だって聞かないから
この世界に来てから、今日で三週間。
向上心の塊な明ちゃんは、今日も今日とて魔法の訓練に勤しんでいる。
『サイコ!』
石を高速で飛ばし、狙いの葉っぱ全てを貫いた。
この魔法は物体を浮遊させて自由に操る事を目的としている。
だからこそ私の思うがまま、手足よりも自由自在なのだ。
綺麗に決めたら私の周りを高速回転させる。
水切りの様に空気の塊の上を跳ねさせて、最後は掌にそっと着陸させる。
我ながら惚れ惚れする出来だ。
コントロール、速度、芸術性。全てが完璧。
「どう?私の美しい必殺技は」
明ちゃんの妙技に呆けておる呆けておる。
口を開けて見ているクラウスに問う。
「凄く成長してるとは思うが……
お前、その……それ何処で拾った?」
あれ?私の技より、私の石の方が興味あるのか。
この石はサバイバルの初日に拾ってから毎日何かしらに使っていたが、クラウスにお世話になってからは使ったことなかったっけ。
「これは、この世界に来てから初めて拾った石で、大事な相棒なの」
自慢する様に頬擦りをする。
「言いにくいんだが、それは多分……
死んだ先代の爺さんの歯だぞ」
……は?
「いやいや、確かに牙とか言われたらそう見えなくはないけども!
こんなサイズの歯じゃ、そもそも口に入らないでしょ!」
そう、この石は私の掌よりも一回り程大きい。
先代のお爺さんが人間じゃないって言うならまだしも――
「龍になってる時にでも抜けたんだろ」
……は?
龍に成る?こいつは何を言ってるんだ?
将棋か?将棋の話をしてるのか?
「あ、そういや言ってなかったっけ。
俺達の種族は龍人って言って、龍に変身出来るんだ」
そう言うとクラウスの体は一気に巨大化する。
大きな牙。一対の翼。強靭な尻尾。十五メートル程の大きなドラゴンへと変わった。
「はああああああぁぁぁ!?!?!?」
私はその図体に負けない程の大声をあげた。
――――――
「なぁ、悪かったって。別に秘密にしてたつもりは無かったんだが……」
不貞腐れてる私はそっぽを向いて取り合わない。
「ほら、お前だって俺の種族は聞かなかったし、俺も龍の姿に成るの好きじゃないしさ。お互い様って事でな……」
「あーそうですか。私が一生懸命練習した技には驚かず、自分は生まれつきもので驚かせるのがお互い様だと」
「うっ、予想以上に面倒くさいな。
……というか何故俺は必死にこいつの機嫌をとってるんだ?」
「もうパパなんて嫌い!」
「誰がパパだ!」
一頻りクラウスで遊んで機嫌も持ち直してきた。
冷静になって考えてみれば、私はこの世界の事を何も知らない。
このままでは、またクラウスに驚かされることになる。
それは癪だ。少しずつ聞いていくとしよう。
「里の人達ってのも皆、龍になれるの?」
「龍の里って名前なくらいだしな。ほぼ全員がそうだ」
「……ほぼが気になり過ぎるんだけど」
「話がややこしくなるから、また今度話すよ」
ややこしくなるという事は、普通の人間って訳ではないのだろう。
知らない人達の話を一気に話されても、どうせ覚えられないので丁度良い。
今は知ってる人達の話に集中しよう。
「ねぇ、先代のお爺さんやクラウスは何故里を出たの?」
「出ていったと言うより、追い出されたってのが正確だな。
里では誰しも何かしらの役割が与えられるんだが、言ってしまえば研究者は変わり者を追い出す体の良い言い訳でな。
広大な土地を使い自由に研究し、研究成果として役に立つ物を里に納めるって役割だ。
爺さんはそれだけだ」
そう言えば、作物は「里の奴らに言われて作った」とか言っていた。
魔導具とかでは役に立つ成果認定されないのだろうか。
だが、今はそれよりも――
「……「爺さんは」って事はクラウスは違うの?」
クラウスは少し迷いながらも口を開いた。
「龍はどうやって飛ぶか知ってるか?」
「そりゃ翼をこう上下に動かして……」
私が身振り手振りで答えると、クラウスは静かに首を横に振る。
「龍の翼じゃ、自重を支える事は出来ないんだ。
だから風魔法か空気魔法を使って飛ぶ」
クラウスが空気魔法を使えないのは知っている。
それに、エアコンの魔導具は熱魔法と空間魔法で作ったと言っていた。
そこから導き出される答えは……
「もしかしてクラウスって――」
私が口にしようとしたことを肯定する様に頷くクラウス。
酷く悲しい顔をして続きの言葉を紡ぐ。
「俺は龍人の中でただ一人の……
〝飛べない龍〟なんだ」