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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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静かな怒り

 大地を踏みしめ、力強く此方を睨むその魔物にクラウスは刀を握る力を強める。


 だが、私は目の前の魔物への警戒よりも、今日聞いたある言葉が思い出された。



『この子は馬車の牽引よりも警備が本業なんです』



「もしかして……バンバ?」



 私の問い掛けに、()()()()()睨んでいた魔物は目をパチクリと瞬かせる。

 そして私を見ると――



「ヒヒーン!!」



 大きな(いなな)きと共に私へ駆け寄ってくる。

 建物の防音性が優れていた為、中には聞こえていない様で誰かがやってくる様子はなかったが、少し胆を冷やした。


 バンバが喜んだ様に押し付けてくる顔を「よーしよーし」と撫でてやる。

 つい数秒前までの緊張感は何だったのかと言う事態にクラウスは呆れつつも警戒を解く。


「それで、大凡(おおよそ)の見当は付いてるが、そいつは?」


「私が助けたお馬さん!」


 正確には馬ではなくフォースホースと言う魔物。

 私達を狙った誘拐犯によって暴れさせられたであろう被害者だ。


「バンバの職場は此処だったんだね~……ってあれ?

 此処が黒幕のアジトだとしたら、なんで此処で働いてるバンバが事件に巻き込まれたの?」


「さぁな。実行犯がそれを知ってか知らずかもわからない。

 だが、少なくともバンバを捨て駒として利用しようとしたのは確かだ」


 そう言えば御者さんも、殺処分しないのは『()()()()()()()()()()()()』だって言っていた。

 つまりは私が誰か一人でも助け損ねたり、今の私みたいに魔法を使えない状態だったら、ほぼ間違いなく殺処分だったって事だ。

 誘拐犯の事が尚更許せなくなった。


「怒ってる暇があったら、さっさと助けに行くぞ」


 そう言って、迷いなく仮設トイレを開けるクラウス。

 バンバに手を振ってお別れしたら、私も後ろから付いて行く。


 便器は《故障中》と書かれた紙で塞がれてるが、間違いなく普通の仮設トイレだ。

 強いて言えば、バリアフリーなのか二人で入ってるのに狭くない程のスペースはあるが、やっぱりトイレはトイレだ。


 私が扉を閉めると、クラウスは水を流すレバーを左右にガチャガチャと動かし始めた。

 故障と書いてあった通り水は流れないが、まさか流れる水に乗って便器の中にでも入っていくつもりだったのか。例え清潔でもそんなのは嫌だと抗議しようとした瞬間――



 ガタン。



 トイレが一度揺れ、覚えのある浮遊感に襲われる。

 この感覚は間違いない。



「エレベーター……」



 仮設トイレの上には何もなかったので、恐らくは地下に降りているのだろう。


(だけど、機械の類いはこれまで全く見かけなかったのに、突然なんで?)


 そんな私の疑問はクラウスの知恵袋が解決してくれる。


「芯に巻きつけた頑丈な縄を、回転魔法でゆっくり解いてるんだろう。

 起動の鍵も簡単なダイヤル式だったが、多少の魔力は必要だったからな」


 ダイヤル式と言うのは、さっきのレバーだろう。

 あの短時間で世紀の大泥棒みたいな事を成し遂げたクラウスにも驚くが、このエレベーターが魔導具と言うのも十分驚きだ。

 エレベーターなんて乗り馴れてる筈なのに、芯にロープ巻きつけただけと言われると、突然落ちないか不安になる。

 ……まぁ、いざとなったらクラウスの『ゲート』で何処かに転移すれば平気か。


『探知』で建物を調べた時に空調室のパイプに一つだけ地下に繋がる物があったから、何処かに入り口はあるだろうと思っていたが、まさか庭こんな物があるとは考えなかったな」


 そんなクラウスの説明が終わると共に、エレベーターが止まる。

 扉を開くと、そこそこ広い部屋に檻が幾つも並べられている。


「子供達!」


 私が駆け寄ると怯えた様に檻の奥に隠れる三人の子供達。

 ワニにオウムに……多分アルマジロ。正直、アルマジロの尻尾なんて見ても分からないけれど、何にせよ被害者の獣人に間違いはない。


 子供達は血色も悪くはなく、体調に問題は無さそうだ。

 だが、どんなに健康に気を遣われていたとしても、何日もこんな所に閉じ込められてたら当然心は弱っていく。


 只の美少女である私にすら怯えてるその姿を見て、私は犯人達への怒りで拳を強く握りしめた。

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