止めを頼んだら守ってくれるだろうし。

 ……そう言えばバンバには見つかったが、報告される事もないだろうしノーカウントで良いだろう。


 だが、子供達が慌ててるのはそこでは無かった。


「違うの!もう見つかってるの!」


「見つかってる?」




「あいつは、()()()()()()()()の!」




 背後で振り上げられた鉄パイプに、私は全く気が付かなかった。

次回は2日です。

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