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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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怪しまれない様に堂々と

「いらっしゃいませ」


 綺麗な御辞儀で迎えられ、緊張で背筋が伸びる。

 尤も、店員さんの上品な態度に(かしこ)まった訳ではない。



 此処が誘拐犯のアジトと思われる、バリトン商会だからだ。



「自然に振る舞え。

 隙を見て奥に忍び込むんだ。最初から怪しまれちゃ意味がない」


「わかってるって!」


 静かな店内では、そんな私達の内緒話さえ周りに聞こえてるんじゃないかとヒヤヒヤする。

 外の喧騒が全く聞こえない防音に優れた建物は、お客への配慮と考えたら感心する所なのだが、今はひたすら怪しく不気味に感じる。


(ふぅ……落ち着け私。作戦は単純だし平気平気)


 まず、まだ開店中の店内に客として入り込み、隙を見て『蜃気動』で透明になり店の奥まで忍び込む。

 クラウスの『探知』で子供達を見つけたら、一緒に衛兵の詰所に行ってミッションコンプリートだ。


 何故、領兵ではなく衛兵の詰所に連れて行くのかと言うと、被害者本人からの証言なら普段は捜査権のない衛兵も動けるらしい。

 普段は仕事が少ない分、緊急時は頼りになるそうだ。


(本当にメロディのアドバイスは助かる。ありがたやありがたや)


 そんな事を考えながら、適当に店の中を歩き回る。

 無理に店員さんから離れようとすると怪しまれるので、飽くまでも自然にだ。


 だが、どの売り場に行っても必ず店員さんの視線を感じる。

 話しかけられこそしないが、目的がバレてしまったのかと全身から冷や汗が滲み出る。


 そんな私を見たクラウスは少し腰を落とし、私の耳元で囁く。


「落ち着け。恐らくは只の万引き対策だ」


 その言葉を聞いて私はポンと手を叩き納得する。

 よくよく考えてみれば、此処は領主夫人のソプラ様も利用する様な高級店。

 目の前の小さな石鹸一つでも何千M(マネー)が飛んで行くのだ。万引きなんかが横行すれば、損失は計り知れないものになる為、対策に力を入れているのだろう。


「だが、困ったな。怪しまれなくても常に見られ続けるとなると、作戦が根本から覆るぞ」


「どうすべきか……」と悩むクラウスに、今度は私が安心させる様に囁く。


「天才美少女の明ちゃんにお任せだよ」


 驚くクラウスには答えず、私は敢えて店員さんに駆け寄って話しかける。



「すみません。トイレ貸してください!」



 ――――――



 私達が案内されたは、コンビニや飲食店の様な一人用の個室トイレだった。

 これならば丁度良い。中に入って鍵を閉めると、直ぐに隣の個室に入って行ったクラウスが『ゲート』でやってきた。


「確かにトイレならば誰にも見られる事は無いな。

 よく咄嗟に思いついたもんだ」


「クラウスの『万引き』って言葉から閃いたの。

 日本だとトイレに隠れて万引きする手口とかあったからね。

 でも私達が万引きしてない事は店員さん達がバッチリ確認してるんだから、怪しまれる事もない完璧な作戦でしょ!」


 渾身のドヤ顔で決めれば、クラウスは「凄い凄い」と言って二個目の飴玉を渡してくる。

 子供扱いされてる気もするが、私は大人なので今回は大目に見てあげよう。


『蜃気動』


 私達の姿が消え、時間との勝負が始まる。


 音を立てない様にゆっくりと扉を開き、店員さんの視線がない事を確認すると私達は急いで歩き出す。

 走って万が一何かにぶつかったら目も当てられないからね。


 獣人の店員さんが居れば『防臭』も使わなければならなかったが、 どうやらその必要はなさそうだ。


 バックヤードまでなんとか辿り着き、そのまま奥へと歩を進めていく。

 曲がり角を抜けると、廊下の窓から中庭が見える。まだまだ建物が奥へと続いてる事にげんなりしつつも、人は居なくなったので『蜃気動』は解除する。


「よし、見張りは頼んだぞ」


『探知』


 クラウスが広い建物の中を調べる為に集中している間、私は人が来ないか警戒する。

 とは言っても、元々人が来ない場所を探して此処まで来たのだ。人が来る気配なんて全くない。


 一応は警戒しつつも、暇なので中庭の景色を眺めてる。

 雲間からの月明かりに照らされて煌めく噴水は綺麗だが、同時に目に入る位置にある仮設トイレで台無しだ。


 そんな事を考えていると『探知』を終えたクラウスが話しかけてくる。


「誰か来たりしなかったか?」


「全然だよ。暇すぎて中庭の噴水眺めてたくらいだもん」


「噴水?」


 私の言葉で中庭の方へと振り返るクラウス。

 この様子からすると、中庭は『探知』の範囲に入れてなくて、噴水の存在には気付いて居なかったのかもしれない。


 すると、仮設トイレを見たクラウスは一切の迷いを見せずに言いきる。



「あそこだ」



 そのまま近くの入り口を開けて中庭に入っていくので、私も慌てて追いかける。


「待って待って。あのトイレに子供達が押し込められてるの?」


「惜しいが違うな。あれは只の――!」


 突然、クラウスが動きを止め、刀に手を掛ける。


「ど、どうしたの?」


 私の問いに、クラウスは静かに答える。



「……魔物だ」



 その言葉を聞いて、慌てて私も拳を握りファイティングポーズをとる。


 私達が見据える暗闇から、一頭の強力な魔物が姿を現した。

一回休み。次回は28日更新です。

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